第89話 エメラルドの願い
「ミザールの神殿へようこそ」
「着いた!」
「よーし! 早速花街に繰り出すか!」
「まだ朝だぞ! しかも神殿で何言ってんだ!」
「お前行かないのか? 何せドラゴン退治だし、悔いがないようにしないと、俺は行くぜ!」
「はあ〜〜」
そんな冒険者達の声が聞こえた。
「あーね、なるほどね」
紗耶香ちゃんが他所の男達の事情を察したようだ。
「リックさんやラウルさんも花街行くんですか?」
「俺は行くなら夕方になってからだな」
そうサラッと言ったのはリックさんだ。
「俺は大事な戦いの前にそんな気力や精力を使う事はしない」
ラウルさんはリックさんとは違って、行かないようだ。
てか、もしやラウルさんは戦闘後に行くタイプなのかな?
戦闘後に興奮を覚ます為に女を抱く男性がいると本で読んだ事がある。
「まず薬の類を仕入れて宿屋を決める。ドラゴン退治に行く者は、領主のくれた特別な札を見せれば色々半額で買える」
そう言ってラウルさんが神殿出口前で配る札を受け取った。
へー、ちゃんと配慮してくれてるんだなあ。
私達は市場で札を見せ、お薬などをお得な価格で買ってから、ミザールの街にある、同じ宿屋を取った。
下に併設された酒場兼、食堂でラウルさんとリックさんも落ちあった。
違う領地、街の食堂に興味があったから。
特産品とかあるかなって。
私は店員さんに声をかけた。
「あの、おすすめ料理はありますか?」
「うちのメリルールのお肉は美味しいよ」
店員さんはそう答えてくれた。
「メリルールはこの地域の羊の一種だ」
「じゃあそれをください」
リックさんがそう補足説明をくれたので、私達はそれを注文した。
コウタのリクエストの紗耶香ちゃんのお弁当は、明日の昼に食べる事になっている。
私は伊勢海老、紗耶香ちゃんはフィレ肉のステーキ。
平原の近くの安全そうな場所でバーベキューしようぜって事前に話をしている。
「本当だ、このお肉、臭みもなく美味しい」
口の中で噛むと、美味しい肉汁も出てくる。
旨味!
緑の野菜も食べる。付け合わせはキャベツだ。
肉料理にピッタリな野菜で、消化を助けてくれる。
酸味のあるドレッシングがかけてある。
「そう言えば、あの小さな女の子はどうしたんだ?」
「クリスなら養育費と一緒に赤星の女将さんに預けてきました」
ラウルさんの問いには、私の代わりにコウタが答えた。
「そうか。あそこの女将はいい人だから、大丈夫だろう」
良かった。
現地の人の評価がいいと安心できる。
「それであの子にはこっそりとお守りも持たせておいたんです。
エメラルドの石言葉が、確か……幸運、幸福、安定、夫婦愛、希望なので」
万が一、戻れなくても、預け先で、幸せになれるように。
「そうか。血縁でもないのに、そこまでするなんて、お前達は優しいな」
「お守りに宝石入れたのはカナデの案ですよ」
「そーですよー、優しいのはカナデっちです」
ラウルさんの優しげな眼差しが私に向けられた。
──照れる。
「一度助けたからには責任があるので、最低限はと」
「三人とも、今日はゆっくり休むんだぞ」
「もちろん、そうします」
リックさんの言葉に、コウタは真面目な顔で答えた。
「りょ」
「はい、私は念の為、睡眠薬も買いましたので」
準備はぬかりなく。
ドラゴン退治前に緊張して寝れないとか困るし。
寝不足でドラゴン退治はダメだ。
「……なあ、誰か胃薬あるか?」
「アホか、お前食べすぎだろ、いくら貴族様からの支給された札で安くなってるからって」
「討伐までの期間限定だからよ、今のうちじゃねえか」
他にもドラゴン退治を請け負っている冒険者がいて、食べ過ぎたようだ。
「こちら、胃薬です。銅貨三枚ですが、どうですか?」
そう言って席を立ったのはコウタだ。
「おお、ありがとよ」
冒険者はコウタに銅貨三枚を払って胃薬を受け取った。
コウタは受け取った銅貨三枚をポケットに突っ込んで、食堂を出てから神殿に寄って祈りを捧げ、お賽銭入れのような物があったので、そこに先程の銅貨を三枚投げ入れた。
私達も無事に勝てるようにとお祈りをした。
私はお賽銭に銀貨を投げた。
紗耶香ちゃんは金貨を投げた。
マジか!? いや、でも命がけだしね。
金貨も有りかも。
ラウルさんとリックさんの分もお願い追加で私も金貨を投入した。
コウタは「お前ら、マジかよ」と言った。
マジに決まってるでしょ! 命がけなんだし!
「サヤ思ったけど直前に肉は緊張して無理かもだし、夕食に食べようと思う」
「あ、いいよ。じゃあ今夜バーベキューね。公園か河川敷探そう」
「うん!」
「コータ君ももうお弁当はアイテムボックスにあるけど、食べる?」
「そうしようか。緊張で吐くともったいし」
* *
夜に宿近くの河川敷でバーベキューをすることにした。
リックさんはどこかに出かけたらしいので、せっかくなのでラウルさんも誘ってみた。
「大きなエビだな」
「えへへ、最後の晩餐になりかねないので大きいのにしました」
私がアイテムボックス偽装の適当魔法陣風呂敷から取り出したのは、ショップで買っておいた伊勢海老である。
バーベキューセットで伊勢海老やフィレ肉を焼いていく。
「良い肉だからほどほどの焼き加減でいいと思うよ」
「分かった!」
肉を焼く沙耶香ちゃんは真剣な眼差しだ。
コータは沙耶香ちゃんの作ったお弁当を黙々と食べているので、とりあえず聞いてみた。
「どれが美味しい?」
「ベーコン入りスクランブルエッグ」
「ああ、美味しいよね」
「サヤはね、卵焼きが無理でスクランブルエッグになるんだよ」
でもなるべく手料理にしようとして、そういうのも作ってあげたんだろう。
優しい。
「そんで、おにぎりも三角が無理なんで俵型になるんだ〜〜」
おにぎりの形なんてどうでもいい! 美少女JKのお弁当だもの!
「おにぎりも美味しいよ」
「あはは」
「沙耶香ちゃん、お肉もう焼けてる」
「よし! 食べるぞ!」
塩と焼肉のタレで食べるようだ。
私はシンプルに塩で伊勢海老を食べよう、ラウルさんと。
ちなみにライ君はカレーが良いというのでカレーを食わせている。
「エビも焼けました! ラウルさんもどうぞ」
「ありがとう」
おにぎりもある。中身が鮭。
「弁当にカツも入ってる」
コウタがカツを箸で掴んでいたので、沙耶香ちゃんが説明をした。
「それはオーブンで温めただけのものだけど、必ず勝つぞというゲン担ぎだよ!」
愛かな? 泣けてきそう。
「美味いな」
ラウルさんは伊勢海老を美味しそうに食べている。
「プリップリの伊勢海老! 甘みもある」
「……カナデっち、サヤのフィレ肉を一口サイズあげるから、ひと口貰えるかな?」
「あはは、いいよ~」
「カナデ、飲み物は?」
「あ、コーラとお茶があるよ」
「サヤもコーラ! あ、伊勢海老美味しい!」
「はいはい」
「じゃあ俺、とりあえずお茶、その後はコーラ」
「ラウルさんは何を飲みます?」
お酒も出せますけど、私は何がいいか一応聞いた。
「じゃあ、あの黒いの」
「コーラの良さを覚えましたね!」
「ああ」
私たちは、その夜、がっつりとバーベキューを楽しんだ。
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