第70話 雑貨屋と人助け
バーベキューの終わりに、スリの子の縄を解いて解放した。
「もう二度とスリなんてするなよ」
そうコウタが説教しても、ツンとした顔で少年は走って行った。
聞く耳持っているのかな? いないかな?
*
翌日、またコウタとライ君は森に修行へ行った。
レベルアップしたおかげでマニキュアの仕入れが可能になった紗耶香ちゃん。
今日、私達女子二人は、市場で雑貨屋をする。
化粧品、シャンプー、リンスの他に、マニキュアと除光液も置いてみた。
それと食べ物を目当てに来たお客様用にパンも用意してある。
今日は売り子の私も、下品にならないくらいの綺麗な、完熟前のさくらんぼ色のマニキュアを塗った。
沙耶香ちゃんは見た目が華やか系なので、もっと真っ赤なマニキュアを塗っている。
さくらんぼと大輪のバラくらいの印象の違いがあるとでも言えばいいだろうか。
「今日の売り物は化粧品とパンなのね?」
主婦っぽい女性客が来た。
「はい、お客様。こちらのアンパンが甘いのです。
こっちの三日月の形の物は塩味です。
こちらのパンは表面がカリッとしていて美味しいですよ」
「パンを両方買うわ。四つずつ」
主婦らしき人の次は、ちょっといい服を着たお嬢さんが来た。
お金持ちの娘なのかな? お付きの人がいる。メイド?
「私はこの爪紅を買いたいのだけど」
「はい、こちらは塗った爪の色を取りたい時用の除光液とセットになっております。
そして乾くまで何も出来ませんが、大丈夫ですか?」
「え、そうなの?」
「はい。乾く前にうっかり服など触って汚れたら大変なので。
今、お時間がおありなら、ここで私が爪を塗らせていただきますが」
テントの下、奥にはテーブルセットを設置してあるし、アナログ作家のアシスタントもやってたオタクなので、私は色塗りも出来るんだわ。
「塗って貰うと、そのお値段は?」
「銀貨2枚です」
「……じゃあ、お願いしようかしら」
「はい」
「わあ! 綺麗ね!」
お代はお付きの女性が払ってくれた。やはり金持ち!
「ありがとうございます」
お客様は私の塗りに満足して帰って行った。
「へー、カナデっち、ネイル上手いんじゃん!」
「つまりは色を塗る訳だから」
「細いネイル用の筆もマニキュアとセットで買えて良かったよね。
次はサヤもお客さんのネイルやりたい」
「あ、そうなの、じゃあ次は紗耶香ちゃんにお願いするね」
「おけ」
「でも布花や羽根ペンにだけマニキュアを使うのが勿体無い気がして、マニキュアも持って来たけど良かったね、何か新鮮」
ネイルアーティストの気分を味わえた。
いや、ネイリストか。ネイルアーティストは言いすぎた。
「だよね〜〜、新しい商品があった方が、飽きられずに済むだろうし」
「パンくれ、甘くないのを3つ」
冒険者風の男性客が来た。やはり食べ物目当ての人が来てる。
「かしこまり!」
「チェリーみたいな綺麗な色ねぇ、美味しそうだし、うっとりしちゃう」
私の爪を見て、華やかな装いの女性客が言った。
二十代くらいの大人の女性だ。
「仕事の最中も綺麗な指先の色を見ると、気分が上がるんで、ぜひ一度体験してみてください」
「でも、私、手先が不器用だから、きっと塗ろうとして、はみ出すわ」
「アタシで良ければ塗りますよ〜、お値段は銀貨二枚なんですけど、あ、色を取りたくなったらまた店に来て下さい、こっちに除光液あるんで」
ペラペラとセールストークをする紗耶香ちゃん。
「じゃあ、お願いしようかしら。先にお代は払っておくわ」
お客様は銀貨を鞄から二枚出した。
乾くまで何も触らない方がいいので賢明な判断だ。
「あざます!」
お客様と紗耶香ちゃんは早速テーブルと椅子のある方に向かった。
「ところで、お客様、とてもお綺麗ですね」
私はネイルを塗られてるお客様をチラ見して声をかけた。
「ありがとう、歌を歌う商売をしてるの」
「歌手!?」
歌手だと分かって紗耶香もびっくりしたようだ。
「ええ、公演でこちらに来ているのよ」
「わあ~~、歌手の方のネイル出来るなんて凄い光栄です」
紗耶香ちゃんがマジで嬉しそうな顔をして言った。
お客様はオペラ歌手だった。
私もびっくりした。
こんな市場に、オペラ歌手が来るのか。
いや、別に貴族の令嬢でもないなら来てもおかしくはないか。
「終わりです。何も触らないように気をつけてください」
「分かったわ」
夕刻。
私と紗耶香ちゃんは仕事終わりに、久しぶりに他人の作った飯を食おうって事で、酒場兼、食堂に行った。
夜の異世界の酒屋兼、食堂の雰囲気はドキドキして気分が高揚する。
いかにもな風体の冒険者と、仕事終わりの職人らしき男性達、何やら艶っぽい女性達もいる。
前に知り合った劇団員もいた。
今度は衣装が間に合わないとかで困っていた。
色々とトラブルに遭遇する劇団である。
「ねえ紗耶香ちゃん、まだハンドミシンもあるし、協力する?」
「ああ、あれが有れば縫うの早いよね、内職みたいだけど、また人助けだと思ってやろうか」
そんな訳で私達は衣装を縫う内職を急遽引き受けたのだった。
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