第59話 乙女の涙と猪鍋

「あ! カナデっち、玉ねぎある?」

「あるよ、味噌汁に入れたいの?」

「瓶に入れる涙、玉ねぎ切れば出るじゃん!」

「あ! 紗耶香ちゃん! 賢い!」


「そうなの、サヤ、たまにだけど、賢いの。学校のテストはアレだけど」

「だが、少し待って欲しい、悲しみで流す涙と、玉ねぎ成分で流す涙はだいぶん違うのでは?」


「そう言われると……そうかもしんない……」

「悲しい話を思い出して泣く方が効果あるかな?

私の推しキャラは良く死ぬタイプだし、思い出せば泣けるから、後でやるわ」

「じゃあ、サヤもご飯の後で何か悲しい事考えて泣いてみるね」



 私は自室で推しの死にシーンを思い出し、泣いて、涙を採取した。

 こんなんでマジで大丈夫だろうか?



 * *


 ラウルさんとリックさんが市場のお店に来てくれた。


「お、いたいた、化粧品の注文が入ったぞ、貴族様から」

「マ!? いくつかはすぐ納品できまっス!」


 そう言って、紗耶香ちゃんはゴソゴソと鞄を漁った。

 

「ありがとうございます! 

助かります。最近武器防具とか揃えてて、色々物入りで」

「お前達、何処か、冒険に行くのか?」


「多少はレベルを上げてから、バジリスクの森に……。

コウタの両親はそこで石化してるってとある占い師さんから情報を貰って……」


「それとダンジョンにも! そこにある〜〜、聖なる何たらの水?

石化を解くありがたい水はダンジョンにあるらしくてぇ」


「なんと、バジリスクのいる森とはな」


 リックさんがすごく驚いた顔をしてる。


「まさか護衛も付けずに行くつもりか?」



 ラウルさんにも心配そうな顔をされた。



「バジリスクの森なんかについて来てくれる冒険者いますかね?」


 私はやはり無謀なのかな? と思って聞いてみた。


「いるさ、ここに」


 ラウルさんが親指をクイっと自分に向けて指差している。感激!


「ラ、ラウルさん……」

「えー! カンゲキじゃん!? 良かったね、カナデっち!

あ、リックさん、化粧品、化粧水と口紅、在庫20個ずつありまーす」



「おう!……ところで、コウタは?」


 リックさんは背負っていた鞄からスッと袋を三つ出して紗耶香ちゃん手渡しつつ、キョロキョロと周囲を見渡す。


「コウタはライ君と近くの森に修行に行ってます」

「そうか、修行か」


 我々は市場を急に休むの良くないから稼いで来いと言われてる……。

 自分はいいのか……ってツッコミたい気もするけど、両親の為だもんね。


「あざまし!」


 さっき受け取った袋の中身は化粧品のお金なんだろう、ざっと確認を終えた紗耶香ちゃんがお礼を言った。


 売り上げ袋はすぐにアイテムボックスにしまったようで、良かった。

 魔力が動く気配を察する事でなんとなく分かるようになっている。

 

 それにしても、ラウルさんがバジリスクの森とかについて来てくれるなら、私も修行したいな。

 あんまり足手纏いにはなりたくないし。



 * 


 夕方、仕事を終えて、私と紗耶香ちゃんは帰りに銭湯に寄って、女の子の赤ちゃんから涙を少し貰って帰った。

 母親に事情を話すと、快く協力してくれた。

 人見知りでどうせ他人が抱っこするとよく泣くとの事で、謝礼金を渡して、むしろ感謝された。



 私は帰宅後、リビングで庭を見ながら羽根ペンを作ってると、ライ君とコウタが帰って来るのが見えた。


 紗耶香ちゃんが二人のお出迎えに玄関に駆けて行った。

 


「え? コータ君、帽子と布花買って来てくれたの!?」

「ああ、ちょっと修行の帰りに雑貨店の前を通ったら見つけて」

「ありがと! この帽子を羽根でデコって遊ぶわ」


 玄関から何か聞こえた。

 コウタのやつ、紗耶香ちゃんにお土産買って来たの?

 ソレって、機嫌取りなんだろうか?



「あ、カナデっち、今作ってるの羽根ペンだよね、サヤのネイルチップつけてデコってみる?」


「え? そんなの今あるの?」

「うん、思い出したけど、修学旅行の夜に暇だったら友達の爪とかデコって遊ぼうかと、鞄に入れて来たんだった」


 アイテムボックスから、修学旅行の旅行鞄を出して、中をあさる紗耶香ちゃん。


「みっけ! はい!」


 ネイル用のデコパーツを渡してもらった。


「ありがとう羽根の根本にデコると可愛いかも」

「いいじゃん、盛りに盛りなよ」


「ほら、いるかどうか分からないが、お前の分だ」


 コウタが私にもお土産をくれた。

 アイテムボックスから出して来たそれは可愛い布花のコサージュだった。

 仕事を放り出して修行を始めた詫び?



「布花のコサージュだね。可愛い。ありがとう」

「今日は森で、でかい猪みたいなのを倒して俺はレベルアップした」


「え!? もうレベルアップしたんだ! おめでとう!」

「ああ、それで肉もゲットしたから、売り物に使うなり、好きにしてくれ」

「……なるほど、分かった」



 うーんこのままだとレベルに差がだいぶ出来てしまいそうだわ。

 でもせっかく食材が手に入ったし、仕事でも使いたい気はする。

 貧乏性。



「明日は休憩所でカレーか猪鍋でも出そうか、お肉あるから」

「それはいいけどぉ、野菜はどうするん? カレーと鍋で使う野菜変わるよね」


「えっと、スキルショップで値段見て決めようかな」

「あーね」

「それが良いだろうな」



「豆腐、白菜、長ネギ、春菊、えのきが安いから猪鍋にしよ」

「りょ。うちらの今夜のオカズも鍋にする?」

「そうだね、味見がてら、そうしようか。アイテムボックスあるおかげで作り置きも出来るし」


 次のメニューは猪鍋に決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る