第54話 ドラグアーロ
交渉は私に任せてと断って、私は雑貨屋さんで店主のおじさんに話しかけた。
コウタ達は少し後ろで見守ってくれている。
「この雑貨を作った人とか、木工細工、雑貨作りの得意な人の知り合いがいたら紹介していただけませんか? 無論、ただでとは言いません。
これ……どうぞ!」
私は小袋を鞄から出した。
おじさんは巾着袋を開けて、白い粉をペロリと舐めた。
「これは……砂糖?」
「はい」
「うん、上質な砂糖のようだ、紹介する職人は一人でいいのか」
「できれば沢山の器を加工して作って欲しいので、冬の間の手仕事にもなるだろうし、複数人いると助かります」
「よっしゃ、仕事終わりにでも良ければ職人の家に連れて行ってやる」
「ありがとうございます!」
「もうじき、鐘が鳴ったら店仕舞いだからよ、そん時顔出してくれや」
「はい!」
「交渉を全部カナデに任せてしまったが、うまくいったようだな」
「カナデっち、オツ〜〜。やったね」
「とりあえず鐘が鳴るまでは時間多少あるから食材を買っておこう」
「よし、お買い得な食材を探そう」
「終了間際にタイムセールみたいなのないかな〜〜?」
「あーね、売り切りたい人が値引きしてるかも」
「はーい! 本日閉店間際! お肉お安くしとくよ! お得だよ!」
「あ、千載一遇! あそこに行ってみよう」
そう言って私達は肉屋方面に歩き出したんだけど、別方向からも誘惑が。
「お客さ〜ん! 野菜はどうかね〜〜!? もう店仕舞いだし! 安くしとくよ〜!」
「あ、あっちも!」
「よし! 手分けしよう! 肉が男子! 野菜女子!」
「はーい」
「りょ」
「サヤ、野菜はどれが良いとか分からないな、カナデッチ、分かる?
サイズ大きいのでいい?」
「とりま、レタスっぽいこれはひっくり返して、芯の綺麗なやつを選ぼう」
「あ、これ、綺麗じゃね?」
「うん、店で使うし、そう言う芯の綺麗なレタスっぽいのを三つは買おう」
「綺麗なお嬢さん達、あと、にんじんとかぼちゃもどうかね?」
「えっと、玉ねぎが欲しいんですけど」
「玉ねぎもお安くしとくよ」
「ありがとうございます、この残り玉ねぎ全部とにんじん5カゴ分買うので、このかぼちゃ7個分、半値になりませんか?
大きいかぼちゃを持ち帰るのは嵩張るし、重いでしょう?」
「あはは、お嬢さん、上手いねえ、良いよ、かぼちゃ半額で」
やった〜〜! 値切り成功。 私もこっちに来て図太くなったものです。
「はい、ありがとう、お嬢さん達はこの荷物を全部持てるのかい?」
商品を私達の前に並べつつも、店主のおばさんは心配そうに言う。
「あ、はい、魔法の布に入るので」
鞄に入れたいけど、かぼちゃのサイズがでかいもんで、鞄から出した布を開いて、偽装した上で、私はアイテムボックスを使用して入れた。
「おお、良いもの持ってるねえ。お貴族様のお使い中なのかね?」
「うふふ、実はそうなんです」
そうだ、着替えるのを忘れて、今は綺麗目ワンピースのまま市場に来てたんだわ。
貴族の家に行った帰りなだけで貴族のお使いってのは嘘だけど、でも貴族の関係者と思わせた方が、襲われにくいかもって、一瞬思った。
今、この布がめちゃくちゃ金目の物に見えると思うから。
「あ、コータ君達、戻って来たよ」
「うん……あっ!」
布を畳んで鞄に仕舞おうとした瞬間、突然横から男の腕が出て来て、布を掴んだ。
「ちょっ! 泥棒!」
紗耶香ちゃんがそう叫んだと思ったら、鈍い音がした。
ゴッ!!
「ぐあっ!!」
素早い身のこなしでジャンプしたライ君が、なんと布を盗んで走り去ろうとした泥棒の足を払うように蹴った。
倒れ込んだ泥棒から布を奪い返して、あっという間に制圧して、男の上に馬乗りになった。
「コノヌノヲ」
「はい! ありがとう!」
私はライ君から取り返した布を受け取り、鞄に突っ込んだ。
流石戦闘民族、かなり強いわ!
──でも、しまったなあ。
逆に貴族のお使いって言った方が本物の金目の物を持ってると見られたかな?
後は治安維持の警備隊に泥棒を引き渡した。
「カナデ、大丈夫か? 怪我は無いか?」
「うん、コウタ、私は大丈夫。布を取られただけだけど、ライ君が凄い速さで取り返してくれたし」
「俺の失策だ。男女で分けるより、男女ペアで分けるべきだったかもな」
「どっちにしろこの布が魅力的に見えたんだろうし……」
ゴーン、ゴーン。
「あ! 約束の時間だよ! 雑貨屋さんの所に行かないと!」
ちょっとびっくりしたけど、ライ君がいてよかった!
私達は約束通り、その後は雑貨屋さんと合流後、馬車で後方からついて行って、職人さんの家に行って、職人さんを数人紹介してもらった。
コウタが作った見本の竹細工を預けて、職人さんに器制作を依頼。
その場でアイテムボックス内の竹も偽装布から出し、職人に渡してから家に帰った。
家に帰ってから、ライ君にネタバラシ。
「私達三人はアイテムボックスという、亜空間収納魔法のスキルを持っているけど、とても貴重なスキルだし、誘拐されたりしないように、魔法の鞄や布を使ってるように見せかけていたの」
「ソウダッタンデスカ」
「それと、特殊なスキルはもう一つ、うん、なんか甘いものでも買おう」
私はライ君の目の前でステータスを開き、スキルショップから、チョコレートとジュースを買った。
「ナニモナイクウカンカラ……」
ライ君は空中から急に物が出てきて驚いている様子。
「ん? ライ君、ここにある、文字とか、見えない?」
私はステータス画面を指差した。
見えてない? 私の目の前にショップの商品リストとか表示されてるんだけど。
「いいえ、ナニモナイトコ、ユビサシテタラ、モノガキュウニ……」
「あ、このステータス画面、もしかして俺達にしか見えないのか!」
「そうなんだ〜。壁の裏でコソコソと買い物してたけど、画面は見えて無かったんだ」
「あ! サヤは料理人ジョブついてないけど、女優レベルと異世界人レベルは上がってる!」
「イセカイジン?」
ライ君がキョトンとしてる。
「私達は、実はこの世の、この世界の住人ではないの、遠い世界から、なぜか紛れ込んだというか、偶然?
この世界に来たの。でも、無害よ! ただの学生だったし」
「コノセカイノモノデハナイ……」
「でも基本的には平和主義の無害な人間だから! ただ平穏に生きていきたいだけ」
コウタも慌てて言い募る。
「そう言えば〜〜、戦闘民族って一体どういうの? 強いのはわかるんだけど」
「サバクデ、ムルイノツヨサヲホコル、ミンゾクデス。フダンハヨウヘイヤ、ショウタイノゴエイナドヲヨクシテイル」
砂漠で無類の強さを誇る民族で、普段は傭兵や、商隊の護衛などをよくしている。とな。
へ──! 強い民族だから傭兵稼業の人が多いんだ!
「砂漠出身なんだ! 過酷なとこに住んでたんだね〜〜」
紗耶香ちゃんがお菓子とジュースをテーブルの上に並べつつそう言うと、ライ君の口からわりと重い話しが出て来た。
「ハイ、オアシスノ、ウバイアイデ、チナマグサイ、アラソイモオオクテ、イツシカ、セントウミンゾクト、ヨバレテイマシタ」
「オアシスの奪い合いか、水は生きるのに大事だものね。
水の利権で殺し合いは古来から地球でもあったよね」
「へー、そうなんだ」
紗耶香ちゃんは知らなかったようだ。
次にコウタが質問した。
「ライ、民族の正式な名前とかは無いのか?」
「ドラグアーロ」
「なる、戦闘民族、ドラグアーロって、言うんだね〜」
ドラゴンの血でも引いてそうな響きだなと、私は思った。
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