第51話 貴族の館で手料理を

 ついに伯爵令嬢のソフィアナ様に、私達が作ったハンバーグとエビグラタンを食べていただく時が来た。


 華麗な貴族の食堂のテーブルの上に我々の手料理が並んだ。

 我々にとっては家庭料理でも、並べる場所が貴族の館のテーブルの上なので、なんだか立派に見えてくる。


「皆、ありがとう、とても食欲をそそる香りがするわね」

「お口に合えばよいのですが……」


「いただくわ」  


 まず、ソフィアナ様はハンバーグにフォークとナイフを入れた。

 ハンバーグのど真ん中を切ると、肉汁が溢れ出す。

 小さく切り分けて、口に入れる。


「……美味しい……!!」


 ほっとした。心底ほっとした。

 セーフ! 


 次は、グラタン。


 ソフィアナ様はスプーンに持ち替えて、グラタンを口に入れた。


「…………っ!! これは、とても好みの味だわ」    



 やった!!



「こんがりとした表面は香ばしく、とろりとした滑らかな舌触りの白いソースも美味しいし、エビもプリプリして旨味も出ているわ」



 さすがグラタン! 

 強い! 女性や子供に対し、本当に強い! 



「褒美をあげなくてはね」

「え? 褒美?」

「あなた達、何か欲しい物はあるかしら?」



 え!?


 急にそんなこと言われても、お金以外、ちょっと思いつかない。


 でも正直に金くれ! って言いにくいわ。

 常識の範囲内で何かいい物……


 私はコウタと沙也加ちゃんの方を見た。

 どちらもぱっとは思いつかないようで、固まっている。


 あ、私はふと、重大な事を思い出し、願いを口にした。


「えっと。これはあくまで私の希望で、他の二人の願う事は分かりませんが、万が一、私達三人の誰かが病気や怪我などになった時に適切な治療を受けたいと思います」  


「いい治療師を派遣しましょう」


 やった! 貴族の派遣してくれる治療師なら、かなり安心できる! 

 抗生物質とかはなさそうなこの世界の医療事情は不安だったの!


「「「ありがとうございます!」」」



 三人一緒にお礼を言った紗耶香ちゃんであったが、私と同じように、個人の希望とばかりに口を開いた。



「あの、私個人は……移動手段が徒歩か乗り合い馬車なので、何か乗り物が欲しいと思っております」


 紗耶香ちゃんは徒歩移動が怠いらしい。

 確かに。と、私も思った。


「では馬と馬車か荷馬車をあげましょう」  



 マシで!?

 馬小屋ついてる家で良かった!


「我々は商人なので、幌のある荷馬車だと助かります」



 ナイス! 良い事言ったわね、コウタ!



「で、コウタでしたか? 貴方自身の願いは?」 


 まさか、本当に一人一個ずつ願いを叶えてくれるなんて! 太っ腹!

 言ってみるもんだね!


「情報……平民の私共でも大きな図書館などに、入る為の権利が有れば……助かります」


「良いでしょう」


 ソフィアナ様は首から下げるタイプのネームタグのような物を三人分もくれた。


 漫画で冒険者が認識証として持ってる物に似てるけど、これにはスキア伯爵家の名前と紋章が入ってる。



「これで王都の図書館にも入れるわ。

私の家にある書庫にも興味があるなら、入って本を読んでも構わないわ」 


「ありがとうございます!」


 多分、この世界は未だ紙が貴重品なら本も高価だろうに、自宅の財産たる本を読ませてくださるとは!


 ありがたいね。



「王都……ですか。でもきっとかなり遠いのでしょうね?」


 私は位置を知らない……。


「春になったら大きなパーティーやお茶会があるから、その時にあなた達も私が連れて行ってあげましょう」


 なんと! 凄い展開! 僥倖?


「あ、ありがとうございます!」


 王都って王様がいるとこなのよね?

 すごーい!

 

「それと、馬の世話をする御者兼下人もつけましょう。家に部屋は余っているかしら?」

「だ、大丈夫です!」

 

 物が多い部屋を片付けたらいけると思うので、私は即座に大丈夫だと言った。


 それにしても凄い!

 人間までついてくる!


 養う家族が増えるけど、確かに我々に御者の経験などない。

 いてくれた方が馬のためにもいい。

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