シーズン3
第44話 冬支度の時期
昨日は厨房の片付けに疲れて翌日のメニューの相談をせずに寝てしまい、ラウルさんを送り出して朝から緊急ミーティング。
「やっぱ休憩所、だいぶ涼しくなってきたし、ホットのメニューがいるかな。
紅茶とホットドッグとか。パンに焼いたウインナーソーセージ挟むだけとかどうかな」
フルーツをカットしてサイダーを入れるだけの休憩所が楽だったなぁって、意識が楽な方向に流れがちな私はそんな事を提案した。
ホットドッグは紅葉見る時も作ったけど。
「パンに挟むのはソーセージとレタスで良いのは楽だよね。
でもケチャップと……前回は節約で省略したけど、マスタードはそろそろ欲しいかな。
サヤ、実はピリッとしたのも好きだし」
胡椒の売り上げで金貨が入って気が大きくなっている気がする。
「小さくていいならロールパンに挟む?
マーガリン入りのやつスキルで買ってさ」
「あれ、でも冷静に考えたら作業は簡単だけどウインナーソーセージの原価はけっこうするんじゃないか?
前回はたまたまソーセージがこっちで安く売ってて良かったけど」
コウタは日本でのウインナーソーセージの価格を思い出しているみたい。
魚肉ソーセージなら割と安いけど、良いウインナーソーセージってそこそこ良いお値段するよね。
「そこはやっぱ商人として長期契約か大量購入で値切るとか腕の見せ所じゃない」
「それはそうだけど、一度に沢山作るのならカレーとかも良くないか?
パンは安いの買えばいい」
「もしかしてコウタはカレーが食べたいだけじゃない?」
「え、確かにカレーは食べたいけど、ワイルドボアのカレーはリックさんやラウルさん達にも好評だったし」
「じゃーさ、いっそ、おでんとかどう?
サヤ、出汁が滲みっしみの大根食べたい」
紗耶香ちゃんから急におでん案が出て来た。
「俺、なんとなくおでんは冬まで取っておきたい」
「取っておきたいって、コンビニだって秋には肉まんとおでんを解禁するだろうに」
私はやや呆れて反論したんだけど、コウタは微妙にズレた話をしだした。
「そういや俺、泊まりの時にラウルさんに聞いたけど、そもそも冬支度の季節なんだよ、保存の効く塩漬け肉とか貯蔵するんだって」
ねえ、会話が飛んだと言うか、とっ散らかってない?
次の休憩所のメニューを何にするかって話じゃなかった?
「……あー、ベーコンとか? ベーコンは良いよね、スクランブルエッグに混ぜて焼くやつならサヤでもたまに作ってた」
「じゃあとりあえず予算の問題なら肉屋に行って決める?」
「でもとりあえず今日の仕込み時間内に間に合うのにしないとだぞ」
あ、朝から市場で肉屋寄って探す時間があんまり無いんだわ。
「スキルショップでウインナー買うと、セールでも無いとそこそこ高いから、いっそコウタの言う通りカレーにしようか、玉ねぎとひき肉のカレーなら牛肉オンリーより節約出来る」
私はラウルさんがカレーを美味しく食べていた事を思い出したのでカレーでいい気がして来た。
「じゃあ今回は玉ねぎとひき肉カレーで、冬になったらおでんにしよ!
大根と餅巾着必須でネ!」
紗耶香ちゃんがおでんの大根と餅巾着が好きなのは分かった。
*
市場でカレーを煮込むと、香りに誘われて、人が集まって来た。
本日は休憩所兼、軽食の日って事にした。
「本日はカレーとパンです。
カレーがやや辛いので、パンにつけて食べると良いですよ。
ライスが良い人はカレーとライスでお召し上がりください。
お子様には少し辛いので、オヤツのビスケットかパンをどうぞ!」
本日は私が呼び込みをして、声を張った。
カレーは念の為、中辛にしておいた。
パンは食パンが安かったからそれにした。
カレーとセットで二枚付ける。
子供用には安売りしてたビスケットを私がスキルショップで仕入れた。
「飲み物は冷たいアイスティーと温かい紅茶の二種アリマース」
紗耶香ちゃんが飲み物の説明係。
「今日はけっこう涼しいから温かい紅茶とビスケットを」
「かしこまり!」
「カレーとパンで、飲み物は水でいい」
「かしこまりました」
「このカレーっての、美味いな。リックに話は聞いていたんだが」
「あ、リックさんのお知り合いですか、ありがとうございます」
そう言えばこのお客様、冒険者系の服装だなと私は気が付いた。
「このカレーっての、パン付きで持ち帰りできるか?」
う! ヤバイ!
休憩所は食べて行く所なので持ち帰りの用意が無いのよ。
でもせっかく味を気にいってくれたし、無下にも出来ない。
「申し訳ありません、カレーは容器の用意がありません、何かご自分でお持ちですか?」
「えーと、コップでもいいか?」
冒険者さんは鞄からコップを出した。
「蓋がありませんが、大丈夫ですか?」
私はカレーを溢さないように気をつけて持ち運べるか不安になった。
さらに片手は確実に塞がるんだけど。
「油紙で蓋して紐で縛れば、手に持って行く分は大丈夫だとは思いますが、鞄に入れるのは倒れた時が危険です」
コウタが油紙を蓋にと、知恵を出してくれた。
「ああ、近い場所にいる友達の差し入れにするから、手で持っていくよ、油紙で蓋してくれるか? パンは手持ちの布に包んで行く」
友達が近場にいるならなんとかなるか。
「かしこまりました」
コウタがお客様からコップを受け取り、カレーを注ぎ、油紙で蓋をした。
安売りしてた柔らかい食パンはお客様が自分で手持ちの布に包んだ。
安売り食パンでもこの世界の安いパンは硬いのが多いのでこちらでは上等な部類。
「カレーとライス」
「へい! カレーライス一丁!」
突然食堂のにーちゃん口調になるコウタ。
「アイスティーとビスケット」
「かしこまり!」
「温かいのと軽く食べられるビスケットをお願いしようかねえ」
お、年配の女性だ。
「はい、ただいま。紅茶とビスケット入りまーす」
* *
本日の休憩所も好評で、私達は胸を撫で下ろした。
「紙コップやラップが仕入れられたら良かったんだけどね」
持ち帰りを希望されて焦ったわ。
市場内を雑談しつつ、更に安売り食材をも探しつつ、移動する私達。
「スキルショップに雑貨屋が入ればいいけどな。さてこれからの話だが……」
「食堂開店する時はちょっとお値段するかもだけどコウタの金物枠で圧力鍋とか買う? 時短用に」
「それを買うならサヤ、角煮食べたい! どっちか作れる?」
紗耶香ちゃんは期待に満ちた眼差しで私とコウタを見た。
「ああ、角煮美味いよね、買うと高いから俺はいつも自分で作ってた」
「私も作れるよ」
「やった! 二人とも優秀!」
「あ、鮮度も良さそうな豚肉の安売りあったぞ。
冬支度にも良いし、買っておくか」
「いいね」
「ベーコンと角煮用!」
雑談しつつも周囲をしっかり見ていたコウタはお得なお肉屋を見つけた。
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