第43話 朝食と引っ越し祝い

「おはようコウタ、昨夜ラウルさんと何か話した? 包み隠さず話して欲しいな」



 私は朝一で顔を洗いに来たコウタを洗い場で待ち伏せて質問をしている。

 壁から半分だけ顔を出して……。


「カナデ、壁から半分見切れながら一体何を期待してるのか知らんが、真面目な話しかしてないぞ」

「私がどんな話を期待したと思ってるの?」

「漫画で読むような修学旅行の夜みたいな会話……いわゆる恋バナとか」


「ラウルさんが恋バナだの、女風呂覗きに行こうとか言うはず無いからそんな話は期待していない。そもそも修学旅行に行けてないわよね、私達」



 修学旅行に行こうとして異世界転移で今、ここにいる。



「そうだけど漫画、小説、アニメで定番のアレは何度も見たり読んだりした」


「それで、真面目な話ってどんな? ラウルさんの家族構成とか出身地とか誕生日がいつとか故郷でこんな事があったとかいう、個人エピソードは聞いたかしら?」


「そんなプライベートな話じゃなくて、この世界に銀行があるのかとか、冒険者がよく使う修業の場や狩場はどこかとか、どんな食べ物を好むとかは聞いた」


 ラウルさんの食の好み!?


「どんな食べ物を、好むの!?」



 コウタは返事を待つ私を一旦、放置プレイして、顔を洗った。

 この野郎……。



「……冒険者全般の話、やっぱり動き回って汗をかくし、塩分の入った物。栄養が豊富で力になるもの。肉が人気。あ、銀行は商業ギルドや冒険者ギルドにもあるってさ」


「ふーん、銀行あるんだ。それとやっぱりお肉は強いな……」



 私はなるほど、と、思った。



「魚は味は良いけど小骨が多いのに当たると食うのに時間がかかる。

冒険の最中は常に魔物出現する危険があって警戒中だから、街にいてゆっくり出来る時以外はあまり食べないようだ。

むろん、現場で簡単に手に入る獲物がそれしか無い場合や、狩りの獲物が魚の魔物ならその限りではないが」



「ふうん、じゃあ、せっかく街にいる間なら、栄養のバランスを考えて、お魚を朝食に出そうかな、健康で長生きして欲しいし」



「俺は朝食なら焼き鮭が良い。それ以外なら鯖味噌か塩鯖……」

「コウタの好みは聞いてないけど、朝の焼き鮭は定番だし、良いわ、スキルで鮭を買う」

「ワカメの酢の物かほうれん草の白あえとか、豆腐もつけてくれていいぞ」



 ラウルさんでもないのに注文が多い男ね。

 どうせ付け合わせも出すから良いけど


「サヤ、ほうれん草なら白あえより胡麻和えの方が好き……おは〜〜」

「あ、おはよう紗耶香ちゃん、コウタの焼き鮭のリクは聞くからほうれん草は胡麻和えにしとくね」


「おはよう、水木さん。俺は胡麻和えも好きだから問題無いな」



 はいはい。



「あ、カナデっち、ラウルさんが庭で素振りしてるよ〜〜」

「本当? 急いで買い物して朝食の準備しよう」


 運動の後はお腹が空くはず!

 それにしても日課のトレーニングかな?

 えらいな!


 私はそんなえらいラウルさんの為に食材をショップから仕入れた。


 白いご飯に焼き鮭、副菜にほうれん草の胡麻和えとお味噌汁。

 デザート枠にブルーベリー入りヨーグルト。


 これが本日の朝食。



「お、朝から色々あってすごいな」



 テーブルに並べてある食事を見てラウルさんが驚いている。

 表情から、喜んではいるみたい。



「ラウルさん、いつもはどんな朝食なんですか?」

「スープとパンとか、パンと卵とか、二種くらいだな」

「そうなんですか」



 ちょっと詫びしいな。

 倹約家なのかもしれないけど。



「基本的に普通平民てそんなもんだぞ」


 ラウルさんはそう言葉を続けた。

 まあ日本とは違うよね。


 日本でも朝食はシリアルのみ、あるいはバナナだけの人やヨーグルトだけみたいな極端な人も多いみたいだけど。


「とにかく、飯だ、飯、いただきます!」



 コウタは食事を皆に促すように食べ始めた。



「何気にサヤもお腹がぺこだった。いただきます!」

「いただきます」

「いただこう……」


「ヨーグルトも付いてる! ラッキー」



 紗耶香ちゃんはデザート枠を先に食べる人か。

 好物なのかな?

 私とコウタは味噌汁から手をつけた。



「うん、美味いな、良い塩加減の魚だ」

「胡麻和えも美味しい。カナデっち、何気に料理上手いね」



 料理漫画を読んでいて、自分もそこそこそこ再現飯を作っていたのが役に立った。



「ありがとう」



 ラウルさんはお魚から食べた。焼き鮭はお気にめしたようで良かった。

 皆で美味しく朝食をいただいた。

 これから市場に出勤な訳だけど、その前にラウルさんが鞄から何かを出した。



「これ、引っ越し祝い的な物だと思ってくれ」



 ラウルさんは私がお祭りで諦めた、かわいい猫が描かれたキャンドルホルダーをくれた。



 え!? 私は欲しそうに見てたから、買っていてくれたの!?

 優しい! サプライズプレゼントだこれ! 引っ越し祝いとか言ってるけど、明らかに私にだ。



「良かったね、カナデっち」

「う、うん」



 私だけ貰ってごめん。

 


「もう一つある」

「え?」

「この家、畑があったろう? 畑を使う時はこの害虫避けの薬草を使うと良い。匂いを忌避する」



 液体の入った小瓶をテーブルの上に置き、私達にくれた。

 有益なアイテム!


「わあ! ラウルさん、ありがとうございます」

「あざまし」

「ありがとうございました」


「じゃあな、食事もご馳走さま」


 ラウルさんは市場では無い場所へ向かうので、別方向へ行った。

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