第2話 夜が来る
「コウタ、どう? 魚獲れそう?」
「ハヤみたいな魚影見えたけど、小さくて素早い。
ナイフで突くのは無理っぽいから、罠を作ろうと思う。
ペットボトルをどれか一本空にすれば、作れる。
サイズ的に小魚かエビくらいなら入るかも。ツタで作るのは時間かかるし、シェルターも作らないと」
「シェルター、て事はやはり野宿になっちゃうかー」
私はガッカリした。
「暗い中、無理して移動して足元よく見えずに滑落とか嫌だろ?
あのヤシの葉っぽい葉っぱは大きいから、集めてシェルターの屋根にしよう」
「うん」
でも運ぶの大変そう。
「ペットボトル、この三分の一くらいの所から、カッターで切るのと、あの大きな葉っぱ集め、どっちの作業やりたい?」
「ペットボトルのお魚トラップ作って仕掛けるのは動画サイトで見た事あるから、そっちやりたい」
「了解、罠はよろしく」
「コータ君、薪こんくらいで良い? 火起こしどうすんの?」
「やっぱ紐と棒で弓ぎり式かなあ。誰もマッチやライター持って無いよな?」
「私、タバコ吸わないから持ってない」
「アタシもないわ」
「着替え入れてる巾着袋の紐で弓ぎり式の火起こしを試すよ」
「じゃあ火種は? このマスコットの中のワタでも使う?」
「可愛いけど良いのか?」
「ゲーセンでゲットした量産品だし、火は命にかかわるから、これ使って良いよ」
「カナデっち、それなら私のが沢山持ってるから、コータ君、使って。昔ケータイにぶら下げてたやつ」
「じゃあ、一番古そうなので」
コウタは羊のマスコットを選んだ。
紗耶香ちゃんは旅行バッグに小さなマスコットを5個も付けてた。
「空港で荷物の目印になると思って付けて来たんだ」
ペットボトルの水は煮沸しなくても飲める水なので、三人で大事に分けて飲んだ。
私達はなんとか木の枝と葉っぱを組み合わせたシェルターを作り、川にペットボトル式の魚用罠を仕掛け、弓ぎり式火起こしで火をおこした。
コウタはご自慢のナイフで木の枝を削ったのを取り出した。
「ブッシュクラフトの基本、これは火を着きやすくするフェザースティック」
「あー、ダイナミックささくれみたいな?」
「削りぶしっぽい」
「羽根だってばよ!
しかし、火起こし作業は疲れるな。
ファイヤースターターを持ってれば良かった」
「そんなん持ってて教師に見つかったらタバコ吸うやつだって勘違いで怒られるんじゃない?」
「だよなあ」
もはや学校が懐かしいけど。
「このポテトのお菓子、お湯か牛乳入れると、ポテトサラダみたいになるやつじゃなかった? サラダ味だし」
私は晩御飯代わりに手に持ったカップ入りのポテトのお菓子を出した。
「試すか? このカップ、キャンプ用のチタンの火にかけられるやつだし、使うか」
「なんでそんなの持って来たの?」
「歯磨き用だが」
「私のはプラスチックのミニコップに歯ブラシと歯磨き粉入ってるセットのやつだわ」
「アタシは旅行用の歯ブラシと歯磨き粉がセットになってるやつだけど、コップはホテルに有ると思って持って来てないわ」
「まあ、普通はそうだよね」
私はただの心配性だ。
「お湯沸いた。入れてかき混ぜるぞ」
「オッケー。てか、カナデっちのおやつなのに、アタシら分けて貰って良いの?」
「良いよー、ポテトみんなでちょっとずつ食べよ」
「俺はお返しにのど飴と栄養補助食のスティックバーを分けるからな」
「アタシからはチョコと飴ちゃん出すわ」
*
夜が来て、木々の生い茂る中、焚き火を囲んで食事。
お願い、虫は来ないで。
「あ、虫対策に除虫菊に似た植物があったので、取って来た。
燃やしてみよう、煙に虫除け効果有ればいいな」
「え!? コウタ、えらい!」
「マジで!?」
煙に当たった蚊っぽい羽虫が……死んだ。
「コータ君、やるじゃん。お手がら」
「殺ったね」
「え、煙強……!」
コウタは自分で採って来た植物の効果に驚いていた。
「あ、ポテト、出来たっぽいよ、二人も食べてみてね」
「イケるな」
「これはマッシュポテトだわ〜」
「凄いね、このお菓子優秀」
さて、簡易食事は終了。
大きめのお菓子買ってて良かった。
男子もいるけど、贅沢は言えない、三人入るほったて小屋みたいな葉っぱのお家で雑魚寝になるね。
「この床に葉っぱ敷いたはいいけど、チクチクしない? 汚すのもったいないけどバスタオルを敷く?」
「虫が怖いからバスタオル敷こう」
鞄を枕にして、寝る事にしよう。
「俺は火の番をするから、先に寝てていいぞ。辛くなったら起こすから交代してくれ」
「お、初っ端、寝ずの番を? コータ君、男気あんじゃん!」
「男、俺しかいないし」
コウタは紗耶香ちゃんのセリフで照れている。
「じゃあ、火の番、ヨロ〜、眠くなったら交代するから、起こして」
「私も、起こしていいから」
キュエエエエエエエ──ッ!!
「な、何の鳴き声!?」
「鹿じゃね!?」
「し、鹿でも結構怖いっぽいわ、アタシ」
「紗耶香ちゃん、私も怖いから、大丈夫。コウタ、ナイフを括りつけた槍は持ってるよね?」
「ああ、いざとなったら、これで戦う」
コウタは棒と紐でリーチを長くしたナイフを持っている。
──はー、そもそも疲れてるとはいえ、寝れるだろうか?
獣がこっちに来ないか心配。
「あー、サバイバルでさあ、寝る前にシェルターの周囲に、ここは俺のナワバリなので入って来るなって言う意味で、獣避けにオシッコを撒くってやつ、人間の男でもやるやつあるんだが、やって欲しい? 一応聞いとく」
「……花も恥じらうJKになんて事を聞くのか」
「いや、カナデっち。聞いてくれるのがコータ君なりの優しさなんじゃ無い?
獣避け結界になるならアタシは良いよ」
「ね、寝てる間に、知らない間にそっとやって」
「寝てる間にな、分かった……」
コウタの顔は真剣だった。
私は鞄を枕にして眠りながら、そういやゲームにモンスター避けの聖水なんてものがあったなあ、なんて考えた。
いや、ゲームのは下ネタじゃないんだけど……。
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