うちんと外伝〜向こうの隼瀬〜

侑李

なんやこの世界

まえがき



この作品は「うちんと」シリーズの外伝的作品です故、先にそちらを冒頭だけでも読んでくださると設定が分かりやすいと思われます。


本編


2006年 5月頃



熊本県の西久保町という所に住む高校2年生、斎藤隼瀬は不思議な夢を見て目覚めると何やら違和感を覚える。部屋にある筈の姉、暁美が付けたベッドの天蓋もお気に入りのぬいぐるみも部屋になく、彼にはそこはまるで「女子」の部屋のようだった。そして、顔を洗って軽く歯磨きをして朝食を取ろうとしたところで、彼の頭は更に混乱する。



「あれ、今日お母さん会社休みだっけ?」



「何言いよっとね、お母さん暁美が産まれてからずっと専業たい」



いつもなら会社に行っているはずの母がエプロンを着て料理をし、姉はいつものように出勤の為スーツを着ているがその格好にも少し違和感があった。そう、彼のいた「元の世界」だとそれは男子の格好のようなものであるのだ。で、困惑した様子の彼を心配そうに暁美が見つめる。



「あんたどぎゃんした(どうした)?なんか具合悪かっじゃにゃ(いんじゃない)?」



「んね(いや)、大丈夫・・・(このお母さんと姉ちゃんの言葉遣いも・・・)」



そして、やはりこの隼瀬もある程度聡明な所があり、朝刊を見ながらひとつの仮説に辿り着く。



(平行世界・・・じゃあ僕はこっちの僕と入れ替わったって事?なんやそれ)



「それにしたっちゃ(しても)、なんやこの世界・・・」




その呟きを不思議そうに見つめる母の美香と姉、暁美。食後の歯磨きをして、学校へ行く準備をしていたところ、その仮説が確信に変わる。



「姉ちゃん、これ僕の制服ね?」



「そうたい、なんねあんた本当におかしかよ」



「本当に熱でもあるんかな・・・」



「今日は学校休む?」



「んね、充希も心配するし」



「ばってん無理すなよ」



「ほんと、大丈夫だけん」



そう言って、元いた世界からしたら女子の制服にしか思えないスラックスを履いてブレザーを着て同方向へ出勤する姉と共に出かける隼瀬。熊本市内の学校へ向かう道中、市電の中でも暁美は隼瀬を心配そうに見つめる。



「姉ちゃん、本当に大丈夫だけん」



「ばってんあんたインフルでも大丈夫とか言うたい」



「まあまだ若いし」



「そんじゃ姉ちゃんがもうおばさんのごたったい(みたいじゃない)」



「そぎゃん意味じゃなくて・・・」



と、同じ電車内でそんな姉弟の会話を聞いていた幼なじみ、隼瀬と同じ平成元年の4月28日生まれ、全くの同い年で、隼瀬とは別の高校に通う葛西冬未が声をかけてくる。



「お姉ちゃん、隼瀬どうかしたと?」



「いや、なんか今朝からおかしかったいこの子」



「冬未、別に僕はなんもなかよ」



「僕・・・?」



「え、僕なんかおかしい事言うた?(冬未の白梅の制服も変わってる・・・)」



「いや、その僕て・・・久々聞いたなって」



「え?(こっちの世界だと僕は僕って言わんとか)」



「ね、おかしかでしょ。冬未ちゃん、あれなら帰りこん子頼むね」



「うん、私もこぎゃん隼瀬心配だけん」



そんな会話を交わして冬未と別れ、暁美と別れ、違和感を抱えたまま学校へ着いた隼瀬は親友の八幡充希の顔を見て少しホッとした。違う世界に来たとはいえ、中学以来の親友の顔は変わっていなかった。



「おはよ充希」



「おはよ、あれ隼瀬、なんか今日元気ない?」



「んね、そぎゃん事にゃあよ」



と、充希に同調するように学級委員長の三森咲良も心配そうに隼瀬の顔を見る。



「斎藤くん、本当になんか元気なさそう」



「大丈夫よ、いいんちょ。(ん?)」



ここで咲良の格好はともかく、その二人称に違和感しかない隼瀬。



「ね、ねえいいんちょ。いいんちょって僕ん事「隼瀬ちゃん」って呼んどらんかった?」



「「え?」」



隼瀬の発言に咲良と充希は揃って驚いた顔をする。



「え、そんな斎藤くんみたいなイケメンに畏れ多い呼び方・・・」



「は?イケメンて何?新しいカップ麺?」



「なんいいよっとや隼瀬。お前本当に無自覚よな」



「いやいや、八幡くんも人の事言えんでしょ」



「いやいや」



「いいんちょ、充希ん事も「充希ちゃん」だったはず・・・」



ここで本日2回目のタイトル回収をする隼瀬。その後もなんだかふわふわしたまますぐに放課後になり、難しい表情のまま校門を出た隼瀬を冬未が待ち構えていた。




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