異世界ロボット~~転生したらロボだったので美少女パイロットと旅に出る~~

@yuuki009

第1話 未知なる転生

 俺は、どこにでもいる平凡な男だった。普通に育ち、普通に勉強し、普通に就職し。普通に歳を取っていった。しかし、人付き合いが苦手だった俺は、気がつけばいい歳して独身。そして独身のまま、ある日唐突に告げられた末期癌という死刑宣告。


 その宣告を受けた俺は、仕事を辞めて稼いだ金を、寄付などにつぎ込んだ。両親は俺の兄夫婦が面倒を見ている。それに俺には金を残す相手も居ない。だから、稼いだ金が、せめて人の役に立てばと、俺は色んな場所に寄付をして回った。


 そして、時間がやってきた。ある日、倒れてから病院に担ぎ込まれ、それ以降は緩和ケアの病棟に入れられ死を待つばかり。時間が過ぎ、自分の死期が迫ってくるのを感じながら、俺は考えた。


『もし、来世があるのなら。病になる事もない鋼鉄の体を持ってみたいな』、と。


 そう願った理由は、俺がロボット物のアニメや漫画、ゲームが好きだったからだ。深い理由なんてない。それでも、そんな願いを俺は抱いていた。


 そして、俺はその思いを最後に俺は瞳を閉じ、死んだ、はずだった。








≪システム、リブート≫


 何だ。声が聞こえる。リブート?再起動?分からない。俺は、死んだんじゃないのか?ダメだ。体が動かない。目が開いているはずなのに何も見えない。真っ暗だ。……何が、どうなってるんだ?


≪メインシステム、異常なし。駆動用システム、センサーシステム。火器管制システム、各システム、異常なし≫


 さっきから聞こえる機械的な女性の声。これは、人の肉声じゃない。なんて言うか、ボイスロイドのような、人工的に創られた声みたいだ。でも、システムとかどういうことだ?それに火器管制って。


≪全システム、オールグリーン。『試作実験機α・Zアルファ・ズールー』。再起動します≫

何がどうなってるんだ。そう、思った直後。


『パッ!』


 突如として視界が開けた。目を開けているはずなのに、真っ暗で何も見えなかった視界に映り込んでくる映像。咄嗟に目を閉じようとした。だが、自分では目を閉じているはずなのに瞼の裏に映像が映り込んでくる。『どうして?』と思いながら俺は静かに瞼を開き、もう一度、目の前の光景を見つめた。


「…………え?」


 目の前に広がるのは、廃墟だった。どこかの倉庫か格納庫のような施設だけど、天井の一部が崩れそこから日の光が差し込んでいる。施設のあちこちには植物の蔦が絡まっていて、この施設がどれだけの間放置されていたのかを物語っていた。


「ここ、どこだ?」

 訳が分からず声が漏れる。周囲を見回そうと首を動かす。


 が、その時。

『シュィィィン……』

 俺の耳に届いた、『機械の駆動音』みたいな音。更に俺自身の声が、まるでスピーカーでも通して喋っているようだった。自分の体のはずなのに、違うような不思議な違和感。どうなってるんだ?そう思って俺は自分の体を見下ろしたが……。


 そこにあったのは、『鋼鉄の体』、『ロボットの体』だった。


「は?」


 え?何がどうなってるの?俺、さっきまで病院のベッドの上に居て、末期癌でもう死ぬところで、最後の最後で死を直感したはずなのに……。それが気づけば鋼鉄の体になってたって。……どういうこと?


 理解が追いつかない。大量のハテナマークが頭の中で浮かんでいく。OKOK。落ち着け俺。精神年齢はもういい歳のおっさんなんだ。取り乱しても始まらない。まずは状況を整理しよう。


 俺は元々人間。末期癌で死んだはずが、気づけばこんな所で鋼鉄の体に入ってた。……これって漫画やラノベで言う憑依って奴か?まぁその事は良い。根本的な問題だが、今は気にしている時ではない。それよりも重要な問題は、体が動くかどうかだ。いくら病にかからない鋼鉄の体を望んだとは言え、動かなければ意味が無い。


 改めて視線を下に向けると、俺の体を固定するように錆びてボロボロになったケージのようなものがある。幸い経年劣化のせいか、少しでも押せば倒れそうだ。俺は慎重に左手を動かした。……左手もやっぱり機械の腕になっていたが今はとにかく動けるかどうかの確認だ。


 左手をケージに乗せ、ゆっくりと前に押し出すと……。

『グラッ!!』

『ズズゥゥゥゥゥゥンッ!!!』

 劣化していたからかケージは簡単に倒れてしまった。音を立てて倒れたケージによって煙が巻き上がる。それが一瞬顔を左手で覆うが、全然煙たくない。人間なら咳の1つでもしそうだが、やっぱり俺は鋼鉄の体になったのか。手の前にかざした左手を見つめ、そこから視線を前に戻す。とにかく今は情報が欲しい。


 俺は静かに一歩を踏み出す。

『ズズゥン』

 小さな振動音が響き渡る。改めて周囲を見回す。そして見つけた。管制室のような部屋。しかし部屋のサイズを人間用と仮定すると、その部屋と今の俺の視点の高さなどを比較して……。俺は20メートル近い巨体という事になる。……このサイズのロボットって。もうガン○ムかって思いたくなる。


と、その時だった。


≪戦術支援サーバー、『オーディン・ブレイン』から接続要請を確認≫

 うぉっ!?何だっ!?急に脳裏にさっきの人工音声が聞こえてきたぞっ!?

≪戦闘効率上昇のため、オーディン・ブレインとの接続を推奨します≫

 え、え~っと、これって俺が判断するのか?だ、大丈夫だよな?いきなり接続してハッキングとか受けないよな?ちょっと怖いが……。えぇい!ままよっ!


「せ、接続を許可」

≪了承しました。オーディン・ブレインと接続します≫


 そうアナウンスが流れた直後。


「ぐっ!?」

 俺は頭の中(正確にはコンピューター)に流れ込んでくる知識の膨大さに戸惑い、咄嗟に右手を頭に当てる。生身の人間ならば情報の膨大さに頭がパンクしてもおかしくない。だというのに今の俺には驚きこそあれど、痛みも何もない。


≪姿勢制御、オートバランサー作動します≫

 突然の事に戸惑い、倒れそうになるがアナウンスが流れた直後、勝手に体が踏みとどまった。


 そして数秒後。俺は流れ込んできた知識を改めて精査し、『この世界の状況』を理解した。



 その後、俺は『格納庫』を出て『基地』の中を歩き回った。


 まず、この世界の事について分かった事がある。元々、この世界には俺の前世、西暦2020年代の頃よりも更に進んだ科学技術を持った文明が存在していた。進んだ技術は人々に豊かな生活をもたらしたが、やがて1つの国が武力で世界を1つにすると言う野望を達成するために戦争を開始した。


 オーディン・ブレインによると、その戦争の名は『惑星統一戦争』と呼ばれたらしい。その統一戦争の主力兵器として運用されたのが、人型汎用兵器、『ゴーレム』だ。そして俺が憑依しているこの機体も、そのゴーレムの内の1つ、『α・Z』だ。


 惑星統一戦争は、武力による統制を目指す『帝国』とそれに反発する『反帝国連合』による2大勢力の武力衝突という形になった。双方ともにそれぞれの運用思想から来るゴーレムを生み出しては戦線に投入し、戦争は激化の一途を辿っていった。α・Z、つまり今の俺の肉体になっているこの機体は、その帝国内部で開発されていた試作実験機のようでここはその帝国の基地の1つだったようだ。……何でそんなのに俺が憑依しているのかは今も謎だが。


 やがて俺は基地の中を歩き回っていると、俺以外のゴーレム用の格納庫へとたどり着いた。どうやらさっきまで俺がいたのは実験機を格納する専用の格納庫だったようだ。しかしそこも既に荒廃が進み、錆びたり倒壊したゴーレムの残骸だけが転がっていた。


 そんな中でも比較的状態の良いゴーレムに視線を向けると……。


≪ゴーレムを確認。種別、『ハンマーヘッド型量産タイプゴーレム』≫

 アナウンスさん(?)が説明してくれた。


 俺の目の前に転がってるのは、全体的に丸みを帯び、ずんぐりむっくりな体型のゴーレムだ。如何にも重装甲という見た目のゴーレムだが……。


≪ハンマーヘッド型ゴーレムは高い防御力とパワーを生かし、重装備を積載しての射撃戦闘や防衛戦闘に真価を発揮するタイプである。反面、機動性は劣悪であり主に基地の防衛戦力として戦闘に投入される≫


 そうアナウンスが流れた直後、俺の視界の端にレーダーチャートのようなものが現れた。どうやら、ゴーレムって言うのは『攻撃力』、『防御力』、『機動性』、『ジェネレーター出力』、『レーダー性能』、『汎用性』の6点を数値化しているようだ。


 レーダーチャートを見ても、ハンマーヘッドは攻撃力と防御力は共にA判定。ジェネレーター出力とレーダー性能もB判定。しかし汎用性はC判定。機動性に至っては最底辺のE判定である。


 俺は改めて、周囲に転がるハンマーヘッドたちの残骸に目を向ける。長く放置されたその様子からして、ここ最近誰かがここ立ち寄ったとは考えられない。



 そう、戦争はもう終結しているようだ。


 オーディン・ブレインからの情報によれば、戦争末期。両陣営は環境破壊も辞さない程の大量破壊兵器を導入。結果、かつて数十億を誇った人間の総人口は10分の1以下にまで減少。地球各地も絶大な被害を被った。


 このままでは地球を捨てなければならない所まで地球をめちゃくちゃにして、人類はようやく自分達の愚かさを悟った。そして、戦争は終結し生き残った人間たちは各地にコールドスリープ用の地下シェルターを開発。地球環境を復活させるための技術も使って環境の復活を図りながら自分達はコールドスリープを実施。


 そこでオーディン・ブレインの情報は途絶えた。オーディン・ブレインは各地のシェルターでコールドスリープが実施されると同時にシステムをシャットダウン。それ以降はスリープモードに入っていたみたいだ。


 それと、なぜ俺がオーディン・ブレインと繋がったのかも理解出来た。そもそもオーディン・ブレインは、帝国軍のゴーレム部隊を支援するために生み出された存在だ。あらゆる情報を収集し、戦闘時パイロットに有益な情報を逐次提供、アドバイスなども行い味方の戦闘効率を上げるために生み出された。そして、そのオーディン・ブレインとの連携を前提に開発が進んでいたゴーレム。その試作実験機が今の俺、つまりα・Zと言う訳だ。そしてオーディン・ブレインが先に完成し、いよいよ実験機であるα・Zが完成した。さぁテスト開始だっ!って時に終戦。


 オーディン・ブレインとの連携出来るのも今の俺であるα・Zだけみたいだ。しかし、オーディン・ブレインが終戦と共に今までスリープモードであったため、外の様子が分からない。地球環境は復活してるのか?コールドスリープから人間は目覚めたのか?目覚めたとして、人間の文明は発展してるのか?そもそも終戦から何年経過しているのか?


 分からない事が多すぎる。それを確認するためには外に出るしかないが、懸念事項もある。今の俺はロボット、ゴーレムだ。現在人間が居て、ゴーレムの知識があったとして。傍目には無人のゴーレムである俺が動き回っているように見えるだろう。だがそれはゴーレムを知っている事が前提だ。ゴーレムを知らない人間が俺を見たら?確実に怪物か何かと思われる可能性が高い。……何より、外の危険度も分からない。


 これは、武器が必要だな。俺はすぐさま基地内のゴーレム用の武器を探し始めた。しかしかなりの年数が経過しているのかゴーレムそのものを始め殆どが朽ちていた。唯一回収出来たのは……。


「近接武器が1つだけ、か」


 俺が見つけたのは、ゴーレムサイズの大型ナイフだった。それを鞘ごと機体の腰部背面にあるマウントラッチに固定する。


 ナイフの固定を確認すると、俺の視界の片隅にポップアップが表示された。

≪武装を追加しました。ゴーレム用マチェット型ナイフ、『GM-001』を装備≫

 どうせなら、射撃兵装も欲しかったが贅沢は言っていられない。残ったのは構造などが単純な、こう言った近接戦武器だけだった。


 さて、今の俺の武装は……。

『既存の武器一覧を表示』

≪了解。搭載兵装の一覧を表示します≫


 俺が頭の中で念じるとアナウンスが流れ、視界の脇に一覧が現れた。今俺が装備しているのは、今のGM-001以外に……。


『頭部レーザーバルカン』

『大腿部内蔵式ヒートナイフ』

『ビームハンドガン』


 以上3つが、俺が元々保持していた武装だった。更に念じて俺の性能をチャートで表示するが……。正直、目を覆いたくなるような数値だった。


 攻撃力、防御力、機動性、レーダー性能、ジェネレーター出力の5つがC。唯一汎用性だけが最高位のSだった。

 何だこの、ステータスがポイント割り振り制のゲームで極フリしたような頭の悪い性能は。と、俺が内心頭を抱えていると……。


≪試作機、α・Zの概要を説明します。必要ですか?≫

 アナウンスさんから声が聞こえる。しかし概要か。それでこの極フリ性能の理由が分かれば良いが……。とりあえず聞いてみよう。


『頼む』

≪了解です。この試作機、α・Zには専用機特有の特殊システムである『EXスキル』が搭載されています≫

『EXスキル?なんだそれは?』


≪EXスキルとは、狭義において量産型ゴーレムと、専用機と呼ばれる特殊仕様のゴーレムを分ける指標の一つともなっているシステムです。専用機はそれぞれ、1つの特殊能力を持っています≫

『それがEXスキルか。そしてそれが俺にもあると?』


≪はい。当機、α・Z内部に搭載されているEXスキルは『無限の可能性アンリミテッド・チャンス』と呼ばれています≫

『無限の可能性、か。そのスキルの詳細は?』

≪EXスキル、アンリミテッド・チャンスは機体を成長させるシステムです。当機は戦闘を行う度に敵の動きやパイロットの癖など学習し、データを当機内蔵の高性能量子コンピューターで解析。更にオーディン・ブレインとも情報共有を重ねつつ、状況にあった武装や装備を、機体内部に貯蔵されているナノマシンを使って生産。自らに有用なパーツを生産しつつ自機の強化を行うことが可能です≫


 ッ。こいつは結構、いや、かなりのチート能力だ。機械の体でありながら学習し進化する。つまり自分で自分をアップデート出来ると言う事か?こいつは凄いが……。


『そのスキルは戦闘中に使えるのか?』

≪いいえ。ナノマシンを用いた生産には時間が掛かりますので、戦闘中に武装等を生産し装備する事は難しいかと≫

『そうか』

 ……そう上手くは行かないか。だが自己進化が出来るのはありがたい。戦いデータを集めればそれだけ俺が強くなれるって事だ。


『ナノマシンの数は有限なのか?』

≪いいえ。当機のジェネレーターからエネルギーの供給を受け、自己増殖をしています。ですので、当機が完全に破壊されるなどしない限り、ナノマシンの使用は可能です≫

『そうか。しかし肝心の俺自身のエネルギーはどうすれば良い?どこかで補給しないと不味いのか?』


≪長時間の戦闘機動を行う場合は補給が必要ですが、当機には非常時、表面に組み込まれている太陽光パネルよりエネルギーを得て充電する事が可能です。変換効率は悪いですが、単純に活動するだけならばこちらでもエネルギーを賄う事は可能です≫

『なるほど』


 そいつはありがたい。エネルギー切れで動けません、が無いのはありがたい。もちろんずっと太陽光発電に頼るつもりは無いが、ある分には助かる。……しかし。


『聞きたいんだが、なぜ俺は汎用性以外の評価がCランクなんだ?』

≪当機、α・Zは開発コンセプトとして可能性を追求した機体となっています≫

『それはつまり、アンリミテッド・チャンスによる成長のためか?』

≪はい。EXスキルであるアンリミテッド・チャンスは、先に説明した通りパイロットの適性や敵との戦闘などからデータを収集し、状況に合わせて進化するシステムです。その素体となる当機に初期段階から方向性を持たせた場合、進化を阻害する恐れがあると判断されたため、初期段階の素体状態では必要最低限の能力を持たせるだけに留める、と言うのが開発陣の方針だったようです≫

『そういう事か』


 つまり、今の俺は真っ白な状態だ。今後の戦い方次第で、その真っ白な状態に色を付けていく。まぁ、しかし、その『今後』が問題な訳だ。



 とりあえず、俺が今どういう存在なのか。どういう力を持っているのか、どういう世界に転生、或いは転移したのかは分かった。問題は、外の世界の状況だ。


 オーディン・ブレインからの有力な情報は無い。自分の目で確かめるしかないって事か。

 俺はしばし悩んだ。外の状況が分からないのは不安要素だ。だが、かといってずっとここに居る訳にも行かない。


 そうやって悩んだ末に……。『仕方無い、行くか』と決心を固めた。外に出なきゃ状況は変わらない。幸い武器もある。体も生身ではない。今は鋼鉄のロボットだ。大抵の事は何とかなるはずだ。


 そう、俺は俺自身に言い聞かせながら歩き出した。基地内を歩き、ゴーレム用のゲートを目指す。たどり着いたゲートは、錆びだらけで基地の動力も生きていないから、手動で開けるしか無かった。わずかに開いた隙間にマチェットのGM-001を滑り込ませ、てこの原理で隙間を大きくする。


 そして広がった隙間に手を入れて……。

『ふぬぬぬぬぬっ!!!』

 全力で扉を動かした。錆び付いた扉が『ギギギギギッ!!!』と音を立てながらゆっくりと左右に開いていく。そして開いた扉の先へと足を踏み入れる。


 扉の先は人工のトンネルになっていた。だが経年劣化でトンネルはボロボロ。何時崩れても可笑しくはなさそうだ。しかしそのトンネルの先、出口から差し込む光。あの出口を出た先に、惑星統一戦争後の世界が広がっている。さて、鬼が出るか蛇が出るか。行ってみるか。


 俺はズシンズシンと足音を響かせながら外へ出た。機械の体でも、いきなり暗い所から明るいところに出れば、まぶしさから人間だった時の習慣からか片手で目元を覆ってしまう。手をどけて、外の世界へと目を向ける。



「おぉ……っ!」

 出口を出た先に広がっていたのは、巨大な森林だった。20メートルを誇る俺と同等の大きさを誇る木々が立ち並ぶ森林。周囲を見回しても木々がどこまでも立ち並んでいる。上を見上げれば、木々の間から青い空と白い雲も見える。


 どうやら、戦争後の環境回復は上手く行ったようだな。おかげで一面の荒野を彷徨わなくてすみそうだが。さて次に探すべきは、まぁ人か?


 戦争終結からどれだけ時間が経っているのかも知りたいし、人類がコールドスリープから目覚めているのか?そうだとして現在の人間の文明レベルはどうなっているのか気になる。更にゴーレムという今の俺の存在を人々がどう思うか、どう対応してくるかも重要だ。攻撃されるようなら、人間と距離を置く必要がある。とにかく、まずは人間を探そう。



 そう考え、俺は森の中を歩き始めた。ズシンズシンと音を立てながら歩けば、時折木々の影から動物が飛び出してきては逃げていく。俺が見かけたのは鹿やイノシシ、ウサギに狐と言った動物たちだ。……自然だけで無く、生態系もある程度は復活してるようだな。と考えながら歩いていると……。



「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ッ!?悲鳴っ!?」

 ロボットとしての優れた集音装置が拾った音。それは悲鳴だったっ!

『コンピューターっ!今の悲鳴の発信源は分かるかっ!?』

≪お待ち下さい。収集した音データ解析と音波探査による周辺スキャンを実行します≫


 俺は両腰部に接続されていたビームハンドガンを両手に1丁ずつ取る。ビームハンドガンのグリップには接触式の充電装置があり、持ち主である俺、つまりα・Zが握る事でエネルギーが供給される仕組みになっている。更に武装を持った事で、武器の様子を示すポップアップが視界の端に現れる。そこには『Ready』、準備完了の文字が浮かぶ。


 両手にビームハンドガンを手にしながら周囲を警戒する。


≪データ解析が完了しました。悲鳴の発生源は当機より10時の方向、距離約700≫

アナウンスが流れると同時に、俺の視界の端にレーダーがポップアップする。そして悲鳴の発生源と思われる地点に赤いマーカーがレーダー上で設置される。

「こっちかっ!」


 すぐさま駆け出した。幸いな事に木々の密度はそこまで高くない。木々の間を駆け抜け、マーカー地点まで急ぐっ。


 そして林の中を駆け抜けて広い場所に抜けた時。

『グルゥ?』

「なにっ!?」

 俺の目の前に現れたのは、熊だった。だが、唯の熊じゃない。『ゴーレムの半分のサイズはある熊』だった。つまり10メートルサイズの熊だっ!?これには当然驚く。


『な、何だこいつはっ!?熊なのか!?』

 戸惑いながらもビームハンドガン2丁の狙いを定める。

『グルゥゥゥゥゥゥッ!』

 すると、こちらに背を向けていた熊がうなり声を上げながらこちらに振り返る。


≪目標をスキャン中。類似する特性を持つ物として、惑星統一戦争において反帝国連合が戦争末期に投入したバイオ兵器、『ビッグビースト』、通称BB兵器の一種、『ビッグベア』が上げられます≫

『ビッグビースト!?つまり、デッカくした凶暴な動物を兵器にしたってのかっ!?なんだってそれが今も生き残ってる!?戦争はもう終わったんだろっ!?』


≪推察。恐らく戦争を生き延びた個体が生殖行為によって繁殖しながらも進化し現代まで生き残っていたのだと思われます≫

『ちっ!?戦争が残した負の遺産ってかっ!?』

 と、悪態を付いていると……。


『グルアァァァァァァァッ!』

 巨大な熊、ビッグベアが襲いかかって来た。

「ちっ!?」

 無い舌で舌打ちをしながら咄嗟に転がってそれを避ける。

「そこだっ!」

『シュンシュンシュンッ!』

 そして手にしていたビームハンドガンを放つ。緑色のビームがビッグベアの体に命中するが……。


『ジュゥッ!』

 それは奴の体を貫通するどころか、体毛と表皮を僅かに焼いただけだった。

『貫通しないっ!?ビームだぞっ!?』

≪ビッグベアはBB兵器の中でも高い攻撃力と防御力を持つ個体です。遺伝子操作で耐熱性を付与された体毛はビーム兵器の威力を著しく低下させます。また、その腕部から放たれる攻撃はゴーレムを一撃で屠ることも可能です。そのため、ビッグベアには『ゴーレムキラー』という名称が付けられています≫

『はぁっ!?ゴーレムキラーってっ!?そんなのとこんな貧弱装備でやり合えってのかっ!?』


≪彼我の戦力差を計算しましたが、こちらが圧倒的に不利です。現戦闘地点からの離脱を推奨します≫

『ちっ!?それが一番合理的なんだろうが……』


 そう言いかけた時、俺の目であるカメラアイが岩場の影で縮こまる赤毛の女の子の姿を捉えた。彼女はブルブルと震え涙を浮かべながら俺とビッグベアの戦闘を見つめている。

『っ!?』

『グルゥアァァァァァァァッ!』

 それに驚いて目を奪われていた一瞬を狙ってビッグベアが突進してくる。


「ちっ!?」

 咄嗟に跳躍する俺。

≪スラスター噴射≫

 直後に背中のバックパックと足裏のスラスターが噴射に距離を取る事で回避出来たが、あの女の子が悲鳴の持ち主かっ。


「おいっ!そこの子供っ!今すぐ逃げろっ!」

 スピーカーをオンにして叫ぶ。しかし女の子は震えるばかりで動こうとしない。


『ダメかっ!?』

 俺は内心表情を歪めながらもビッグベアの前に立つ。

『コンピューター、ここで俺が逃げ出したら、あの子はどうなる?』

≪計算中。……80%以上の確立でビッグベアの捕食対象となります≫

『ッ!!!』


 捕食対象、と言う単語に俺は内心ギリッと無い歯を鳴らす。

『……残りの可能性は?』

≪ビッグベアが当機を敵と判断し追撃してくる可能性がありますが、可能性は限りなく低いかと≫


 つまり、ここで俺が逃げ出したら、あの女の子は高確率でビッグベアに食い殺されるって事だろっ。かといって、今の俺の装備で勝てる可能性は低いっ!クソッ!どうするっ!


 逃げるか、戦うか。彼女を見捨てるか。俺だけ助かるか。


 ビッグベアと睨み遭いながら、俺は考えた。考え、悩んでいた。その時。


「たす、けて」


 掠れ、消えそうな声。声の出所は、考えるまでも無い。あの子だ。視線を向ければ、あの女の子が涙ながらに俺を見上げている。今、この場であの子を助けられるのは、俺だけだ。


 そして、その涙と声が、俺の中のちっぽけな正義感に火を付けた。火を付けてしまった。


 …………あぁぁぁ畜生っ!!!!

「やってやる。……………やってやるぞ畜生がぁぁぁぁぁっ!」


 俺は怒号を発しながらビームハンドガンを構える。


「来いよ熊野郎がぁっ!」

『グルアァァァァァァッ!』


 俺の怒号に咆哮を返しビッグベアが向かってくる。


 こうして、俺はロボットに転生したその日に、命を賭けてバトルする事になってしまったのだった。



     第1話 END

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