死に戻り探偵 ― 時間の奇跡と裏切りの謎

ぽんぽこ@書籍発売中!!

第1話 生きるため、その刃を持つ


 僕こと水島景は、世界で一番ツイていない男だと思う。

 生まれながらにして、貧乏くじばかり引いている。


 容姿は地味、成績や運動神経は平均以下、唯一の趣味であるソシャゲのガチャは毎回爆死。

 ついでに親ガチャにも失敗しているし、何においても運がない!


 今日だってそうだ。朝、何気なく点けたテレビの星座占いでは最下位だった。

 学校に来る途中でカラスに糞をかけられるし、カフェでは高いコーヒーを奢らされるし。

 正直、ツイていないにも程がある。


 ここまで重なると神様を呪いたくなってくるんだけど、人生最大の不運は今この瞬間だった。

 ――だって僕の愛した人が目の前で死んでいるんだもの。


「いやだよ、キョウ……僕を置いていかないでよ……」


 割れてしまった水風船は二度と元には戻せない。

 薄いゴムの器がひとたび破れてしまえば、中身は瞬く間にこぼれ落ちていく。

 こぼれ落ちた水は、もう二度と器の中には戻らない。


 夕焼け色に染まる長夜高校の空き教室。

 そこに僕の幼馴染である日南ひなみきょうは横たわっていた。


 僕は彼女の身体を抱きかかえて、何度も呼びかける。

 しかし、キョウが返事をすることはない。


 とめどなく溢れ出る粘性のある液体が、セーラー服のシャツと緑色のスカートを赤く滲んでいく。

 苦痛に染まった顔は、見ているだけで心が抉られるようだった。


「キョウ! お願いだから死なないでよ!」


 彼女がどこにもいかないように、僕は血塗れになった手を必死に握りしめる。


「ううっ、どうしてこんなことに!」



 ――キョウが死んじゃった。


 割れてしまった水風船日南京は二度と戻らない。

 無邪気な笑顔で僕を振り回すこともない。


 僕はそんな幼馴染のことを、本当に好きだったのだ。ずっと隣にいたかったのに……。


 もう彼女は二度と戻ってこない――。


 そんな考えが脳裏によぎった瞬間、僕の世界は真っ暗になった。


「ああ……もうダメだ……」


 こんな辛い思いをするくらいなら、いっそ死んでしまった方がマシだと思えるくらいに苦しい。


 もう二度と会えないなんて嫌だ!そんな現実を受け入れたくない!



「いや、待てよ?」


 ひとつだけ戻す方法がある。それも非現実的な方法で。


「そうだよ、もう一度ループ死に戻りすればいいんだ。安心して、僕がキョウを生き返らせるから……」


 なんだ、簡単な方法があったじゃないか。それにループはこれまで何度もやってきたんだし。


 キョウに刺さっている包丁の柄に手を伸ばす。

 ぬるっとした血液で手を滑らせそうになるが、しっかりと握り、ずぷっと抜き取る。


「待っててね、キョウ。きっとまた、会えるから」


 キョウに向けて強がりの笑顔を見せ、決意が鈍る前に己の首をかき切った。


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