第46話 違う、これは事故なんだ
「ぐぅぉおぉぉおぉぉ⋯⋯や、やっちまったぁあぁぁあぁぁ⋯⋯!」
桃葉さんとの突発コラボを終えて家に帰った俺は、スマホの画面を見て一人頭を抱えていた。
その理由は、スマホの画面に映し出されたとあるディーダイバーのチャンネルにあった。
「桃葉さんって、チャンネル登録者50万人もいるのかよ⋯⋯!」
正確には53万と少しだが、それでも桃葉さんが大物ディーダイバーであることには間違いない。
なんとなく分かってはいた。視聴者たちと自然に交流する姿や、配信上での立ち振る舞い。それらから、俺よりも先輩で俺よりもチャンネル登録者が多い人であることは分かってはいたのだ。
だがそれでも、チャンネル登録者20万人とか、いっても30万人くらいだと俺は思っていたのだが。
蓋を開けてみれば、まさかのチャンネル登録者50万人を超えている人で、SNSのフォロワー数も20万を超えていたりと、かなり影響力のある人であることが明らかになった。
しかも調べれば調べるほどガチ恋勢だとか、桃葉モモファンクラブとかも出てくる始末。
そんな桃葉さんの配信で、知らなかったとはいえ俺は桃葉さんに色々なことをして、色々なことを言ってしまった。
その影響か、気づけば俺のチャンネル登録者も26万人を超えていて、少し前にアイテム取り引きをした兎リリさんの登録者を、僅かだが超えてしまうという形になっていた。
「うわ、早速切り抜きがめちゃくちゃ上がってるし⋯⋯トレンドにも"アマツ"とか"突発コラボ"とかが載っちまってる⋯⋯」
俺は金を稼ぎたくてディーダイバーを始めたが、目立つのはいいにしても悪目立ちだけは避けたいタイプの人間である。
俺のこの考えは少し矛盾しているような気もするが、これは俺の難儀な性格から来ているもののため、仕方がないものなのだ。
お金を稼ぎたいならもっと配信すればいいだろとか言われそうだが、実際1回の配信で60万近く稼ぐことができた以上、そこまでハイペースで配信をしなくてもいいと俺は思っていた。
もちろん、大事な妹である沙羅の今後のためには、今後もっと多くのお金が必要になってくる。
だがそれでも、このディーダイバーというものは異世界帰りである俺の天職かのように、色んな方面からお金を稼ぐことができるのだ。
「えーと⋯⋯コレと、コレは必要ないからトレードに出すとして⋯⋯これは、また兎リリさんにでも売りつければいいか」
今回のダンジョン探索で、俺はかなりの収穫を得ることができたのだ。
5階層目にいた【マッドワーム】からは【水鉱魔石】を手に入れることができた。
10階層目にいた【キラーマンティス】からは武器である【四刃の鎖鎌】を手にすることができて。
15階層目にいた【フラワースパイダー】からは装飾品である【花蜘蛛の糸飾り】を手にすることができた。
他にもその三匹を討伐することでドロップした宝箱からも、様々なアイテムを獲得することができたのだが。
どの説明を見てもあまりピンと来るものはなく、俺は【水鉱魔石】と【四刃の鎖鎌】、そして宝箱から出た【純中魔石】以外は、全てトレードで売ることにした。
二つの魔石は全て兎リリさんへ。そして鎖鎌の方は、俺が発狂したデスリーパーを討伐した際に授かった称号の【死神ヲ葬ル者】を取得したことで獲得した【死神流鎌術】に対応した武器なため、残すべきだろう。
トレードに出すと早速メッセージが届き、相手の攻撃や地形効果で付与される鈍足効果を軽減することが出来る【花蜘蛛の糸飾り】と、宝箱から出た【傀儡の傀儡】という、ちょっと不気味なアイテムを一瞬でお金に変えることができた。
それにより、ディーパッドに登録された俺の口座には追加で35万円が入金されていて、前回の配信での稼ぎと合わせて、もうすぐ俺の貯金額は100万円に到達しそうであった。
『わーっ!? 待って待って! 誰か助けてーっ!?』
『な、なにこれ!? どどど、どうなってるの!?』
『モモの魔法で一網打尽にして見せるから、リスナーのみんな応援よろしくねっ!』
ディーパッド内にあるトレードのアプリでアイテムを売りながら、俺はスマホで桃葉さんのアーカイブ配信を眺めていた。
いつも危なっかしくて、騒がしくて、オーバーリアクションで、ボロボロのドロドロで。
だが不思議と見てて飽きないというか、そんな不憫な思いをしている桃葉さんを見てクスッと笑えたり、ハラハラしたりする場面が何度も何度もあった。
きっとそれが、桃葉さんのチャンネル登録者が50万人を超えた理由のひとつなのだろう。
「⋯⋯でも、やっぱり魔法の腕は確かなんだよなぁ」
ダンジョンから脱出して家に帰っている道中、俺は桃葉さんと同じように【魔道士】を名乗っている配信者の切り抜きに、いくつか目を通してきた。
炎を扱ったり、氷を扱ったり、桃葉さんと同じように雷を扱ったり、風を扱ったりなど様々であったが、それを見て分かったことがあった。
それは、桃葉さんが魔法の扱いに長けているということである。
魔法に関しても調べてみたのだが、属性によって魔力の調整や制御が変わってくるらしく、その中でも雷属性の魔法は特に扱いが難しいらしい。
火力と広範囲殲滅に長けた雷属性の魔法は、少しでも魔力の調整を間違えると暴発したり、制御に失敗すると魔法が暴れたりと、かなりリスクのある魔法らしい。
だが、桃葉さんは自分の魔法で服が破けてしまうというアクシデントこそあったものの、暴発したり、魔法が暴れることは1回もなかった。
他の配信者は魔法が暴発して自分で怪我を負ってしまったり、魔法が暴れて味方の方に飛んでしまったりなど、かなり危なっかしい場面が何度かあった。
しかし桃葉さんは、特に扱いが難しいと評判の雷属性の魔法を扱っていながらも、俺に魔法を誤射したりすることはなかった。
今現状雷属性を扱う【魔道士】の中のトップは桃葉さんと言われているらしく、その実力から世間では【雷姫】と呼ばれていることも、ついさっき知ったことだ。
「調べれば調べるほど、桃葉さんがすごい人だったってことばかり分かるな⋯⋯」
とは言うものの。
やはり魔法職一人でのダンジョン攻略は非常に難易度が高いらしく、最初こそ連続でダンジョンを踏破していた桃葉さんだが、直近の配信のほとんどはモンスターにやられたことによるリタイアが多かった。
どうやら今回俺との突発コラボによって桃葉さんは10日ぶりにダンジョンを踏破したようで、SNSでもかなりの反響を呼んでいた。
『桃葉モモ【蠱惑の花園】踏破!』
『大人気アイドルディーダイバー桃葉モモと、話題沸騰中の"死神"アマツの突発コラボ開催!?』
『【蠱惑の花園】攻略タイムが大幅に短縮。挑戦者は桃葉モモとアマツの二人』
『桃葉モモとアマツの関係性は? 配信中に見せた二人の表情から伺えるものは一体』
などなど、桃葉モモさんの話題が上がるということは、必然的にコラボしていた俺の名も上がるということであり。
「⋯⋯って、あれ。あのアカウント、もう消えてる⋯⋯」
SNSを見ていた俺は、アマツの名を騙るあの偽垢がいつの間にか消えていることに気づく。
俺と桃葉さんの配信でも見てたのだろうか? まだ注意喚起をして1時間と少しくらいなのに、あまりにも早い逃走である。
しかしよく調べてみると、どうやら俺の発言以降あの偽垢に色んな人が突撃したらしく、注意喚起をしてからものの20分でアカウント凍結。そして消去へと至ったらしい。
しかもとある人の呟きによると、俺の偽者はどうやらとある中小企業に勤める30代後半のおじさんらしくて。
既に名前や住所も割れてしまっているらしく、そのあまりにも早い特定班による特定と、俺のファン? による攻撃が、とんでもない火力を有していることが明らかになった。
「⋯⋯まじか」
ここで俺は、自分の発言による影響力の強さを知った。
俺のファンの中には信者のような者もいるらしく、そんな者たちによって20個近くあった俺の偽垢は、もう既にあと3個ほどに減っていた。
なんとも恐ろしい話だ。言ってしまえば、俺の言葉ひとつで誰かを不幸にすることもできるというわけであり。
「⋯⋯今後は発言にも気をつけないとな」
俺はSNSを閉じて、とりあえず再び桃葉さんのアーカイブを眺めることにした。
桃葉さんの賑やかな配信は見ているだけでこちらも楽しくなってくるものであり、飛ばし飛ばしではあるものの、ついつい色んなアーカイブを見漁ってしまう。
だがその時、俺はとある切り抜き動画を見つけてしまった。
『桃葉モモ、エッチなアクシデント集』
「⋯⋯⋯⋯」
いや、違う。これはたまたま、目に入ってしまったものだ。
俺は別に、桃葉さんに対して下心を抱いているわけではない。だから、俺は決してこんな動画なんて──
『わーっ!? ちょ、カメラさん1回ストップ! これっ、色々見えちゃってる!?』
『いててて⋯⋯え、えへへ、せっかくカッコよくモンスター倒したのに、転んじゃいました〜⋯⋯』
『ライトニング・ヴィ・ボルト! ふっふっふ、これで完璧──って、こ、こっち来ちゃダメだって! きゃーっ!?』
そこには桃葉さんの配信内で起きたセクシーなアクシデントがまとめられていて、モノによっては下着が丸出しになっていたり、危うくポロリしてしまいそうになっていたりと様々であった。
中には本当に際どいシーンもあったりしており、それでいて動画時間は26分と、かなりの超大作であった。
それなのにこの動画の再生回数が200万を超えており、いかに世の男性に需要のある動画か、一目で理解することができるだろう。
かく言う俺も男だ。男として生まれてしまった以上、その動画からどうしても目が離せなくなってしまい。
「お兄ちゃーん? さっきから一人でなに見て──え」
そのせいで、俺は後ろから接近してくる沙羅の気配に気づくことができなかった。
「⋯⋯お兄ちゃんって、そういう女の人が好きなんだ」
「い、いやっ、これは違──」
『らめぇえぇぇ! 見ないでぇえぇっ!』
「⋯⋯⋯⋯」
なんでこういう時に限ってエロ漫画みたいなこと言うんだよ! という、喉から飛び出しそうになった言葉を俺は呑み込む。
だが一方で、沙羅はまるでゴミを見るような目で俺を見下ろしてきており。
「⋯⋯別にそういうの見てもいいけど、せめて私がいない時とか、夜寝静まった時に見てほしいんだけど」
「だ、だから、誤解なんだって!!」
「その割には、26分もある動画見終わってるじゃん。お兄ちゃんの、変態」
それだけを言い残して、沙羅は一人お風呂場へと歩き去ってしまう。
そんな沙羅の遠のいていく背中を眺めながらも、俺は心に大きなダメージを喰らい、一人ベッドの上で倒れ込んでいた──
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