異世界を救った元英雄の、成り上がりダンジョン配信録!!〜普段からぼっちだった俺が異世界で得た力でダンジョン配信者として超有名になり、人生勝ち組に至るまで〜

丸々丸々

第1話 異世界からの帰還者

 鳴り止まぬ雷鳴、震撼する空気、空を覆い尽くす黒く渦巻く黒雲。


 それはまさに、世界の終焉。長閑で平和だった世界に突如として訪れた、破滅の時。


 人々は絶望した。得体の知れぬ悪夢に、悪意に、そして憎悪による闇は、希望の欠片すら与えず精神を蝕んでいく。


 何千年として封印されていた【厄災の魔王バルガノーヴァ】が復活し、早300日。


 そのたった300日という僅かな時間で、何百年、何千年と紡がれてきた人々の歴史は、終わりを迎えようとしていた。


 だがそこに、一筋の光あり。


『⋯⋯貴様、何者だ』


 バルガノーヴァの放つ闇の瘴気は人々の心を蝕むだけでなく、大地を侵食し、空気を汚染させ、荒廃した死の大地へと変えるモノ。


 しかしその瘴気の中、バルガノーヴァに立ち向かう一人の少年がいた。


「俺は、お前を討ち滅ぼす者だ」


 その少年は黒い髪を揺らし、決意に染まった黒い瞳でバルガノーヴァを睨み、白銀色に染まった剣を掲げていた。


『貴様が? 貴様のような小僧が、この我を?』


「あぁ」


『ククッ⋯⋯ハッハッハッ! 笑わせてくれる。勇者の血筋ですらない貴様が、女神の寵愛すら受けていない貴様が、この我を討ち滅ぼすなど⋯⋯余程の身の程知らずのようだな』


 バルガノーヴァは嗤っていた。


 言葉の通り、少年は長年世界を救ってきた勇者の家系でもなければ、その血すらも継いでいない。


 それどころか、人々に崇められ、希望を与える女神の寵愛すら受けていない少年は、バルガノーヴァにとって今まで踏み潰してきた蟻ほど矮小な存在であった。


『貴様になにができる? かつてこの世界を統治していた大帝国すら打ち滅ぼせなかったこの我を、貴様一人で討ち滅ぼせると思っているのか?』


「当然だ」


『クククッ⋯⋯その勇気と胆力だけは、認めてやる。だが、それは蛮勇だ。貴様は知るであろう。己が如何に無力か。己が如何に慢心していたかを。貴様は所詮──』


 天を仰ぎ語りに語るバルガノーヴァを遮るように、キンッと、甲高い音が鳴り響く。


 その刹那、少年の頭上で轟く雷鳴が止み、黒雲渦巻く空の一部が裂け、地に剣を立てる少年を祝福するかのように一筋の暖かな太陽の光が少年を照らしていた。


「御託はいい。俺には、帰るべき場所がある。そのためにも、ここでお前には滅んでもらう必要がある」


『⋯⋯ッ! フハハハッ! いいだろう! そこまで死に急ぐのなら、そこまで魂を無に帰したいのならば、お望み通り叶えてやろう! この我の力をもって、貴様を葬ってやる! 光栄に思うがいい⋯⋯!』


 世界の命運を賭けた、世紀の決戦が始まる。


 勝つのは正義か悪か。


 最後に笑うのは光か闇か。


 勝てば勇者。負ければ愚者。死人に口なし。最後に立っていた方が、世界の命運を決める体現者と成る。


 光と闇がぶつかる。決して混じり合うことのない二人の命が、魂が、己の望みを叶えるべく反発し合う。


 やがて、その激闘は三日三晩と続いていき──


「⋯⋯これで、やっと日本に帰れる」


 最後に立っていたのは、折れた白銀の剣を晴天の青空に掲げる、一人の少年であった──




──────




「うわっ、本当に戻って来れた」


 【厄災の魔王バルガノーヴァ】を見事討ち果たした少年は、見慣れた場所にて目を覚ましていた。


 ボロボロになったローブに手甲、そして折れた白銀の剣はどこへやら。服装は学校指定の学生服になっており、どこにでもいるただの男子高校生そのものに変わっている。


「鞄もスマホも、全部あの時のまま⋯⋯本当に、夢みたいな体験だったなぁ⋯⋯」


 自分の手を見つめながら、少年は独りごちる。


 そして少年──天宮あまみや 奏汰かなたは、久しぶりに踏むアスファルトの感触を確かめながら、いつもの日常へと戻るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る