51.お仕置きは恐怖と羞恥

 オレンジは夕食の匂いを嗅いで、すぐに帰ってきた。ついでなのか、セミに似た虫を咥えての帰還だ。獲物を捧げられたアイカの悲鳴が、森中に響いた。


「この子は野生でも生きていけそうだね」


 ブレンダが苦笑いしながら、セミを解体した。アイカが怖がるので、屋外でバラバラにする。ちなみに犯人達は木に縛りつけられた。その目の前で、ナタに近い大きさのナイフを振るう熊……その光景は犯人を怯えさせるに十分だった。


 誘拐犯は全部で三人、すべてネズミ獣人だ。盗賊団でもある彼らのボスが、カバらしい。ボスの命令でアイカを攫ったのだが、どこぞの変態に売りつける予定だったと白状した。怒って飛び蹴りしたレイモンドの足型が、彼らの腹にくっきりと残っている。そのまま朝まで屋外放置された。


 虫に襲われるかもと怖い思いをした盗賊だが、ドラゴンが近くで寝ているので無傷だ。昨夜のセミは美味しい朝食に化け、何も知らずにアイカも平らげた。もちろん、ネズミ獣人に与える食事はない。


 また誰かに侵入されないよう、ログハウスの扉と窓はきっちり塞がれた。利用した板は、昨日まで馬車の形をしていた。ドラゴンに踏まれて全壊したので、木材として再利用される。


「これでよし」


「こっちも片付いたぞ」


 釘の入った箱と金槌を持って集まり、そこで気付いた。これを家にしまう方法がない。


「煙突からでよければ、入れておくが?」


 きょとんとした顔のレイモンドに託され、調理用の煙突から入れた。下にコンロとなる道具が並んでいるため、紐でゆっくり下ろす。着地を確認して、紐を離した。


「帰るぞ」


 ここで新たな問題が発生する。レイモンドはそこそこ大きいが、ブレンダとアイカを乗せるのは重量オーバーだった。犯人を連れ帰るためにも、荷馬車が必要だ。いろいろ検討した結果、先にレイモンドが飛んで、カーティスと荷馬車で戻ることになった。


「猫が心配だから私、先に帰るね」


 オレンジをしっかり布で包み、腹の上で抱っこするように縛ったアイカがレイモンドの背に飛び乗る。見送ったブレンダとトムソンは、ドラゴンの姿が見えなくなった途端、にやりと笑った。


「さて、お仕置きといこうかね」


「当然だ、あの子の恐怖を倍にして返さないと」


 二人は凶悪な笑みで、誘拐犯に迫った。






「一体何があったんだ?」


 カーティスに荷馬車を頼んで戻ったレイモンドは、こてりと首を傾げた。ネズミ獣人達は、そろって毛皮がない。これは裸も同然で、縮こまって震える姿は気の毒なほどだった。


「反省したんじゃないかい?」


 ブレンダはしれっと答えるが、手にした愛用のナイフを磨いている。その隣で、トムソンも己の爪を手入れしていた。事情を察したレイモンドだが、口に出さない。


「うわぁ、おじさん達。毛皮どこへ落としたのさ」


 追いついたカーティスが大声で叫んだことで、彼らはさらに小さく丸まった。まとめて荷馬車に放り込み、ブレンダとトムソンを乗せて走り出す。その間もちらちらと振り返るカーティスは、くすくすと笑い続けた。


 精神的なダメージが大きかったのか、街の衛兵に引き渡されると素直にボスの居所を白状したとか。

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