50.結婚式の申請をしなくちゃ
赤くなったアイカは、もじもじと手をこね回しながら、レイモンドを見上げる。うっかり本音が漏れた彼も赤い。照れているが、目が合うと「本気だ」と断言した。
誤魔化すのは簡単だが、本心から「俺のアイカだ」と思った。その気持ちに嘘はつけない。そう告げてアイカの動きを待った。
一時的に固まったアイカだが、膝から力が抜けてペタンと座りこむ。両手を伸ばしてレイモンドに触れ、毛皮の上を撫でた。ドラゴンだが鱗はほぼない。短く柔らかな毛を撫でたアイカが、おずおずと答えた。
「あの……私も、レイモンドなら舐められても、その……いいかなって」
家の陰にいたブレンダががくりと膝をついた。隣のトムソンも項垂れている。
「そっちか」
「ああ、まあ……あの子だからね」
告白されて嬉しい! とか。または私も大好き! とか。返す言葉はいろいろあるだろうに、一番変態的な部分に返事をするなんて。顔を見合わせたトムソンとブレンダだが、すぐに肩を揺らして笑い出した。
あちらの邪魔にならないよう声を抑えたので、腹筋がかなり頑張っている。全力で走ったトムソン含め、明日は筋肉痛だろう。
「あの子達らしいさ、ね」
「いいと思うぞ」
二人は自分達のことを棚に上げて頷きあうと、裏口から家に入った。勝手に使用された家は荒れており、家具にも見覚えのない傷がある。室内も汚れていた。
「今日はここに泊まることになりそうだし、掃除するかね」
「犯人も半殺し程度にしてもらって、掃除をさせればよかったんじゃ」
「仕方ないさ」
ブレンダが用意したタオルで、トムソンが床や家具を拭いていく。箒で掃除するブレンダが一段落ついた頃、アイカが飛び込んできた。
「あああ! 手伝うのに!! 声をかけてよね」
騒がしく食器洗いを買ってでたアイカは、真っ赤な顔で足を気にしている。スカートから見える毛皮のない足を、何度も触れた。だが先ほどのように不満そうな感じは見受けられない。
くんと鼻を引くつかせた狼と、同じく鼻のいい熊は察した。彼女の足からレイモンドの匂いがする。つまり……そういうことだろう。上書き舐めをしたのだ。
「結婚式の申請を出さないと」
「それなら、私らも結婚しちゃうかい?」
やれやれとトムソンが呟いた言葉に、ブレンダがにやりと笑う。その提案はプロポーズ同然で。
「え? 二人も結婚するの?」
思わず口を滑らせたアイカは、慌てて自分の口を手で覆った。だが溢れた言葉は戻らない。結婚する約束をしたのだとバレ、無言で食器を洗い始めた。食器が片付くと、流しやキッチンの道具も磨き始める。
「肉を捕まえた。今日はこれとパンだけになるが……どうしたんだ?」
外へ狩りに出ていたレイモンドは、裏口から顔を覗かせる。照れたアイカに押し戻され、きょとんとした顔で尻餅をついた。
「肉はちゃんとバラしてきたのに」
昆虫姿を嫌うアイカのために気を使ったのに、なぜか追い出されてしまった。困惑するレイモンドが事情を知るのは、夕食後になりそうだ。
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