44.恋人同士にしては微妙な距離
料理人のバーニーは、ゾウの獣人だ。普段は街で食堂を営んでおり、数日おきにこの屋敷で料理を作るらしい。
「毎日じゃないんだ」
「そんな贅沢は出来ないからな」
竜帝陛下と言われる肩書きがあるのなら、さぞ稼いで贅沢な暮らしをしていると思ったのに? 顔に出た疑問を読み取り、レイモンドは大笑いした。
「俺の給料は、アイカの二割増しくらいだ」
「え?」
そういえばブレンダに金額を見せた時、支援金が多いと言われた気がする。猫もいるからその分だと思ったけど、考慮しても高額だったようだ。
「家も借りてるのに、いいの?」
ただの小娘に金を出しすぎじゃない? 直球で尋ねるアイカに、レイモンドはすっと真顔になった。
「いや、外の人に不自由させないのは獣人の誇りだ。それに家なら俺もタダで借りている」
この屋敷がそうだと指差すレイモンドに、アイカはがくりと肩を落とした。彼女の知る王侯貴族は、家賃とか分割払いに縁がないと思う。大抵はお金持ちなのだ。
「食以外に金を使う場所がないから、俺はわりと貯めているぞ」
お金ならあるから安心してくれ。なぜか婚活アピールのようなセリフを吐くレイモンドは、堂々と胸を張って得意げだ。アイカとしても散財癖がある男なら、すぐサヨウナラの対象なので安心した。
ある意味、鈍い同士で相性は抜群なのかもしれない。
「この卵、美味しいね」
見た目はただのだし巻き卵だが、驚くほど美味しい。
「ああ、特別製だからな」
バーニーに頼んでおいたと笑う。レイモンドなりのおもてなしだった。そう聞いたら、一層美味しい気がする。しっかり平らげるアイカだが、彼女なりに学習していた。
何が入っているか、聞いてはいけない。料理の材料を知らなければ、味の感想だけで済む。うっかり聞いたら、知らない方がいい話が出てくる可能性があった。そう、肉が昆虫だったように。
「明日は街の反対側へ行って、それからお昼を外で食べて帰ろう。夕方までには送ると、ブレンダに約束しているんだ」
「ありがとう」
紳士的だな。保護者のブレンダとした約束をきちんと守ろうとするところも、好感度が高い。
勧められて先に風呂へ入った。大き過ぎて、温水プールそのものだった。ひと気がないのをいいことに、お風呂で泳ぐという悪い遊びを楽しんでしまう。これは大人になったら中々できない。堪能して湯だった体を冷たい水で冷やし、用意された寝室へ入った。
さすがに小さなベッドは用意できなかったようだ。鳥の巣に似た巨大なクッションが置かれていた。外側が竹籠のように編まれており、縁がある。その中央にクッションと毛布……。
見覚えのあるベッドに潜り、目を閉じた。と、思い出して飛び起きる。
「猫のベッドだ!」
竹で編んだ籠に座布団と専用の布を載せて、猫達に使わせていた。あれにそっくり! 思い出したら気が済んで、アイカはぐっすり眠った。
風呂上がりにベッドに入ろうとしたレイモンドが、アイカが眠っているのに気づいて固まる。隣に用意した小さめのクッションではなく、メインのベッドに眠るアイカを眺め……そっと部屋を出た。
保護者ブレンダの許可なく同衾は出来ない。変なところで真面目なレイモンドは、少し離れた客間で一夜を過ごした。
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