42.お祝いムード一色で照れまくる

 サイは頭にツノがある。だがカバはない。自分に言い聞かせるアイカは、泳ぐのはカバと追加情報を頭に叩き込んだ。


 ブランドンとレイモンドの恋人疑惑は消え、告白されたことで逆にギクシャクする。それをジト目で眺めるブランドンは、空腹を堪えながら見送った。彼らが見えなくなったら、大急ぎで吐いた分の昼食を補充予定だ。


 二人はこれから屋敷や街を見物するらしい。竜帝の仕事に関係ないプライベートなので、秘書で補佐役のブランドンの出番はなかった。


「あ、その……離れないでくれ」


「うん……えっと……ありがとう」


 初々しいカップル誕生だが、周囲は違う意味で薔薇色だった。数百年の長い期間、獣人達のトップに立って世界を牽引してきた。そんなドラゴンがようやく番となる恋人を見つけたのだ。照れる二人の様子を見て察した周囲は、わっと盛り上がった。


 屋敷内では、使用人や仕事関係の人に祝福される。照れ臭くなって街へ出れば、お祝いムード一色だった。屋敷の人から漏れたらしい。通りを歩けば両側から声がかかり、大量の食料や雑貨品をもらう。抱えきれなくなれば、彼らが「屋敷に届けとくよ」と笑って手を振った。


 恋心を自覚するより、周囲が盛り上がる方が早いと何が起きるか。アイカもレイモンドも、応対することで己の気持ちを後回しにした。結果、街外れで顔を見合わせて、改めて赤面することになる。


「あの……いい人ばっかりだね」


「迷惑でないならよかった」


 大型の獣人ばかりが住む街は、何もかもが大きかった。店舗付き住宅が立ち並ぶ大通りは、一階の店舗部分の屋根が高い。アイカの住む家を縦に二軒積み上げるほど、天井が遠かった。いわゆる吹き抜け感覚だ。


 さらに二階もあるので、通り沿いは中層ビルが乱立する都会のようだった。ちょっと懐かしさを覚えるアイカだ。住んでいる種族もサイ、カバ、キリン、ドラゴン、ゴリラ、ゾウ……と見上げるサイズばかり。


「人間が小動物扱いのは理解したわ」


 小型で可愛いと口を揃えて言われたし、中にはロリコン呼びもあった。たぶん、幼く見えているのだろう。実際は成人してるけど、そう反論したら危ない。一度目の失敗に懲りたアイカは、反論せずに曖昧に笑ってやり過ごした。


 本人に自覚がないのは凄いが、アイカの笑顔がまた幼さを感じさせるのだ。その部分は彼女を怒らせそうなので、口を噤むレイモンドだった。


「その……突然意識させてすまないが、本当に好きなんだ」


「あ、りがと。たぶん、好きだと思うけど……」


 恋愛か確証がない。アイカの言い分もわかる。突然意識させられたのだから、待つつもりはあると伝えた。レイモンドの誠実な対応に、アイカは胸のドキドキを必死で抑える。


 どうやったら恋愛の好きか、そうじゃない好きか判断できるんだろう。迷ったアイカは、ブレンダに尋ねようと決めた。ある意味、他人に丸投げ作戦だ。この世界の母のような存在であるブレンダなら、的確な判断基準を示してくれるはず。


 丸投げされたブレンダは、同時刻、派手なくしゃみを繰り返した。ぐずぐずする鼻をかみ、驚いて逃げた猫達に餌を与える。


「なんだろうね、悪いことの前兆じゃないといいけど」

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