33.寝たら叩き起こす壮絶バトル?
朝から眠い。けれどまた眠ってしまったら、夜眠れなくなる。二人は顔を合わせて約束した。どちらかが寝たら、もう片方が叩き起こすことを!
ブレンダは食事を作りにキッチンへ、アイカは猫達のトイレを注文するためリビングへ。日本でいう鉛筆を手に、やや黄ばんだ紙の上へイラストを描く。キッチンから聞こえる規則正しい包丁らしき道具の音に耳を傾け、止まったら駆け込んで起こすつもりだった。
この場合、最初に眠くなるのは座っているアイカだ。昼食後の授業で眠ってしまう理屈に似て、睡魔が襲いかかった。一瞬、こくりと居眠りしたアイカの膝に、何かが刺さる。
「うぎゃっ! 痛い……ノアール?」
小さな黒猫が膝に爪を立てていた。振り返って誇らしげに「どうだ」と胸を張る姿に、苦笑いが漏れた。うちの猫達、本当に人の言葉を理解しているかも。猫飼い経験があれば、必ず陥る罠だ。
「ありがとうね」
ノアールの黒く艶がある背中を撫で、アイカは鉛筆を置いた。ノアールを抱き上げ、キッチンへ向かう。物音がしないのだ。覗いたキッチンでは、調理用の台に向かう後ろ姿があった。けれど手元は動いていない。
「ブレンダ」
びくりと肩を揺らし、振り返ったブレンダは困ったような顔をした。眠った自覚はあるようだ。互いにもう一度約束しあい、それぞれの作業を始める。
コンコン、ノックの音が響いたので私が玄関へ向かった。ここは街中だが、家にいるときは施錠する習慣がない。日本より治安がいいのか、それとも意外と田舎の風習に近いのか。
アイカが開いた扉の先は、大きな足と爪があり……外へ出てぐっと見上げれば、見慣れたドラゴンがいた。やたらと広い庭が付いている理由がわかった。巨大種に分類されるレイモンドやカーティスが休めるように。
「おはよう、レイモンド」
「ああ、おはよう。その……顔色が悪いが、ここは気に入らなかったか?」
紹介した家が合わないのかと尋ねるレイモンドへ、首を大きく横へ振った。抱っこしたノアールは恐怖からか、固まって動かない。足元を出ていくオレンジが、ふぎゃっ! とレイモンドで爪を研ぎ始めた。
「ちょ! オレンジ?!」
「ああ、構わない。この子は賢いな。俺の爪を使って痛みを与えないようにした」
素晴らしいと絶賛するレイモンドには悪いが、おそらく爪研ぎにちょうどいい高さだっただけかと。伝えない方がいいのに、アイカは素直に話してしまった。がっかりしたレイモンドだが、すぐに立ち直る。
「まあ、それはいい。昨日はどうしたのだ? ずっと留守だったじゃないか」
訪ねてきたのは、彼だけではなかった。話を聞く限り、カーティスとトムソンも顔を出したらしい。用があったら、またすぐに来るよね。アイカは「まあいっか」と軽く流した。
そこへブレンダも顔を見せ、朝食が出来たと鍋を指差す。なぜか二人分とは思えない分量だった。せっかくなので、庭でレイモンドと食べる話になり、二人がかりで鍋を外へ出す。その先は、レイモンドが爪で引っ掛けて運んでくれた。
以前使用したタライは置いてきたので、別の平たい鍋に流し込んだ。と、猫達が駆け寄り先に肉を持ち去る。オレンジはノアールの分も確保したようで、かなり大きな戦利品だった。
「すみません」
一応謝るのが飼い主だ。そう思ったが、きょとんとした顔のレイモンドは謝罪の理由が分からない。説明しながらの食事となり、食べ終わった頃には笑い話になった。本物の猫が悪戯したところで、誰も怒らない。それがこの世界だと太鼓判を押され、アイカは安心した。
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