29.別荘として残そうと思ってね

 朝食を食べたら、荷造りを始める。昼食や夕食でまた調理器具を使うので、台所は後回しにした。代わりに片付けるのは、ブレンダの服や持っていく布団だ。家具は当然置いていく。帰ってきてまた使うし、家を売るにしても家具付き販売するそうだ。


「海外は家具付きが多いんだっけ」


 日本人は家具ごと引っ越すので、だいぶ風景が違う。あれこれ呟きながらてきぱきと手を動かした。窓を開けて風を通すが、猫達に外へ出ないよう言い聞かせるのは忘れない。


「いい? 外は虫がいて危ないから、家から見える場所で遊ぶのよ。それと……特にオレンジ。今日の狩りは禁止ね」


 以前からよくネズミやら小鳥を連れてきたオレンジは、聞いているのかいないのか。はふっと大きな欠伸をして耳の後ろを掻いている。ただ、見えない距離へ行かないことは何度も言い聞かせた。こてりと首を傾げた後、ノアールを含めた三匹は日当たりのいい窓辺で眠り始める。


「理解してるのかい?」


「そう思いたい」


 たぶん通じてないけど、いつもと雰囲気が違うのは理解したはず。ならば遠くへ行かないだろう、たぶん。おそらく……きっと。ほとんど希望の段階だが、不安はなかった。呼んだら戻ってくる距離にいると思うんだ。アイカは楽観的にそう呟いた。


 客間の布団や家具は、そのまま巨大シーツを掛けて終わり。リビングの家具も同様なので、これは明日の朝に掛けることとなった。服を畳んで木箱に詰めていく。それを三箱、花瓶や絵画は綺麗に拭いて戸棚の中へ。食器類はほとんどを木箱に入れるのだが。


「へぇ、そんな方法があるのかい」


「ブレンダの入れ方じゃ、到着までに半分以上割れちゃうよ」


 苦笑いしながら、紙に包んで木箱に入れる。その際、隙間をタオルや冬服で埋めた。この世界の季節は大きく分けて二つ、夏と冬だ。中間の春や秋は異常に短かった。ほんの数日で一気に切り替わるらしい。冬服は内側が毛皮だったり、もこもこした綿が入っている。緩衝材にぴったりだった。


 どうせ運ぶなら、割れやすい物を保護しよう。そう言いだしたのはアイカだ。そのまま木箱に食器を入れたブレンダの反対側から、せっせと運び出した。慣れた手つきで包んで仕舞うアイカは、実は引っ越し経験が多い。


「仕事で転勤が多くて、大変だったけど慣れちゃった」


 笑いながら、次々と食器を纏める。それでも半分くらいは置いていくらしい。


「引っ越しの荷馬車に載らない?」


「いいや、ここを別荘として使おうかと思ってさ」


「ああ、なるほど」


 売ったり手放す選択をせず、このまま維持する。時々顔を出してゆっくり過ごすのにぴったりだった。そういう話なら、持っていく食器は少なくていいかも。遊びに来るたびにいろいろ運ばなくて済むのは助かる。


 荷物を纏め始めて半日、お昼を回った頃には掃除が始まった。数日ならいいが、長期で留守にする。カビに家を支配されないよう、しっかり掃除した。お昼ご飯は遅くなったが、家の外で食べる。草原を楽しむというより、掃除した家にゴミを持ち込まないためだ。


 猫達も今日は相手をしてくれないと分かったようで、それぞれにお昼寝で過ごした。ブレンダの家にある荷馬車に荷物を積み重ね、残った食料を確認する。


「全部煮ちゃう?」


「そうさねぇ、残すと虫に家を荒らされそうだし」


 それ、私の世界だと虫の部分が熊だった。伝えたアイカの背中をバンバンと叩いて、熊のブレンダは大笑いした。キッチンで食料を片っ端から入れた鍋のような料理を作り、調味料もすべて木箱に入れる。道具も同じように木箱へしまい、物がなくがらんとしたキッチンを見回した。


「これで明日はすぐ出られるね」

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