22.気が緩んだのかな、私

 この世界では、基本的に地上に住む種族は毛皮が生えている。海だと魚系で鱗だったり、イルカやクジラなどの皮もあった。この点は、日本の動物分類に近い。


 ただし、虫は別だ。巨大な上、人……というか、動物を襲うので注意と書かれていた。その下に注意書きとして、言葉が話せない動物は別世界から来た可能性が高い、と。赤い太字で注意喚起されていた。こういう文字関連の常識は、日本と近いかも。


「オレンジ達は話せない猫だから、本物?」


「本物というのは、外の人が持ち込んだ単語だ。我々だって、この世界では本物だからな」


「確かに」


 同意するしかない。アイカは苦笑いして受け止めた。毛皮が全身を覆ってない時点で、外見で私は外の人認定される。話せないので、オレンジやブラン、ノアールは本物の猫認定か。


 別世界から来たことが、外見とかですぐ判断できるのはいいな。


「質問いい?」


「どうぞ」


 促されて、獣だけど人であるこの世界の住人そっくりの、別世界の人が来たことはあるのか。質問した。いわゆる外の人だけど、見た目で区別がつかないパターンだ。


「……記録にはないな」


 うーんと考え込んだあと、レイモンドはあっさり否定した。どうやら獣人はこの世界だけらしい。昔観たファンタジー映画を思い出す。終わらない物語みたいなタイトルで、すごく美しい映像だった。


 あの世界に来たと思えば、悪くないね。アイカは意欲的に取り組む気になった。愛猫達を養いながら生活するためにも、早く常識を一致させて働きたい。もちろん保護費用が出るなら助かるけど、それって生活保護費だから、税金だと思う。遊んで暮らしてお金をもらうのは、気が引けた。


 四つ足と二本足の違い、手先の器用さ、種族ごとの特性で、仕事が選べるのは便利だ。人間の手は器用だから、細かな仕事に向いているかも。そんな雑談を交えながら、膝にオレンジを乗せて話し続けた。


 あっという間に日暮れが近づき、伏せていたレイモンドが身を起こす。同じ姿勢でいたので、体を伸ばすようにストレッチした。それから振り向いて注意をいくつか残す。


 本物の猫より大きな昆虫が出たら逃げること。逃げる先は水か、建物限定。森の中に一人で入らない。ブレンダが危険だと言ったら、大人しく引く。


 一つずつ指を折りながら、しっかり頷いた。どれも命に関わる注意だろう。アイカは有り難く言葉を胸に刻んだ。


 カーティスは夕飯に遅れると全力疾走で消え、竜帝レイモンドも飛び立った。いきなり静かになった家に猫達を追い立てる。ブランはソファー、オレンジは床の上、末っ子ノアールはアイカの服に潜っていた。全員いるのを確認し、扉を閉める。


「あ、机!」


 さっきまで台にしていたため、外に置きっぱなしだ。慌ててブレンダと回収に向かい、室内で綺麗に拭いた。明日からの台を考えないと、そんな話をしながら室内の猫達を目で追う。


 白いブラン、黒いノアール、あれ?


「ブレンダ、そっちにオレンジいない?」


「来てないけどね」


 調理の手を止めて戻ってきたブレンダと手分けして探し、見つからないことに青ざめた。


「危険だから、戻ってくるまで待ったほうが……」


「危険なら尚更、私が助けないと!」


 アイカは覚悟を決めて扉を開いた。名を呼んでも、あの独特な返事が帰ってこない。泣きそうな顔でアイカは駆け出した。


「アイカ?!」


「家の周りだけ!」


 すぐに戻るから。そう言い置いて裏側へ回った。どうしよう、机に気を取られて開けっぱなしにしたから? 日本でもこういう事件はよく聞いたから、注意してきたのに。気が緩んだのかな。


 泣きそうな顔で裏庭へ回ったアイカは、見慣れた三毛猫の毛皮にほっとする。


「オレンジ、ダメよ、もう……っ!?」


 叱りながら抱き上げたアイカの腕で、オレンジは「フシャーッ!」と威嚇の声を上げた。

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