15.別世界からの移住申請完了
カーティスは運んだお礼を果物で受け取り、一部を返した。代わりに猫と遊びたいと希望する。この辺は猫の気分次第なんだよね。アイカは部屋の中で寛ぐ愛猫を呼んだ。
「オレンジ、ブラン、ノアール」
走ってきたのは全員だけど、ノアールは巨大鹿に気づいて隠れた。やっぱりダメか。ブレンダとアイカは顔を見合わせて苦笑いする。オレンジは一番度胸があり、カーティスを群れの格下と見做したらしい。伏せた鼻先へどっかり寝そべる図々しさがあった。
ブランは大きな目が気になるようで、近づいては離れて遊んでいる。鏡かガラス戸感覚なのかも。姉と兄にあたる二匹が平然としているので、ノアールが恐る恐る顔を覗かせた。
「カーティス、今は動かないで」
ノアールがじりじりと近づいている。だから動くと今度こそ寄って来なくなるわ。アイカの忠告に、カーティスは息もひそめて固まった。頭によじ登ったブランが、さほど大きくないツノで遊び始める。オレンジの脇から鼻先を突いたノアールが、さっとまた隠れた。でもすぐに顔を見せる。
突いても安全だと判断するまで、数回同じことを繰り返した。そこでようやく「図体はでかいが危険はないカーティス」として記憶されたみたい。今は鼻に寄り添う形でぺたりとくっついて休んでいた。
感動したカーティスの目が潤む。本当に猫が好きなんだな。というか、小動物全般が好きなんだよ。ブレンダの説明にアイカは納得した。なるほど、体が大きいお人好し分類かも。大型犬は小さな猫の悪戯に目くじら立てない、それに似ている。
新しい家具が届く前に、使ってなかった部屋の掃除を……そんなブレンダに頷き、アイカも服の袖を捲った。雑巾代わりの古着を濡らして絞り、さて! と気合を入れたところに、声が掛かった。
「ブレンダ!」
走ってきたトムソンが、千切れんばかりに尻尾を振っている。首に付けた筒は、前回書類を入れていたものだ。それを開けて中から書類を取り出した。
「申請が通った。アイカの身分証明書じゃ」
「え? 早いね!」
ブレンダが驚きの声を上げる。そんなに早いのかな。アイカは受け取った書類をじっくり読んでみた。自分達が記載した書類に、封蝋みたいなスタンプがされている。あと受付日が書かれて、それからミミズがのたくったようなお洒落サイン。これが役所の人なのか。
読めないサインを無視して、書き加えられた場所を探す。滞在を許可する、の文章と後ろに数字があった。これなんだろう。
「竜帝様の署名じゃないか。街にいらしたのかねぇ」
お洒落サインは竜帝……ん? 帝って偉い人だよね。アイカはじっくり眺めた。そんな人が街にいたの? 遠くまで書類を送ったなら、返事はもっと時間がかかったはず。凄い偶然だな、運がいい。アイカは深く考えずに幸運を喜んだ。
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