第13話 最終手段


「喧嘩売ってんのかお前ら?やるか?」

 そう言い、それと同時にレグル山賊全員が手に持っていた剣を力強く握りしめた。


 ちょっと待ってくれ!そういう展開はマジでダメだって!

「そ、そう言う訳では無くてだな......」

 俺は今にも斬りかかって来そうなレグル山賊達を何とかなだめようとする。


 しかし、完全にスイッチが入ってしまっているセリヤはレグル山賊を煽る様に、

「やってあげても良いわよ?」

 そう言った。ちょ!何やってんだよセリヤ!


「ちょっと落ち着け!」

 俺は今にも背中に指してある剣を抜きそうなセリヤにそう言う。


 しかし、レグル山賊の奴らは、セリヤのこのセリフで完全にやる気になってしまった様だった。

 くそ……斬り合いになったら死人が出るぞ……もしそうなったら俺達がこれから冒険者を続けられるかも危うい。


 くそ……こうなったら俺の奥義を使うしか無いのか……

 そう、俺はあらかじめ、もしこんな展開になった時用に、ある最終手段を考えていたのだ。


 まぁこの手段はいくら山賊相手でも悪い気がして出来ればしたくは無かったのだが……この際しょうがない。よし……!

 俺はそう心の中で覚悟を決めると、手に持っている剣をブンブン振り回して、今にも斬りかかって来そうなレグル山賊の前に立つ。

 そして片手をポケットに突っ込み、あらかじめ持ってきていたを掴む。


 レグル山賊の男達は、いきなりセリヤの目の前に立った俺に対して、

「どけ、俺達はお前の後ろにいる女に用があんだよ」

 そう言う。ひぃ、やっぱおっかない奴らだぜ。


 だが、ここで引く訳には行かなかった、ここで引けば、直ぐにレグル山賊と俺の後ろにいるセリヤの斬り合いが始まるからだ。

 だから俺は、剣を肩に当てて睨みつけてくるレグル山賊からも引かずに、ポケットの中でしっかりと握り締めたそれを勢い良くレグル山賊の奴らに突き出した。そして、それと同時にこう言ってやったよ。


「これで勘弁して下さいッ!!」

 そう、俺がポケットから出した物はゴールドだった。

 ん?なんだ?凄くダサイって?いやいや、今に見てろって。

 これも作戦の内なんだぜ?


 いきなりゴールドを出して頭を下げた俺に対して、無精髭の男は、呆れた様に、

「お前、舐めてんのか?」

 そう言う。それに続く様に、他の男達も俺に暴言を飛ばしてくる。


 それでもなお、頭を下げ続ける俺に呆れたのか、それとも怒っているのか、セリヤは、

「ちょっと!なにやってんのよ!!」

 そう叫んでくる。

 しかし、俺は、「ちょっと黙ってろ」そう言って黙らせた。


 この作戦を成功させるには、絶対にこの状態で相手にゴールドを受け取らせる必要があったからだ。

 その後も、レグル山賊共の暴言の嵐は止まらなかった。

 正直心が折れそうだったぜ。

 前の世界で上司から毎日暴言を吐かれまくっていた俺でも流石にキツかったくらいだ。


 しかし、3分程経った頃、急に無精髭の男が、暴言を吐いている仲間に対して、「もういい」そう言い、黙らせた。

 そして、酷く冷めきった、まるでゴミでも見るかの様な目で俺を見ながら俺が差し出していたゴールドに手を伸ばした。


 よし……!良いぞ……!

 そしてゴールドに手が触れそうになった瞬間、俺はこの時を待っていたかのようにニヤリと笑い、今まで下げていた上半身を起こすと同時に杖に力を込め、呪文を唱えた。

 

「光を放て!シャイニングボール!!」

 その瞬間、俺の杖からレグル山賊の方に光の玉が飛んで行く。

「なんだ!?」

 その光の玉に反応したレグル山賊の男達はそう声を上げたが、もう遅い。


 光の玉は勢い良く飛び、レグル山賊のちょうど頭上辺りまで来た所で爆発した。その瞬間――


「なんだ!?」「ぐあぁ!?」

 ものすごく強烈な光が、レグル山賊の目を襲った。

 その光により、レグル山賊の男達は目を手で押えて、動けなくなる。


 この瞬間を待っていた!俺はすぐさま後ろを向き、あれからずっと黙っていたセリヤにこう指示を飛ばした。

「今だセリヤ!アイツらのキンタマを蹴り上げろ!」


「え?ちょ、いきなり何言ってんのよ!?」

 セリヤはそう俺の指示を理解出来ていない様だった。

 あーもうクソ!光の効果が切れるじゃねぇか!!

「良いから早く!!」

 俺は必死の形相でセリヤにもう一度指示する。


 すると、流石のセリヤも俺に押されたのか、

「わ、分かったわよ、やればいいんでしょ、やれば!!」

 そう言い、目を押さえているレグル山賊の男達のキンタマを容赦なく蹴り上げた。


「あがぁ!」「うぎゃぁ!?」「うぐぅ!?」

 容赦なく蹴り上げられたキンタマを押さえて悶絶する男達。

 うげ......流石にやり過ぎか......?ってそんな事ない!


 俺はキンタマを押さえて地面に倒れ込むレグル山賊の男達に(若干同情しながらも)こう言った。

「さっさと薬草の森から出ろ!じゃないともう一発するぞ!」


 それを聞いたレグル山賊の男達は途端に顔を更に青白くし、

「く、くそ......覚えて...やがれ...!」

 そう言い、キンタマを押さえながら、その場から逃げて行った。


 よっしゃ!!作戦成功!上手くいって良かったぜ!

 俺はセリヤの方を向き、この喜びを分かち合おうとする。

 しかし、

「よし!なんとか上手くいったな!って......」

 セリヤは頬を真っ赤に染め上げて俺の方を睨んでいた。

 ちょっと待ってくれ嫌な予感しかしないんだが……


「セリヤ......さん?」

 俺は怒っているセリヤに恐る恐る声を掛けた。

 するとセリヤは頬を真っ赤に染めてこう叫んだ。

「何私に恥ずかしい事させてんのよ!!」

 それと同時にセリヤは、レグル山賊の男達にした様に俺のキンタマを思いっきり蹴り上げた。


「うげぇ!?!?」

 いきなりの激痛に堪らずそう声が漏れる俺。

 そのまま地面にひれ伏し、そこで俺の意識は闇へと落ちて行った。


 

 その後、セリヤは気絶した俺をなんとそのまま置いて帰りやがったらしい。

 だから気絶した俺の事は、村長が送ってくれた援軍の冒険者達が助けたんだと。


 はぁ......追加で村長がくれたゴールドは全部セリヤの物になったし、散々な一日だったぜ、全く。


 まぁ、でもこの出来事を通してお前らに何を伝えたかったかって言うと、女子にキンタマ蹴れなんて指示、出さない方が良いって事だ。

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