第11話 レグル山賊


「村長はいますか!」

 突然村長の家に入って来た若い男は、荒い呼吸をしながらそう言った。

「あぁ居るが、どうした?」

 村長は、不思議そうな顔で男を見ながらそう言う。

 俺とセリヤも村長と同じ様に、いきなり入って来た男に視線を向けていた。


 すると男は、必死の形相で、

「薬草の森にレグル山賊のメンバーらしき集団が居るという報告がたった今入りました!」

 こう言った。


 それを聞いた村長は、急に眉をひそめて、

「レグル山賊...またか」

 呆れるようにこう言った。


 村長のセリフに乗っかる様にセリヤも、

「レグル山賊...出来れば聞きたくなかった名前ね」

 同じ様に眉をひそめてそう言った。


 ちょっと待ってくれ!急展開過ぎてついていけていないんだが!

「ちょっと待ってくれ!さっきから会話に出てきてるレグル山賊ってなんなんだ?」

 俺は何とかコイツらの会話についていける様にレグル山賊とやらが何なのかを聞いた。

 すると、俺のこの問いに対して、セリヤが「はぁ……」と、ため息を吐いてから、

「色んな街で悪さをしている山賊の事よ」

 こう答えた。


 なるほど、やっぱりどんな世界にも悪い奴らは居るんだな。

 だからこのレグル山賊とやらの話題になった途端、セリヤも村長も機嫌が悪くなった訳だ。でもよ――


「この街でどんな悪さをするって言うんだよ?」

 これがさっきから疑問に思っていた事だった。だってこの街本当になんも無いじゃん。


 すると、その問いに対しては村長が答えた。

「この街は薬草の質が良いとして有名なんですよ。」

 へーそうなんだ、それは知らなかったな。

 あ、だから薬草集めのクエストが多いのか。


「だから度々、レグル山賊達が薬草を奪っていくんです」

 村長はため息混じりにそう答えた。


「何か対策はしなかったのか?」

「していましたが、あの山賊のリーダーがなかなか厄介なヤツでして……対策しても結局奪われるんですよ。」

「……なるほどな」


 それで今家に飛び込んできた若い男はそんな何度も薬草を取っていくレグル山賊が薬草の森にいる事を村長に知らせに来た訳か。

 でもよ――それはどうにも出来ないことなんじゃないか?

 だって対策をしても取られるんならもうどうする事も出来ないだろ。もちろん悪いのは100パーセント相手だろうが、俺達がどうにか出来る問題じゃ……


「私たちが止めに行くわ」

 セリヤのそのセリフは、俺の思考を遮る様に放たれた。


 は?いやいやいやいや!何言ってんだよこいつ!

「それは流石に無理だろ」

 俺はセリヤの無謀すぎるセリフにそう反対する。

 するとなんと、


「食い止めてくれるとありがたいです」

 村長もセリヤのセリフに乗っかりやがった!

 バカかコイツら?相手はこれまで何度もこの街を苦しめてきた山賊なんだろ?たった二人で食い止めれる訳ねぇだろ!

 俺の考え、間違ってないよな?


 しかしセリヤは、

「行きましょテツヤ、私たちなら出来るわ」

 いつも通りのニコッとした笑顔で俺にそう言う。

 その言葉からはセリヤの強い意志が感じられた。


 はぁ……本当バカだよお前。

 とんだお人好し野郎だっての……まぁでもそれは俺もかもしれねぇな。


「早く案内しろ」

 俺は椅子から立ち上がり、玄関で立っている若い男にそう言った。

「あ、あぁ!」

「行くぞ、セリヤ」

 俺は椅子で座っているセリヤにそう言う。

 そのセリフを聞いたセリヤは、凄く嬉しそうに、

「えぇ!」

 そう言った。


 俺達三人のやり取りを見ていた村長は、

「本当に貴方達は……感謝してもしきれません。直ぐに援軍の冒険者達をそちらに送ります、それまでどうか無事でいてください。」

 涙を目尻に浮かべながらそう言った。


 無事でいてください。ねぇ......はぁ、俺達はこれから人間と殺し合いでもすんのかよ。

 正直なんでさっき俺が若い男に「早く案内しろ」なんて言ったのか自分でもよく分からなかった。でもまぁ――


 俺は急いで家を出るセリヤを見ながらこうポツリと呟いた。

「俺はコイツとなら大丈夫だってからだが思ったんだろうよ。」


「テツヤ!早く!」

「あぁ、すぐ行く。」

 俺は頭の中でブツブツと文句を垂れ流しながらも、薬草の森に向かって走る二人の背中を追いかけた。

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