第9話 ドッキリ


「じゃあ朝ごはんの準備するわね」

 机の上に山積みにされたパンを片付けながらセリヤはそう言う。

 コイツ、こう見えて切り替えが凄く上手な奴なのだ。


「俺も手伝おうか?」

 そう言い、立ち上がろうとしたが、セリヤに止められた。

「私一人でやるから大丈夫」なんだと。

 自分で散らかした物は自分で片付ける。みたいな自分ルールがコイツにはあるんだろう。

 俺はセリヤのお言葉に甘えて朝ごはんが出来るまでの間、椅子に座ってゆっくりする事にした。


 よし、じゃあセリヤが朝ごはんの準備をしてる間に、昨日の後日談と今日の予定を説明していこうと思う。


 昨日俺達が大蛇を討伐した後、少年Bを助けを求めていた少年の所まで連れて行ったんだ。

 まぁ予想はしていたが二人にはめちゃくちゃ感謝されたよ。

 助けを求めていた少年は俺達に泣いて抱きついてきたし、少年Bは俺達に「命の恩人」や「本物のヒーロー」なんて二つ名を付けてずっと呼んでた。


 あれは結構嬉しかったぜ。

 ちょっと前まで会社で毎日頭をペコペコ下げてた俺がヒーローなんて呼ばれる日が来るとは思ってもみなかったからな。って少し話がズレたな。えっとどこからだっけ?


 あ、思い出した。それでその後俺達はそのまま二人にさよならを言って帰ろうとしたんだ。

 もうその頃には日が落ち始めていたからな。

 でも少年と少年Bはどうしてもお礼をしたいからと言って、俺は少年Bの家の住所が書いてある紙を渡されたんだ。

 その時知ったんだが、少年Bはこの街、ミリゴの村長の子供だったんだと。

 俺はその時思ったんだ。

 これもしかしたら何かくれんじゃね?と!

 だから俺は快く住所が書かれた紙を受け取り、そんでこの後朝ごはんを食べたらその村長の家に行くって訳。

 少し長くなったが、昨日の後日談と今日の予定はこんな所だ。


「テツヤ」

 お、説明している間に朝ごはんができたかな?

「ほいほ〜い」

 俺はそう機嫌の良い返事をし、自分の目の前に置かれた食べ物を見た。……って


「パンだけじゃねぇか!」

 俺は目の前に置かれた食べ物を見た途端そう叫んだ。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。

 確かにパンは朝ごはんとしては定番中の定番。


 これを出しておけば間違いないみたいな所はあるが……

 それでも食パン三枚"だけ"はねぇだろ!せめて飲み物くらい用意してくれ!喉詰まって死ぬわ!


「え?パン嫌いだった?」

 パンを見た瞬間叫び、頭の中でブツブツ文句を垂れ流している俺に、セリヤはそう申し訳なさそうに言ってくる。

 

「いや、そう言う事じゃ無くてな――」

 確かにこれでセリヤも食パンだけだったらまだ「あ〜この家の朝ごはんって食パンオンリーなんだぁ」ってなるよ、けどよ……!

「なんで俺は食パンでセリヤはケーキなんだよ!!」

 しかもワンホール!!意味わかんねぇよ!


「おかしいかしら?」

 おかしすぎるよ!女王様でもそんな食い方しないって!


 はぁはぁ……ツッコミどころ満載すぎるって。


 俺が肩でゼェゼェ息をするのを(´・ ・`)こんな顔で見ているセリヤ。

 もしかしたらセリヤ、本当に俺に申し訳無い事をしたと思っているのかもしれない。

 ……まぁ確かに、家に泊めてもらってる側だし、食べ物を出して貰えるだけありがたいと思うか。


「まぁ良いよ、じゃあ食べるか」

「えぇ、早く食べましょ!」

 めちゃくちゃ口からヨダレ垂らしてるじゃねぇか。

 どんだけケーキ好きなんだよ。

 ……可愛い野郎め。


「じゃあ、いただきます。」

「いただきます!」


 ケーキにがっつくセリヤを見ながら俺もお皿に積まれた食パンを口に運ぶ。コイツ、やっぱり可愛いぜ。

 もぐ、俺はそう思いながら食パンを口の中で咀嚼した。瞬間、カビ臭い匂いが口の中を漂い始めた。


「……何かこれ臭くないか?」

「あぁ、それ腐ってるわよ?」


 は、はぁぁ!?く、腐ってるだと!?!?

「な、なんで腐った食パン何か出すんだよ!!」

 俺は口の中を漂うカビの匂いに涙目になりながらも、セリヤにそう叫ぶ。

そんな必死な形相の俺に対して、セリヤは口の中にあるケーキを飛ばしながら

「テッテレー!ドッキリ大成功!」

 そう言った。


 やばい、コイツマジモンのサイコパスじゃねぇか!

 俺は未だにガバガバ笑っているセリヤを見ながら、命の危険を感じるのだった。



「ご馳走様でした!」

 セリヤはケーキを食べ終わると、元気にそう言い、すぐに出かける準備を始めた。

 対して俺はというと……

「うぅ……」

 何度うがいをしてもなお口に残り続けるカビの匂いに苦しめられていた。


「ね、ねぇテツヤ?大丈夫?」

 流石に申し訳なくなったのか、セリヤはさっきから俺に妙に優しかった。


「はぁ、もう大丈夫だ。」

 本当の所大丈夫では無いが……セリヤもこんなに反省しているんだ。ここで変にキレるのも申し訳ない。


 俺は、椅子から立ち上がり、一度大きく伸びをする。

 そしてセリヤにこう言った。

「じゃあ行くか」

「えぇ、行きましょ!」

 俺が怒っていない事に安心したのか、セリヤは明るくそう返事をした。


 家を出て、昨日渡された紙を見ながら10分程歩いていると、それっぽい建物が見えてきた。

 しかし、俺は最初住所の書き間違えかと思った。


「本当にここで合ってるのか?」

 そこは、村長の家とは到底思えない、ボロっちい家だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る