第3話 家

3

皆んな聞いてくれ、俺は今生まれて初めて女の子の家に来ている。

 忘れている奴もいるだろうから簡単に何故こうなったのかを話すと、大蛇に襲われていた所をセリヤと言う冒険者に助けて貰い、そのセリヤに家が無く毎日激安の宿に泊まっている事を教えると、「じゃあ家来る?」みたいな感じになって今に至る。

 説明が下手だって?細かい事は気にするな。


 それで俺は今セリヤの家にいる訳だが、家主のセリヤはと言うと、今風呂に入っている。全く、客人を置いたまま一人で風呂に入りやがって。

 まぁ変に礼儀正しくされるのも気まずいから別にこんな感じで良いんだけどさ。


 ……それにしても今女の子が風呂に入ってると思うと、なんかどきどきするな。この気持ち分かってくれる奴も居るはずだ。


 それから10分位して、セリヤが風呂から上がる音が聞こえた。ふぅ〜やっとこのどきどきから解放される。俺は目を瞑り、軽く胸を撫で下ろした。


「ふぅ〜気持ちよかった〜」

 リビングに風呂上がりのセリヤが入ってくる音がする。

 よし、俺も風呂に入らせてもらおうかな。


俺はまぶたを持ち上げてセリヤの身体を視界に入れた。って!?


「ふぇぇん!?」俺はセリヤを見た瞬間、そんな素っ頓狂な声を上げた。なんでかって?じゃあ教えてやろう。

 聞いて驚くなよ?なんとセリヤはすっぽんぽんでリビングに入ってきやがったんだ!


「どうしたの?何変な声出してんのよ」

 セリヤは入ってきた最初こそ気づいていなかったが、すぐに俺が顔を真っ赤にしている理由に気づき、

「……!?ひ、ひゃぁ〜!!エ、エッチ!!」

 細い手で大切なところを必死に隠した。


 お〜貧乳だから簡単に隠せてるじゃん!って俺は何を考えてるんだ!?こういう時どうすれば良いんだよ!誰か助けてくれ!

 俺はどうすれば良いか分からず、って言うかこんな時にどうすれば良いかなんて分かるやつは居ないだろう。

 だからとりあえず、

「ふ、服を着てくれ!!」

 そう叫んだ。


 その叫びを聞いたセリヤは、頬を真っ赤に染め、涙目になりながら風呂の方にダッシュしていった。


 はぁはぁ、マジで心臓飛び出るかと思ったわ。俺は脳内にしっかりと焼き付いたあの光景を(๑´ω`๑)こんな顔で思い出していると、ちゃんと服を着たセリヤが頬を赤らめながら帰ってきた。


 ……実に気まずい。

 あのーセリヤさん?そんな表情で俺の対面に座るのやめてくれません?めちゃくちゃ興奮してくるんですが。


 俺は真っ赤な顔で俯いているセリヤを見ながら必死に興奮を抑えていると、ふとセリヤが口を開いた。


「さっきはその...ごめんね?」

 そのセリフは恐らく、もうこんな雰囲気は終わりにしようという意味が込められていたのだろう。

 それに合わせて俺も、「全然大丈夫!こっちこそなんかごめんな!」なんて爽やかなセリフ(かどうかは分からないが)を出せれば良かったのだが……この時の俺はさっきの事もあり、テンションが狂っていた。


 俺はとっさに、セリヤに向けて笑顔でこう言い放ったのだ。

「全然大丈夫!逆に感謝したいくらいだから!」


 そのセリフを聞いたセリヤは理解が追いつかなかったのか、「かん...しゃ...?」と俺が放った言葉をリピートしている。明らかに引き気味に。


 やっちまった!なんでこう変なことを言ってしまうのだろうか!明らかに異常だろ!


 俺は更に気まずくなってしまった空気の中でもがき苦しんでいると、セリヤもそんな空気に耐えられなくなったのだろう。俺の先程のセリフの事は深掘りせず、この部屋から俺を追い払うように、

「と、とにかくテツヤもお風呂入って!」

 そう言った。


俺はそのセリフにすばやく反応し、

「あ、ああ!」

 そう言うと同時に立ち上がり、セリヤが先程の俺のセリフを深掘りしなかった事を感謝しながら、逃げるように風呂へと向かった。


 風呂に入って異世界転生してからの疲れや汚れを洗い落とした俺は、湯船に浸かる事にした。

「これがセリヤの入った後の湯船……」

 口からそう言葉が漏れる。ちなみに再度補足しておくが、俺は異性の家に泊まった事も無ければ、入った事も無い。

 当然、異性の家の風呂に入るのも初めてだ。

 俺はゴクリと口の中に溜まった唾を飲み、セリヤが入った湯船ユートピアへと足を踏み入れた。


「はぁぁ」

 少し冷めてぬるくなったお湯は俺の身体を優しく包み込んだ。俺は目と口をこんな感じにとろけさせながら、しっかりと肩までお湯に浸かった。


 しばらくそれを堪能した俺は、風呂を出る事にした。あ、湯船のお湯は飲んでないぜ?


「ふぅ〜気持ちかった。」

 俺はそう言いながら、リビングに入る。(ちゃんと服は着たぞ?)

「風呂にまで入らせてもらって、本当にありがとな。」

 俺は首にかけているタオルで頭を拭きながらそう言い、セリヤの対面に座った。


「えぇ、全然大丈夫よ。」

 セリヤは先程から手に持って眺めていた写真から視線をこっちに移しそう返事をする。


 さっきの事があったってのに普通に話してくれるんだな……

 俺はセリヤの心の広さに感服しながら、俺もなにか話を広げようと、手に持っていた写真の事を聞いてみた。


「その写真、両親なのか?」

「えぇそうよ。」

 そう言いながらセリヤは写真を見せてくれた。

 そこには、身体が大きく背中に剣を背負っている男性と、優しそうな女性、そしてその間に可愛く笑っている少女――セリヤが写っていた。


「優しそうな両親だな。」

 俺は率直な感想を述べる。ベタなコメントかもしれないが、三人とも幸せそうに笑っていたんだ。


「えぇ凄く優しい両親わ。」

 セリヤは、俺のコメントにそう返す。


 この時俺は何故セリヤのセリフが過去形なのか気になり、その理由を聞こうとしたが、すぐにその理由が分かった。

 

 彼女の目には、悲しみと確かな怒りが浮かんでいた。

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