第7話 彩美の世界 その6
「よし、終わっ――」
珪斗が両手を突き上げて快哉を叫ぼうとしたその瞬間、世界が暗転した。
「え?」
「デス?」
ふたりで見上げる空に、さっきまでの青さはない。
まるで夕方を飛び越えて瞬時に夜と化したかのように。
それでも明瞭な視界に、今、自分のいる所が明らかに異常な世界であることを珪斗は直感する。
「これは、……どうなったんだ、一体」
ケーブルをつながれたままの珪斗は銃を握りしめて周囲を窺う。
「なんなのデス、なにが起きてるのデスっ?」
珊瑚も同様に周囲を見渡し、戸惑っている。
その時、珪斗が気付いた。
「珊瑚、それ」
銃で指すそこには貝殻がひとつ。
「これって……もしかして……デス?」
それはさっきまでそこにいた端岡彩美が姿を変えた貝殻だった。
「いつのまに……」
「てゆーか、どーして貝殻になってるんデスかああああああっ」
混乱した珊瑚が叫ぶ。
貝殻はクラックから伸びる禍々様のタコ足に触れた生物が姿を変えたもの。
しかし、ここに存在したクラックも禍々様もついさっき珪斗が“封緘”したばかりで、今はどこにも気配すら存在しない。
なのに――なぜ?
「……珊瑚」
「はいデスっ」
珊瑚がびくうっと振り返る。
その名を呼んだのは虎目だった。
虎目は“ごほごほ”と赤い咳に顔をしかめながら首を起こして珊瑚を見る。
その異様な光景に珪斗は立ち尽くす、珊瑚はおそるおそる腰をかがめて虎目に顔を寄せる。
「な、なんデス」
虎目がささやく。
「十四秒後――砂漠で――クジラが――手袋を――育てた」
珊瑚の顔色が変わった。
「そ、それは……デ……ス」
虎目は暗黒の空へと目を戻し、微笑む。
「これで、私の、役目は、終わった。あとを……」
最後まで言い切ることなく静かに目を閉じる。
その身体がゆっくりと蒸発するように消えていく。
珊瑚は血溜まりにがくりとヒザをつき、焦点の合わない目でぶつぶつとなにかをつぶやいている。
明らかに尋常でないその様子に珪斗が声を掛ける。
「珊瑚? どうした、大丈夫か」
我に帰った珊瑚は、はっとした表情で立ち上がる。
そして、珪斗を見る。
「これからもう一箇所、行かなきゃならない所があるのデスっ」
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