第5話 笑わない珊瑚 その2
珪斗は歩きながら考える。
珪斗と珊瑚が神社でクラックを閉じたのは火曜日であり、そして、今日は金曜日。
火曜日の神社で貝殻から戻った管郎だが、珪斗と珊瑚は管郎が意識を取り戻す前に現場を離れた。
珪斗をとにかく下位に置きたい管郎ゆえに、状況を理解すると同時にいつにも増しての悪態をつくことが容易に想像できる以上、この場にいたくないのは当然のことだった。
すでに真珠との関係が切れていて、さらに、貝殻にされたところを救ったのが他ならぬ珪斗なのである。
管郎にすればこんな屈辱的な話はない。
その面白くない胸中をそのまま珪斗への八つ当たりとして発散させてくることは考えるまでもなく、わかりきったことだった。
管郎がそういう人間であることを、珪斗はこれまで散々思い知らされているのだから。
珪斗は改めて今週のできごとを頭の中で整理してみる。
珪斗と珊瑚が神社でクラックを閉じたのは火曜日の夕方。
珊瑚の話では真珠と管郎の封緘活動が止まったのはその前日である月曜日の昼。
その時点で、理由も経緯もわからないけれど管郎は貝殻になったのだろう。
それから一日が経過した火曜日の夕方、珊瑚と珪斗によって神社のクラックは閉じられ、管郎は元に戻った。
その管郎は、もしかしたら学校をさぼっている間も、何事もなく通っているという“虚偽の報告”を実家の両親にしていたのではなかろうか。
それも毎日。
しかし、月曜日の夜、管郎は貝殻として神社の軒下にいた。
当然、連絡もできないし、連絡がないことを気にした両親が電話してきたとしても対応できるわけもない。
そんな状況を親はどう捉えたか。
“異常事態”と捉えたか“遊び歩いてると苦笑して済ませた”か。
管郎の親はどっちだ?
もし、管郎の一人暮らしが放任主義の結果としての一人暮らしなら、一日ぐらい連絡が付かなくても気にしないだろう。
しかし、甘やかした結果の一人暮らしならそうはいくまい。
“甘やかしたがる親”というのは過保護な一面も持っていて、いちいちくだらないことで騒ぎ出す。
本人は学校で嫌なことがあったから口数が減っているだけなのに“しゃべらないのは身体の具合が悪いに違いない”と決めつけ、大騒ぎして根掘り葉掘り体調を訊きだしたりするような――いわゆる親バカというやつだ。
珪斗はそんな親を小学生の頃に同級生の家へ遊びに行った時に見たことがある。
管郎の親もそんな感じに違いない。
そうでないと――過保護な親でないと、こんなに早く転校が決まるわけがないのだから。
一人暮らしの息子と連絡が付かなくなった両親は、学校へ確認したのだろう。
息子と連絡が付かない、学校にまだいるのか?――みたいな。
しかし、学校は答える。
管郎君ならずっと休んでますけどね、と。
その後、管郎は珪斗と珊瑚の活躍によって、めでたく貝殻から復帰することができた。
改めて管郎と連絡を取ることに成功した両親は管郎に休んでいた経緯を訊きだそうとする。
しかし、管郎は答えない、答えられるはずがない。
真珠なる素性不明な美少女となにをやっていたかなど。
そんな要領を得ないやりとりの末、両親は管郎を手元に戻すことにしたのだろう。
そして、水曜日と木曜日を費やすことでばたばたと引っ越しや転校の手続きを済ませて今日の金曜日を迎えた、といったところなのだろう。
ちなみに転校先としてささやかれていた“北高”とは正確には“紙上北高校”であり、いわゆる“お金持ち家庭の子息や令嬢が通う私立校”だが、その内部は“血と暴力と絶望の支配する奈落”らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。