第4話 真珠になにが起こったか その2
ふと目が覚めた珪斗は、薄暗がりの中で枕元の目覚まし時計を鷲づかみにして顔の前に掲げた。
夜中に目が覚めた時に時刻を確認するいつもの動作だった。
目覚まし時計が指しているのは午前三時の少し前。
のろのろとベッドを出てトイレへ向かう。
用を済ませ、部屋へ帰るべく玄関を通り過ぎようとした時、扉の隙間から外の灯りが漏れ込んでいることに気が付いた。
玄関前を照らしているのはセンサーライト。
それが点いているということは“そこに誰かが立っている”ということを表している。
こんな時間にか?
“オバケか泥棒か――どっちにしてもイヤだな”などと思いながら、おそるおそるインターホンの防犯カメラをONにする。
「え?」
思わず声が漏れた。
そこに映っているのはまさかの真珠だった。
とはいえ、身につけているものは見覚えのある改造セーラー服ではなく、上衣もスカートも標準的な、いわゆる“制服として適切な丈のもの”だったが。
そんな姿に、逆に違和感を覚えた珪斗は“もしかしてこれは夢かもしれない”と考えつつ、とり急ぎ玄関を開ける。
「真珠……さん?」
真珠は答えない。
その表情もまた能面のようにフラットで、いつも見てきた朗らかなイメージは微塵もない。
とりあえず自分の部屋へと先導する。
「どうぞ、座ってください」
その言葉に真珠は、やはり黙ったまま部屋の中央に腰を下ろす。
顔を伏せてじっと座っている様子に生気はなく、そのはかなげな美しさからまるで幽霊のようにも見える。
そんなこれまでの印象とはまるで別人な真珠を見ながら、珪斗は緊張している自分に気付く。
自分の部屋とはいえ狭い空間で異性とふたりきりなのである。
最近でこそ珊瑚という“対異性コミュニケーションにおけるインストラクター”がついているものの、珊瑚以外の異性に対して平常心を維持するのはまだ少しハードルが高かった。
なにか話さねばというプレッシャーから逆に話せなくなるという悪循環に陥るが、なんとか口を開く。
「さ、寒くないですか」
……やはり反応はない。
「えーと」
どうしていいのかさっぱりわからない。
もし、今が深夜の自分の部屋という切迫した状況でなければ“珊瑚を呼び出す”という選択肢も浮かんだところだろうが、今の珪斗にそんな余裕はない。
ひとまず、ベッドに腰掛けて真珠が口を開くのを待つ。
イマサラ言うまでもない話だが、珪斗は話すよりも黙る方が得意なのである――最下位ランカーなのだから。
そうやって、真珠が口を開くのを待っているうちに――
「ん?」
――ベッドの中で目が覚めた。
カーテン越しの朝日が差し込む中、跳ね起きて室内を見渡すがどこにも真珠の姿はない。
ぼんやりした頭で深夜の状況と今の様子を付き合わせる。
そして、出た結論を口にする。
「……変な夢を見た」
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