第26話 制服似合う?

 そんなことを話していたら、上戸と夏菜子が現れた。


 二人とも会社から助けに来てくれたのだが、智花が先に到着したし、二人がここに着いたころには問題はだいたい解決していたようだ。


 夏菜子が「あっー!」と俺と実菜を指差す。


「先輩、無事で本当に良かったですけど……そういうのは良くないと思います!」


「そういうのって?」


「女子高生の女の子にエッチなことをするなんてダメです!」


 言われてみれば、裸の実菜が俺に抱きついた状態だ。

 実菜がふふっと笑う。


「佐々木さん、ヤキモチ焼いているんだ?」


「そうですよ! 先輩はあたしの先輩なんですから!」


 夏菜子は否定もせず、そんなことを赤い顔で言う。いつ俺がおまえのものになった……?


<修羅場だ>


<修羅場ですね>


<後輩にもJKにも慕われるとか羨ましいぞ>


 とりあえず、俺は実菜の肩を叩いて離れるように言った。


 実菜は残念そうにしていたけど、「またいつでも抱きしめてくれるよね?」なんてささやく。そんな約束をしたつもりはないが……。

 

 上戸もジト目で俺を睨む。


「無事で良かったわ。でも、女子高生に手なんて出さなくても、同じ年頃で良い相手が身近にいるでしょ?」


「手を出していませんし、同じ年頃の良い相手なんていませんよ」


 俺と同年輩の人間で交流がある人間はほとんどいない。愛華の死でかつての仲間とは疎遠になったし。

 年齢が近いのは、それこそ上司の上戸ぐらいだ。上戸は何か小さくつぶやいた。


「何かおっしゃいましたか?」


「別に」


 上戸は不機嫌そうに俺を上目遣いに見る。なにか気に触ることを言っただろうか?

 自衛軍の女性隊員が裸の実菜たちに毛布を持ってきて、彼女たちを座らせてかけて回る。


 特に触手に襲われた舞依は病院で見てもらった方が良いのだが、それより重傷な女子生徒や教師がたくさんいる以上、後回しになる。


 智花は夏菜子・上戸と会ったことがないので、緊張した様子で二人に挨拶していた。

 夏菜子も上戸も、智花に興味津々といった様子だった。女子中学生のSランク冒険者なんて、珍しい存在だからな。


「この子が先輩の妹……」


「橋川と一緒に住んでいるのね……」


 なにか興味を持たれている点が違うような気もするが……。

 

「ええと、その、ともかく、あのダンジョンをなんとかしないといけませんよね」

 

 智花の言葉に、夏菜子も上戸もうなずいた。

 俺も同意見だ。今は一通りモンスターを倒して沈静化しているとはいえ、放置すればまた大量のモンスターを学校や市街地にばらまくことになる。


 ダンジョンを攻略し、モンスターの出口を封鎖することが必要だ。

 とはいえ、流れ出してきたモンスターが下層レベル以上だったように、これまでのダンジョンと比べても難易度は高いと思う。


 新名古屋で言えば、大須ダンジョンや赤池ダンジョンが最高難易度なのだが、それを上回るかもしれない。


 こうなってくると、俺一人で手に負える問題じゃない。基本的には自衛軍の統合幕僚会議で方針を決め、ダンジョン自衛軍が出動して事態に対処に当たることになる。


 一般の冒険者が協力することもあるので、もちろん要請があれば俺にできることはするつもりだが。


 なのに――。


<橋川が単独で乗り込んで無双すればいいじゃん!>


<おまえならできるだろ!>


<できますよ!>


 スマホを見ると、いつのまにか実菜チャンネルは登録者数2,000万人、俺のチャンネルは2,500万人になっていた。

 夏菜子がそれを覗き込む。


「いま世界的なニュースにもなっていますから。日本の新都・名古屋にイレギュラーなダンジョン出現ってことで、大注目なんですよ!」


 上戸もうなずく。


「配信していた人はあなたと何人かしかいなかったし。しかも、たいていは配信していた女の子たちは……その、負けてひどい目にあっちゃったから」


 配信していたのはこの学校の生徒で、実力に自信のあった子たちだろう。絶好のダンジョン配信の機会だと思ってドローンを起動したんだ。

 

 だが、モンスターは予想以上に強く、彼女たちはあえなく敗北し、全裸で世界中にモンスターに犯される姿をさらす羽目になった。


「でも、橋川はモンスターをばんばん倒してたから、テレビでもネットで話題沸騰だったわけ」


「ああ、なるほど……」


 それにしても、2,500万人か。いったいどれだけの収益を生むだろう?

 会社は大喜びだろうけれど、俺としてはこんなに注目されるのは困ってしまう。


 ともかく、日常に戻らないといけない。


 ここから、どうやって実菜たちを育てていくべきか?

 彼女たちは下層ランクのモンスターには瞬殺されてしまう、Cランク冒険者だ。


 まずはBランクを目指すべきだろう。


 実菜がこちらにやってきた。着替えたみたいだ。

 ところが、その服は学校の制服とかではない、変わったものだった。


「見て見て! 進一! これ、どう、似合う?」


 それは自衛軍の女性兵の制服だった。

 本来なら軍関係者以外身に付けられないものだが、着替えとして支給されたらしい。

 

 たしかにけっこう似合っている。白一色の制服でスカートも爽やかな印象だ。

 金色のボタンがアクセントとして目立つ。


「良いんじゃないか」


「えー、心がこもってない!」


「可愛いと思うよ」


 俺は仕方なく言うと、実菜がぱっと顔を輝かせる。


「やった! 将来は自衛官になるとかもよいかも!」


 実菜の天真爛漫な性格だと向いていない気もしたが、あくまで俺の感想なので言わないでおいた。


 将来、か。もはやダンジョン探索で食っていくしかない俺と違って、実菜たちには無限の選択肢がある。

 それは羨ましく、そしてまぶしかった。


「まあ、ともかく帰るか」


 俺がそう言うと、実菜は「うん!」とうなずき、智花や夏菜子たちも柔らかく微笑んだ。

 これで一件落着……ではないが、平和な日常に戻れる。


 そのはずだった。

 ダンジョンが甲高い音を立て始めたのはそのときだった。まるでそれは……獣が唸っているような声に聞こえた。


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