第25話 どうせ私は貧乳ですよ!
俺たちはそのまま、無事な校舎の方へと向かった。
そっちは自衛軍の部隊や駆けつけた冒険者たちの本部となっていて、救出された女子生徒たちも集められているようだ。
女子生徒たちのすすり泣く声が聞こえる。教室のなかには半裸や全裸の少女たちが、目を赤く腫らしていて、お互いを慰め合っている。
少なくない生徒がモンスターに凌辱されたのだろう。最悪の場合はモンスターの子供を孕まされている可能性もある。
ダンジョン出現以後、こんな悲劇が日本各地で繰り返されている。愛華も……もしかしたら死ぬ間際に同じような目にあったかもしれない。
実菜たちもつらそうに彼女たちを見ていた。智花だけは少し冷めた目で彼女たちを見ている。
「自分で自分の身も守れないのに、悲劇のヒロインみたいな顔をするのって、どうなんでしょうね」
智花が小さくつぶやく。実菜がそれに反応した。
「そんな言い方、ないでしょう!? あの子たちはひどい目にあって……」
「もちろん、モンスターに人間が凌辱されるなんて、許されることではありません。ですが、この学校はダンジョン探索の教育に力を入れているのでしょう? なのに、ほとんど何もできずに無抵抗で辱められるなんて、恥ずべきことだとは思いませんか?」
「それは……」
「先輩たちだって同じです。兄さんは一人なら簡単に脱出できたのに、あなたたちを守って危険な目にあったんですよ」
智花が実菜たちを一番許せないのはその部分らしい。たしかに実菜たちを置いて俺だけ逃げるのは容易だった。いろいろ手がある。
ほぼ丸腰で戦う能力のない少女たちを逃がすには、俺が退路を切り開く必要があった。実菜の魔力を借りたり、舞依が攻撃を防御してくれたりはしたものの、そもそも俺一人ならそんなに苦労しなかったのだ。
事実としてはそうだが、智花は言いすぎだ。智花は自分の才能と強さを過信して、(俺以外の)他人を見下す傾向がある。
基本的には俺を慕ってくれる良い子なのだけれど、姉の愛華の死が智花の物の見方に影響を与え、弱い冒険者が許せないのだろう。
実菜は唇を噛んだ。
俺はそんな実菜の肩を軽く叩いた。
「気にするな。師匠の俺がおまえたちを守るのは当然のことだし、これから強くなっていけばいいんだから」
「でも……あたし、本当に強くなれるのかな」
普段とは違って、実菜は弱々しく言う。
モンスターたちに簡単に負け、智花の実力を見せられて、自信を喪失しているのだろう。モンスターにあと一歩で純潔も奪われていたわけで、不安になって当然だ。
「これからだろ。それに、実菜から借りた魔力はかなり強力だったしな。才能はあるはずだ」
「ほんとう?」
「嘘をついてどうなる? ちゃんと訓練すれば強くなれる」
もちろん、俺や智花のようになれるかは別問題だが、誰もが俺たちみたいになる必要はない。
むしろ単独で行動できる冒険者なんてイレギュラーだ。
実菜、玲奈、舞依、アリサ。彼女たちがそれぞれの弱点を補って、自分の強みを伸ばしていけば、かなり強い冒険者パーティーができる。
みんな伸び代はかなりある。そうなれば俺や智花単独よりもダンジョンでは活躍できるかもしれないし、Sランク冒険者になることも夢ではない。
俺がそう言うと、実菜は目をきらきらと輝かせた。
「そっか……! ありがと、進一」
素直なのは実菜の美徳だと思う。そういう子は強くなれる。
俺がくすっと笑うと、実菜は「あっ」と恥ずかしそうな顔をした。
「そういえば、あたし、まだ裸だから……あまり見ないで」
「見てないぞ?」
「べ、べつに進一が見たいなら見てくれてもいいけど」
実菜は手で胸と下半身を隠しながらもじもじとする。
早いところタオルかなにかを持ってこないと。
そこに智花が割って入る。
「兄さん! この先輩から魔力を借りたってどういうことですか!? まさか……」
「あたし、進一とキスしたよ?」
実菜はふふっと笑う。その顔は「してやったり」という顔でとても得意げだった。
「私だってまだ兄さんとキスしたことがないのに!」
「妹は兄とは普通キスしないでしょ?」
「私はするんです!」
「冒険者としては智花さんの方が強いかもしれないけど、女の子として魅力的なのはあたしかもね」
「そんなことありません! 兄さんの理想の女の子は私なんですから」
「でも、あたしの方が年上だし、女の子らしい身体をしているし」
「なっ……!」
智花はかなり可愛い美少女だけれど、姉の愛華がスタイル抜群だったのとは違って、幼児体型だ。
まだ中学生だから仕方ないとも言えるのだけれど。
突然、実菜が裸のまま、「えいっ」と俺に抱きつく。
そして、その柔らかな胸を強調するように俺に押し付けた。
「進一も胸が大きな女子の方が好きだよね……? 男の人だもん」
返事に困る質問をするな……。たしかに実菜は高校一年生にしてはかなり発育の良い方だとは思うけれど。
実菜が勝ち誇ったように、智花を見る。
普段は冷静沈着な智花は顔を赤くして、頭から湯気が出そうな勢いだった。
「ど、どうせ私は貧乳ですよ! きゃっ」
智花の背後から、舞依が近寄り制服の上から智花の胸を触っていた。
舞依はくすくすと笑っている。
「おっぱいはSランクじゃないんだね。Bってところ?」
「や、やめてくださいっ。ひゃうっ」
智花は頬を紅潮させて、舞依に弄ばれている。智花なら本気を出せば舞依を振り切れるだろうけれど、強引にするのはためらわれるのだろう。
「そんなところダメですッ。きゃあっ」
智花が悩ましげな、甘いあえぎ声をあげる。
実菜は興味津々な様子でそっちを見ていた。そして、俺をふたたび見る。
「進一も、あたしの胸を触ってみる?」
「するか。俺からすれば、おまえも智花もガキだ」
「ふうん」
実菜がにやにやと笑う。
「なんだその顔は」
「別にー。ただ、あたしを子供だとは思わないぐらい意識させてあげるから、覚悟しておいてね?」
実菜はそんなふうに言って、とても楽しそうに笑った。
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