No face

田中カナタ

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深夜。

会社からの帰り道、顔の無い生き物と出会った。


今年でアラサー。

万年金欠、独身。

親と縁切って上京して、いざ社会に出てみたら自分の無能さを突きつけられて。

人の顔色伺って、頭ペコペコ下げて。

こんな事したかった訳じゃないのになぁなんて考えながら、今日も酒に飲まれる。


今日もサビ残。何連勤かも忘れた。

深夜の暗い路地を、コンビニの袋を下げて1人歩く。いつもと変わらない景色...


...?

なんだ、あの人影。

明らかに人間では有り得ない高さ。

でも、人の形をしている。

深夜の疲れ切った頭では、そこまでしか理解できなかった。


"ソレ" がゆっくりと、こちらを振り返る。


俺は目を見開いた。

なんだこれ、顔が...ないのか?

昔絵本で見たような、のっぺらぼうがそこにいた。俺はソレと、目が合ったような気がした。


何事も無かったかのように、こんばんは。と挨拶をして通り過ぎようとした俺に、ソレは


怖くないのか?


と、声をかけてきた。

勿論そんなの、即答だ。



怖いわけが無い。



俺は知っている。顔のある人間の方が怖いと。

口があれば言葉を放つ。

たとえ会話をしなくとも、口は表情がよく見える。

目もそうだ。表情で物を訴えてくる。

なら絶対 "ソレ" より、顔のある人間の方が、よっぽど怖い。


そう口にしたら、

今日も自分の影と会話していることに

気づいた。



No face

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