作戦、決行
翌日、お昼休みにご飯を食べるときもリアナはいつも通りの様子だったけど、放課後になると「先に帰るね」と言ってすぐ帰ってしまった。
「あれ、リアナは一緒じゃないの?」
第二図書室に入ってきた私を見て、ルイスは言った。
「うん。昨日リアナから『しばらく図書室には行かない』って言われたの」
「え……どうして?」
「理由は言いたくないって」
ルイスは悲しそうに俯いた。
「そんなことがあったんだ……昨日はごめんね、図書室が使えないの伝え忘れてて。何かリアナを嫌な気持ちにさせちゃったかな」
「それは私も正直分からない。リアナとは今日も普通に話したけど、どうして図書室に来ないのかは教えてくれなかったんだ。この話を昨日たまたま会ったミーシャに話したんだけど」
「ミーシャさんに?」
「うん。そうしたらね、リアナは私達が付き合ったことで気を使って図書室に来なくなったんじゃないかって言われたの。私一人じゃそんなこと思いもしなかった。リアナがどんな理由を持っているんだとしても、私達がリアナを大切な友達でこれからも一緒にいたいって思っていることだけは、ちゃんと伝えたい。明日がリアナの誕生日だから、盛大にお祝いしてリアナに私達の気持ちを届けたいの!」
ルイスは優しく笑った。
「うん、いいと思う」
「ルイスはそう言ってくれると思ってたよ。それで明日のプレゼントなんだけど、リアナは何を喜んでくれるかなって考えた時、真っ先に浮かんだのが料理だったの」
「確かに、前に僕が食事会に招待した時もすごく喜んでくれたもんね。あの時は嬉しかったなぁ」
「そうだったよね。だから、ルイスがメイン料理を、私がデザートを用意しようと思うんだけど、どうかな?」
「いいね。今回も喜んでもらえるように気持ちを込めて作るよ」
「よし! じゃあ決戦は明日のお昼休み! それぞれ力を尽くそう!」
「おー!」
私達は拳を掲げた。
そして迎えた誕生日当日。午前の講義終了を知らせる鐘が鳴った。生徒たちは次々と席を立つ。私は椅子から立ち上がったリアナの体を両手でガバっと抱きしめた。
「確保ぉ!」
「え……?」
戸惑った様子のリアナを拘束したまま教室の出口に向かうと、そこには台車を手にしたルイスの姿があった。私はリアナをその台車の上に座らせた。
「えっと……エマ、ルイス……?」
困ったように私達を見上げるリアナ。
「それでは出発!」
私の掛け声でルイスが台車を押す。動き出した台車は危ないと思ったのか、それとも私達に付き合ってくれているのか、リアナが途中で降りてしまうことはなかった。
台車が止まったのはもちろん第二図書室の前。
「二人とも……これはいったい何?」
困惑した様子のリアナ。私は勢いよく図書室の扉を開けた。図書室の中は朝のうちに花やリボンで華やかに飾り付けをしてあって、テーブルの上には木製のバスケットが置かれている。
「さあ、入って」
私の言葉にリアナは立ち上がった。そして不思議そうに見回しながら図書室の中へ入って行く。
「ねえ、リアナ。そのバスケットを開けてみてよ」
「うん……」
ルイスの言葉に、リアナがバスケットの蓋を開ける。中には色どり鮮やかなサンドイッチやピクルスが入っていた。
「私からはこっちね」
そう言ってテーブルに花柄のついた四角い缶を置いた。蓋を開けて見せると、ジャムクッキーやマドレーヌ、フロランタンなどが並んでいる。
私はルイスに目配せをした。せーの……
「「リアナ、誕生日おめでとう!」」
私たちの言葉に、リアナは驚いたのと戸惑っているのが混ざったような表情をしていた。あれもしかして、何か間違えた……?
「リア……」
声をかけようとしたとき、リアナの綺麗な瞳から一筋の
「リアナ……?」
不安そうにルイスが言う。リアナは口を開いた。
「嬉しい時に涙が出るなんて知らなかった。友達に誕生日を祝ってもらうなんて生まれて初めて。すごく嬉しい……ちゃんと伝わってる、かな?」
「もちろんだよ! 喜んでもらえて、私も嬉しい」
私はリアナを抱きしめた。
「そっか、よかった……」
体を離して、リアナを真っ直ぐに見た。
「リアナ、私はリアナとルイスが大好きで、三人で過ごすこの時間が大好きだよ。そのことだけはちゃんと伝えたかったんだ」
「僕もリアナのことを大切な友達だと思っているよ。僕だって三人で過ごす時間が大好きなんだ」
「私も……二人のことは大切でかけがえのない友達だと思ってる。これから先も一緒にいたい」
リアナからその言葉を聞けてホッと胸をなでおろした。よかった、嫌われた訳じゃないんだ……
「リアナ、聞いてもいいかな。どうしてここには来ないって言ったの?」
ルイスの言葉にハッとする。そうだ、その理由をまだ聞いてなかった。
「理由を言えないことって聞いて心配だったんだよ。ねえ、エマ」
「うん! リアナが何を思っているのか聞かせてほしい」
どんな理由だったとしても必ず受け止める。リアナとはずっと友達でいたいから、覚悟はできた。
「ごめん、心配かけるつもりじゃなかったから話すね。二人の結婚式用にエマには髪飾り、ルイスにはネクタイを作ってたんだ」
「けけけ、結婚式!?」
思わず大きな声が出た。そんな私をリアナは不思議そうに見つめた。
「だって付き合うってことは結婚するってことでしょ。大したものは用意できないけど、少しでもお祝いしたくて」
「それを作ってくれてたから、図書室に行かないって言ったの?」
ルイスの問いにリアナは頷いた。
「だって、思いついたら早く作りたくなったから。完成するまでは秘密のつもりだった」
事の真相を聞いて、色々と言いたいことはあるけど、何だか肩の力が抜けた。
「はぁ……それで『理由は言いたくない』だったのね。私はリアナに嫌われたんじゃないかとか、危ない目に巻き込まれてるんじゃないかとか、私達に気を使ってるんじゃないかとか、色々考えてたけどそうじゃなくてよかった……」
「気を使う……? 髪飾りよりもブローチとかの方がよかった?」
リアナが首を傾げる。そうじゃない。そうじゃないんだけど、そんな風にちょっとズレてるけど優しくて可愛いリアナのことがやっぱり大好きだ。
「ううん。髪飾り、作ってくれてありがとう。完成したら見せてね。でも、放課後は今までみたいに三人で過ごせたら私は嬉しいな」
「うん、分かった。結婚式には間に合わせるから」
「け、結婚なんて私達まだ学生だし、ゆっくり作ってくれても大丈夫だからね?」
結婚って言葉を口にして少し鼓動が早くなる。もちろん私は一生をかけてルイスを幸せにしたいって思ってるけど、ルイスも私との未来を考えてくれてるのかな……
ふとルイスの方に目を向けると、視線に気づいたのか私に微笑む。言葉はなくても私の考えなんて見透かされてるみたいで、ドキドキしてしまった。
「さて、誤解も解けたところでリアナの誕生日会を始めようか」
ルイスがそう言って、私達は椅子についた。
ルイスの作ってくれたサンドイッチは、肉や魚を使ったよく分からないけどとにかく美味しいおかずが入っていて、あっという間に食べ終わってしまった。
「エマのお菓子に合う紅茶を入れてくるね」
そう言ってルイスが席を立つ。するとリアナは私の側へ椅子を寄せた。
「私、本当は今日、二人に会いたくなかったの」
「え……どうして?」
「エマもルイスも私にとっては大切な友達。でも、二人は恋人同士になって、私だけが置いて行かれるんじゃないかって思った。三人でいたら私だけ違う気がして。エマ達のこと、すごく嬉しいのにモヤモヤした感情が混ざって、二人の顔を見れなくなってた」
リアナは私の方を見た。
「でも今日、ここに来てよかった。今一緒に過ごして、心から楽しいって思えるから」
そう言ってリアナが微笑む。
「なに、僕には秘密の話?」
戻ってきたルイスがティーセットをテーブルに置いて言った。
「ううん。つまりね……」
私はリアナとルイスの手を握った。
「私達はこれから先もずーっと友達だよって話!」
三人で顔を見合わせて笑う。もしこれから先何があっても、想いを伝えあえば乗り越えられる。私達三人なら出来るって、そう思った。
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