世話のかかる2人

 さっそく放課後、リアナにお店を報告した。


「へぇ……果樹園の中にお店があるなんてお洒落。エマ、よくそんなお店知ってたね」

「ごめん、朝は見栄を張りました。私もお店知らなくて、ミーシャに聞いたんだ」

「ミーシャ……?」


 リアナは首を傾げる。


「昨日の放課後、一緒に会いに行ったよね? 昼休みのアリバイもその後確認しに行って……」

「ああ、付きまといの人か」


 ミーシャ……まずはそのイメージを払拭しないとダメだわ。


「もう付きまといはしてないみたいだし、おすすめのお店も紹介してくれたから、行った感想伝えてあげると喜ぶと思うよ。もちろんリアナが嫌じゃなければだけど」

「分かった。考えておく」


 これだけ言えばミーシャとの約束は十分果たしただろう。


 最初の印象はヤバいストーカーだったのに、今ではある程度信用してしまっている。自分でも不思議なんだけど、これも人を惹きつける天性の才能なんだろうか。




 いつものように第二図書室でルイスと合流した私達は、他愛のない話をして過ごした。いつルイスのことをデートに誘うんだろうと様子を伺っていたけど、全くそんな気配はない。


 もしかして、私がいるから誘いにくいのかな。今ここで誘ったら「じゃあエマも一緒に行こうよ」ってルイスが言い出しそうだもんなぁ。優しいんだけど、それだとデートにならないから困る。邪魔ものは先に退散しましょうかね。


 私は席を立った。


「ごめん。今日はそろそろ帰るね。二人ともまた明日」

「エマが帰るなら私も帰る。もう少しで習い事の時間だし」


 そう言ってリアナも立ち上がった。


 いや、違うんだよ! 二人っきりになって誘うチャンスでしょ!? どうして分かんないかなぁ? 


 リアナはさっさと自分のティーカップを下げて帰り支度を始めた。


 この感じ、もしかするとルイスをデートに誘うっていうことを忘れてるのでは? リアナならあり得る。


「二人とも帰っちゃうのか。ちょっと寂しいな」


 ああ、ほらルイスが悲しそうな顔してる。私、本当はもっと一緒にいられるのにリアナが私の優しさに気づかないから。


「ねえ、リアナ。今日他に話しておきたいことはないの?」


 お願い! 思い出して……!


 私の問いかけにリアナは不思議そうな顔をした。


「特にないかな」


 そう言ってカバンを手にした。


 はぁ……今日はもうあきらめよう。私もカバンを持ってリアナの後に続いた。


 そしてリアナが扉に手をかけた時、ルイスの方を振り向いた。


「そうだ、ルイス。昨日のお礼がしたいから今度一緒にご飯でもどう」


 今ぁ!?


 ルイスは急な誘いに驚いているようだった。


「えっと……うん、喜んで」

「よかった。じゃあまた明日学校でね」


 そう言ってリアナが部屋を出る。私も後に続こうとしたら、ルイスに腕を掴まれた。


「エマ、ちょっとだけ時間くれないかな?」


 有無を言わさぬ表情に私は足を止めるしかなかった。


「はい、喜んで……」



 扉を閉めて再び席に着く。するとルイスは両手を頬にあてた。


「どうしようエマ! 僕、女の子と二人でご飯なんて初めてだよ!」

「へぇ……」


 私は微妙な反応をした。こんなに顔が良くて性格もいいんだからモテるに決まってるでしょっていう思いと、女の子に慣れていないピュアピュアなルイスでいてほしいっていう相反する思いがごちゃ混ぜになる。これがオタクのジレンマか。


「だからね、エマに色々と教えてほしいなと思って。それでやっぱり実践が一番いいと思うから、僕と一緒に出掛けてアドバイスしてほしいんだ」

「え、私達2人で?」

「もちろん計画は僕が立てるから、エマは来てくれるだけでいいよ。それに、前に言ってたよね? サポートしてくれるって」

「それは確かに言ったけど……」


 二人で出かけるって、つまりは推しとデートってこと!?


「それとも、僕と二人はイヤかな……?」


 そう言って寂しそうな表情で私を見つめる。その顔は心臓に悪いからやめて!


「嫌なわけないよ! もちろん行こう!」


 やっばい……今から緊張してきた。




 あっという間にその日はやってきた。服装とかもよく分からないから、メイドのアリスに「首周りの空いた、ピンク色が映える服」をリクエストして選んでもらった。


 集合時間が近づくほどに心音が早まる。そんなに緊張しなくたって、今日はいわば模擬デート。リアナとの本番を成功させることが目的なんだから、私はそれに集中しないと。


 待ち合わせ場所の時計台の前には既にルイスが待っていた。学園や前の食事会の時のような淡い色の服装ではなくて、濃紺の鮮やかな色味の服が、ルイスの白い肌をより一層際立たせている。


「おまたせ、ルイス」


 声をかけると、ルイスが振り向く。最近は一緒にいすぎて感覚麻痺してたけど、やっぱりまずは顔がいいな!?


「おはようエマ。僕もついさっき来たところなんだ」

「いつもとギャップのある服装と、後に来たことに遠慮させない配慮の言葉。満点!」

「……今日はそんな感じでいくんだね?」

「もちろん! 今日はリアナとの本番を成功させるための会なんだから。よくないところも指摘していくね」

「分かった。よろしくお願いします、先生」

「うむ」


 視線を落としたルイスは私の首元を見て微笑んだ。


「つけてきてくれたんだ」

「まあ、今日は学校じゃないからね」


 私の首元には桜色のネックレスが輝いている。いつもは恥ずかしけど、今日くらいはつけようって心に決めていた。


「やっぱりとっても似合ってる。可愛いよ」


 ルイスはさらっとそんなことを言ってくるからよくない。


「あんまり言うと恥ずかしいからやめてよ……」

「そんなこと言われるともっと言いたくなっちゃうな。だってエマ、可愛いから」


 ああ、もう。この男は……


「ダメ! 減点!」

「減点は困るな。それじゃあ、行こっか」


 そう言って歩きだすルイス。私ばっかり余裕がなくて、ちょっと悔しかった。

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