12.

「めんどくさい家だよね。わざわざこんな時勢に早く結婚相手を見つけろなんて」


「でも、本当によかったの?」


「うん。それだけは即答できる。相手に迷惑をかけているのはわかってるけど、その本当の原因は私じゃないから。なんなら、私も迷惑してる」


「……俺、怒られないかな」


「何を今更。そんなの覚悟してたんじゃないの?」


「それはそうだけど、いざ事の大きさに直面すると、ちょっとね」


「…………温泉、行こっか」


「そ、そうだね」


 彩紗は俺から離れ、荷物を探り始めた。俺もリュックサックから着替えを出す。


「朝さ、今のこと言おうとしてくれてたの?」


「……うん。本当に何の記念日とかでもないんだけどさ、だからこそこのタイミングだったらいいかなって思ったんだ。振られでもしたら絶対落ち込むし、振る方も嫌な気持ちになるかなって」


「それはそう。私も告られて振った後、教室で顔見るだけで気まずかったもん」


「高校の時?」


「うん。二回告白されて、二回ともごめんなさいした。今はそういうこと考えられない、って」


「そっか」


「……私、まだ返事してないよ」


「え?」


「誠吾からの、告白。私まだ返事してないから」


「……うん」


「ちょっと一人で、考えたい」


「わかった」


「よし。準備できた……あれ」


「どうした?」


「あそこ、浴衣ある」


「あ、あったんだ。気づかなかったー」


「私も。着替え要らなかったかなぁ……」


「まあ何があるかわかんないし」


「せっかくだし着てみようよ!」


「俺もそうする!」


 二人で浴衣と貴重品を抱えて、部屋を出る。


「そういえば、親御さんから連絡来てないの?」


「電話は何回かかかってきたけど、無視してたら何も来なくなった」


「警察とかに相談されないよね」


「大丈夫……だと思う」


「どう説明したらいいのやら……」


「私も、戸籍上は子供だけど成人してるからね! それぐらい自分で決めていい!」


「まあ一日帰って来なくても、とは思ってるかもね」


「それはそれで腹立つ」


「ふふっ、めんどくさ」


「うわっ、誠吾にまで愛想尽かされるー」


「まあまあ。じゃあ男湯こっちらしいから」


「うん。私多分遅いから、先帰ってていいよ」


「わかった」


 俺は左に曲がり、彩紗は右に曲がる。

 とりあえず、犯罪とかじゃなくてよかった、というのが率直な感想だ。とはいえ、やはりかなりの面倒事に足を突っ込んでしまったようだ。でも、彩紗のことが好きだし、力になると言ったからには頑張るしかない。

 一人になる時間が欲しかったのは、俺の方かもしれない。

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