第4話 1st同梱発売日

あれは、10月1日だったかな。


SLOの同梱版が電気屋限定で販売されるということで僕は、早朝から長い列に並んでいた。

電気屋は、近場だと隣市にしかない。

大きな通りに面していて、歩道を僕らが占拠してしまっているほどだった。


僕の前には、赤いメッシュの入った髪の長い女の子が立っていた。

膝裏くらいまで丈の長いピンクのニットカーディガン。

肩口からは、緩めな白い長そでシャツが見えた。


その日販売予定の同梱版は、全部で250個。

僕の立ち位置・・・凄い微妙な位置。


女の子は、大きなヘッドホンをして音楽に合わせて長い髪を左右に揺らせていた。

それと共に、とてもいい匂いがする。

なんだろう、柑橘系のいい匂いだ。

その匂いを今でも覚えている。



3時間ほど経っただろうか。

お店がオープンして少しずつ列が消化される。

僕の順番まであとわずかだった。


そんな時だった。

車が車道に乗り上げてきたのは。


僕の前にいた女の子は音楽に夢中でそれに気づかなかったのか避けることもしなかった。

僕は、咄嗟に彼女を庇う様に抱き寄せた。


その時、彼女が持っていた財布が手から零れ落ち、乗り上げてきた車のタイヤの下敷きになってしまった。

車は、僕らの目の前で止まったが彼女の財布は見る影もないほどにボロボロになってしまった。

女の子は、大粒の涙を流していた。


僕は、罪悪感に駆られ彼女の為に貯金していたお金を使って女の子に同梱版を譲ることにしたのだった。

女の子の涙とか僕には無理。


車は直前で止まったし。

僕の所為で、彼女の財布が無残な姿になってしまったわけだし。

ホント、僕は無駄なことをしてしまったんだと思った。

僕が何もしなければ、彼女は買えたはずなのに。


だから、仕方ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る