第4話 合わせ鏡 その4

「んー、できると思うよ」

 答えて華穂はひとりごちる。

「確かに小雪ちゃんの呪EL銃ならこういう時使えるかも」

 理久を見上げる。

「理久さん、お願い。小雪ちゃんと一緒に撃って」

 その意図するところは理久にはわからない。

 しかし、戸惑う理久の背を押すように、いや、手を引くように小雪が――

「小雪も撃ちたいにゃん、撃ちたいにゃん、撃ちたいにゃん」

 ――とツインテールを両手で掴んで振り回す。

 その勢いに理久が応える。

「よし。撃とう、小雪ちゃんっ」

「OKだにゃん。小雪と理久の“初めての共同作業”だにゃん」

「行くよ」と理久。

「行くにゃん」と小雪。

 互いに声を掛け合い、理久が呪能砲を撃つ。

 同時に人差し指の小雪が閃光に包まれる。

 が!

 華穂の時のように撃ち出された呪能砲が四散することはなく、その弾形は理久が単独で放つ呪能砲となんの差異も見られない。

 理久が脱力する。

「もしかして、不発?」

 華穂が否定する。

「ちがうよちがうよ」

 小雪が不機嫌につぶやく。

「失礼だにゃん」

 三人がそれぞれの反応を見せている間にも呪能砲はナンバー四六へと向かう。

 そして、その進路を遮るようにナンバー一六が立ちはだかる――が。

 呪能砲の軌道が直角に曲がって立ちはだかるナンバー一六を避ける。

 華穂と小雪は――

「やったっ」

「成功だにゃんっ」

 ――歓声を上げて抱き合う。

 さらに別のナンバー一六がナンバー四六を守るため、自らを呪能砲の盾とするべく、わらわらと集まってくる。

 しかし、呪能砲は自在に軌道を変えてナンバー一六の群れをかわしていく。

 その様子に理久はテレビで見たアメフトやラグビーの試合風景を思い出す。

 そして、すべてのナンバー一六を回避した呪能砲は、威嚇のつもりか、あるいは恐怖の悲鳴なのか“だべだべ”と吠えるナンバー四六の開口部へと突入する。

「これが小雪ちゃんの誘導型呪EL銃だよ」

「今は誘導型呪能砲だにゃん」

 ふたりが顔を見合わせ「いえ~い」とハイタッチを交わすのと同時にナンバー四六が内部から爆散した。

 続けてそれまで召喚されていた何体ものナンバー一六が、周囲に散乱したナンバー四六の破片とともに消えていく。

 ようやく終わったことを認識した理久がふうと息をつきながら小雪を見る。

「すごいな、小雪ちゃんの能力」

「それほどでもあるにゃん」

「さっきは不発を疑ってすいませんでした」

「わかればいいにゃん。ふふん」

 そこへ華穂が声を掛ける。

「でも、理久さんの殺気もすごかったよ」

「うんうん、まるで親でも殺されたのかって感じだったにゃん」

 理久は“どうして?”と問い掛けられているような気がして答える。

「単純に許せなかった。弟を盾にして自分が傷つくことか逃げているナンバー四六が、まるで僕みたいで。ていうか僕そのものだった。だから、ナンバー四六はどうしても倒したかった。どうしても当時の自分が許せなかったから」

 冷静に考えてみれば八つ当たりな気もするが――と思いつつ、まだ残っている緊張と興奮を解放するように改めて大きく息を吐く。

 そんな理久に、華穂がなだめるようにつぶやく。

「まあ気持ちはわかるけど、あんまり自分を責めなくてもいいと思うよ、理久さんは」

「うん。……ありがと」

 我に帰った理久が返した時、なにかが覆い被さってくる気配を感じた。

 “なにが?”と、顔を上げる。

 そして――。

「うわわわわわっ」

「ひゃああああっ」

「にゃああああっ」

 理久、華穂、小雪の三人が目を見張って絶叫する。

 それは荒れた大地から屹立してゆらゆらと躍っている十本の触手、そのうちの一本だった。

 瞬時に状況を解析した小雪が解説する。

「根元から切断されてるにゃん。その切断面から考えると華穂と理久が放った拡散型呪能砲の流れ弾が根本をえぐってたみたいだにゃん。それと、この触手の中で結晶化してるのはそうちゃんっぽいにゃん」

「いや、解説してる場合じゃ――」

 避けようとする理久だが、いつのまにか周囲を九本の触手に囲まれていることに気付く。

 退路なし――理久はそんな言葉を頭に浮かべて立ち尽くす。

 そこへ飛び込んできた人影がある。

 ロングヘアをなびかせたアンドロイドの宵闇だった。

 不意を衝いた敵の襲来に理久は察する。

 触手で周囲を固めて逃げられなくしたところへ“トドメの一撃”をぶち込みに来やがった――と。

「理久さんっ」

 華穂の悲鳴を聞きながら理久は動くこともできず、ただ、ただ、息がかかるほどの至近距離に迫った宵闇の顔を睨み付ける。

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