第3話 ギンナン・トラップ その4
映し出されたのは平日昼下がりのローカル局定番のサスペンスドラマ。
夜のプールサイドでタンクトップの女がアロハシャツの男にナイフを突き立てている。
作中シーズンが夏のようだが再放送ではなく、キー局から数箇月遅れの――あるいは数年遅れの――初回放送なのは地方ではよくあることである。
冰雨がリモコンを操作して専用チャンネルに切り替えると、テレビ画面に“ICR――イヤユメ対策室”の文字が現れた。
「詳しい話をいきなりしても頭に入らないと思いますので、ざっくり概要だけ説明させていただきます。詳しい話はそちらの抽斗に入っております資料をご参照戴いて……。わからない点は華穂や小雪、もちろん、私にいつでも訊いていただいて結構です」
「はあ……」
生返事の理久は“めんどくさい話とか難しい話だったらイヤだな”と思いながら、冰雨に目で促されてテレビの正面に位置するベッドに腰を下ろす。
「まずイヤユメというのは侵略者です。イヤユメ時空とこっちの世界の境界面に存在するのが夢の中の最深部である境界域です」
それは聞いた――と、心中でつぶやく。
理久が学校での昼寝中にたどりついた場所、華穂と出会った場所、十本の触手が踊る場所、臓物塊と索漠を追いかけて着いた場所……。
「私たちICRというのは、その
画面に五人の少女が現れる。
「――境界域で実際に侵略を阻止するべく戦っているのが五人の少女から編成される実働部隊の“フェアレーヌ5”です」
その中に華穂と小雪の姿もあった。
「あたしたちのことだよ」
「にゃん」
手元からのささやきに理久が頷いたのと同時に画面が切り替わった。
「イヤユメ時空からの先遣部隊は――」
少女たちに代わって映し出されたのはあのタカアシガニと機械女と浮遊乳児。
「――慄冽、宵闇、索漠の三幹部です。三幹部は境界域にイヤユメ時空から本隊を招き入れるためのゲートを開こうとゲートピースと呼ばれるクリスタルを集めています。そのクリスタルは
画面に映し出されたのは“ト・ドゥーフ剣”とクレジットされた臓物塊。
「――を実体化させているのです。……ここまで理解されましたか?」
不意に問い掛けられた理久が慌てて答える。
「えーと、つまり、侵略者がこっちの世界へ来るために華穂ちゃんたちが持っているゲートピース?ていうのが必要で、その攻防戦というか争奪戦を華穂ちゃんたちと侵略者たちが境界域でやってるってこと……ですか」
たどたどしく答える理久の手元で――
「正解」
「察しがいいにゃん」
――華穂と小雪がぱちぱちと手を叩く。
その様子に冰雨も満足げに頷く。
「ちなみにト・ドゥーフ剣は全部で四七体。理久くんと華穂が追いかけていったのは四五体目なのであと二体残ってます」
さっきの答えが正解だったことで調子に乗った理久は、訊かれてもないのに口を挟む。
「そのうちの一体が境界域にあった十本の触手……」
しかし、華穂と小雪の反応は――。
「ぶぶー。残念」
「はずれだにゃん」
そろって腕でばってんを作って見せる。
「ぐぐぐ」
“調子に乗るとダメだな”と赤面する理久に冰雨が解説する。
「あれはクリスタルメーカーという、ト・ドゥーフ剣とは別の存在です」
また現れた新しい言葉に理久は眉根を寄せる。
「ク、クリスタルメーカー……て、なに?」
「フェアレーヌそれぞれが持つゲートピースをフェアレーヌごと再結晶化させて回収するというチカラワザ的回収システムです。それが今回、一年間の眠りから覚めたようで……」
一年間の眠り?
理久がその言葉に違和感を覚えたのを察したのか、すかさず小雪がフォローする。
「クリスタルメーカーが完成したのは一年前だったにゃん」
華穂が引き継ぐ。
「その時に先代のフェアレーヌ――当時は二人組だったんだけど、そのひとりが自らクリスタルメーカーの神経系に介入して強制的に眠らせたの。その時に先代のふたりと一緒にいたのが……」
となりの小雪を指差す。
小雪はぐいと胸を張る。
「小雪だにゃん。小雪は先代からナビやってたにゃん。ふたりのうちひとりはクリスタルメーカーの神経叢室に飛び込んで、もうひとりと小雪を逃がしたにゃん。でも、その“もうひとり”も結局は小雪を逃がすために自分たちの持ってたゲートピースを小雪に預けて……消息不明になったにゃん」
「その先代から渡されたゲートピースを五等分してあたしたちが持ってたってわけ」
小雪と華穂のレクチャーでようやく理解した理久が夢の中で見た光景を思い出す。
十本の触手が荒野を割って屹立する様子を。
あれがまさしくクリスタルメーカーの一年ぶりの覚醒シーンだったのだ。
「続けます」
冰雨が声を掛けて画面を操作する。
「その先代フェアレーヌでクリスタルメーカーを眠らせたのがフェアレーヌ・SORA。そして、その後、小雪を逃がすために消息を絶ったのがフェアレーヌ・UMI」
画面がふたりの少女に変わった。
現れたその姿に理久は目を疑う。
「まさか」
理久はそのふたりに見覚えがある。
いや“見覚えがある”どころではない。
特にそのうちのひとり、絶対に忘れることのない顔が画面の中から理久を見ている。
冰雨が告げる。
「そう。フェアレーヌ・UMIは
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