第二話「降霊の儀と謎の武将」

担任は先ほどまでの人の良さそうな笑みに戻りまず千春ちはるを呼んだ。


千春は堂々と歪みの前に立ち唱え始める。


「我、霊能の使い手なり。

英霊よ我が意に応え顕現せよ。」


途端、歪みは徐々に人の形を取り始め、

一瞬光る。


目を開けるとそこには

威厳に満ちた武将の姿があった。


凛とした顔立ち。

細身な体を紅の武者鎧で覆い、

手には薙刀を携えている。


「小娘、なんじが私を呼んだ者か?」


千春は頷く。

武将は小春を一瞥いちべつすると不敵に笑った。


「なるほど、ただの生娘きむすめではないらしい。

お主、名は?」


「…凪 千春です。」


千春の声は少し震えていた…が

それを感じさせないほどのしっかりとした声で名乗りを上げた。


武将は頷き「私の名は井伊直虎いいなおとら

戦国の世を生きた武将である。

汝、千春よ。お主は私に何を求める?」と問う。


武将の…もとい戦国武将、井伊直虎の

鋭い眼光が千春を突きさす。


遠くにいる俺でさえも

身震いがしそうなその緊張感の中、

それでも千春は先程よりもしっかりとした声で答えた。


「私はみんなを怪異から守りたい、

手の届く限りでもいいの。

直虎、その為の力を私に貸して!」


直虎は見定めるように千春を見た。


どれくらいそうしていたか。

数秒だったような気もする。


「認めよう。

千春殿、其方そなたは我が主にふさわしい。」


その声は教室にあった緊張感を

一瞬で拭い去った。


千春は少し息を吐きまた唱える。


「汝、直虎よ。

我を認め主従の契約を結ぶならば、

我が手を取れ。」


直虎は恭しく千春の手を取り

「主殿に従いまする。」と答えた。


すると千春の手の甲に模様が浮かび上がる。

丸に橘。井伊直虎の家紋だ。


「それは証。

今後は必要とあらばそれに触れ、

我が名を呼べ。

さすれば私は主殿の呼びかけに応え

参上いたす。」


「わかった。よろしくね、直虎。」


「御意」


直虎は答えた後、

現れたときのように一瞬光り、消えた。


担任は満足そうに笑みを浮かべ

「素晴らしい!」と一言。


「名のある武将には特殊な能力や

固有の武器が備わっています。

直虎もその一人。

千春さんは今この瞬間

正式に霊能士の仲間入りを果たしました。」


担任はそのまま次の生徒を呼んだ。

どうやら試験の成績順になっているらしい。


一通りの生徒が契約を終え最後は俺の番だ。


「最後だ、霊井零士たまいれいじ君。前へ」


教壇の前に立つ。


(いよいよだ。)


歪みの前に手をかざし唱える。


「我、霊能の使い手なり。

英霊よ我が意に応え顕現せよ!」


途端、歪みは徐々そのに人の形を取り始め、

一瞬光る。


そこそこ整った威厳のある顔立ち、

少し筋肉質な細めの体を

漆黒の武者鎧が覆い、腰に刀を提げている。


「ゴホン。吾輩を呼んだのは余か?」


頷く。


「ふむ。して、名は?」


「零士。霊井 零士だ。」


武将は頷き

「吾輩の名は出雲由銀いづもよしかねである。

して、貴殿は何を望む。」と問うた。


(…ん?

出雲…由銀、由銀ね。)


脳内の武将リストを片っ端から探していく。


…該当なし。

少なくとも俺は出雲由銀という武将に

心辺りはない。


「…言いづらいんだけど、

多分お前知ってる奴いないぞ。」


由銀は笑う。


「そんなわけなかろう。

あーそこの娘。吾輩のこと知らんか。」


由銀は千春を指名し聞いた。


千春は少し考えこんだ。


「えっと。

ちょっとわからないかなぁ…なんて。」


その後も担任含め

クラス全員に聞いた由銀は頭を抱え、

「…もしかして吾輩知られてない?」と聞く。


俺含め全員が頷く。


「…そうか。吾輩…知られてないか…。」


傷ついちゃったよ。

…なんかかわいそうになってきたな。


「…由銀は強かったのか?」


「そうだな…信長とか知っとるか?」


名将じゃねーか。


「ああ。そりゃあな。」


「なら直虎は?」


「さっき契約されたな。」


由銀はぱっと顔を明るくし

「それじゃ!」と叫んだ。


「呼んでくれぬか!

直虎殿なら吾輩を知っとるはずじゃ!」


千春も同情してくれたのか

すぐに直虎を呼んでくれた。


「我が主千春殿、いかがされたか。」


直虎は出現と同時に跪き千春に向き合った。


「えっとこの人のことわかる?」


直虎は由銀を見て

「おお出雲殿か。久しいな。」と言った。


由銀は救世主でも見ているかのように

感動した顔で「よかった…」と安堵していた。


その後、

直虎から由銀の話を聞き

ある程度の実力はあるらしいことがわかった。


俺は由銀に向き直る。


「由銀。

俺は霊能士として成長して

いつか立派な世界一の霊能士になりたい。

その手伝いをしてくれ。」


「よき願いじゃ、気に入った。

その願いこの出雲由銀が聞き届けた!」


由銀は満足そうに笑った。


少し息を吐き唱える。


「汝、由銀よ。

我を認め主従の契約を結ぶならば、

我が手を取れ。」


由銀は跪き俺の手を取り「御意。」と答えた。


俺の手の甲には

七本骨の扇の紋が浮かび上がる。

由銀の家紋だろう。

契約成立の証だ。


「今後はその紋に触れ吾輩の名を呼ぶといい。

さすれば貴殿の元に現れ

我が力を貸すと約束しよう。」


「おう!頼むぜ由銀。」


由銀は笑みを浮かべると

「心得た。」と一言言い一瞬光って消えた。



―あとがき

霊能戦記第二話「降霊ノ刻」どうでしたか?

これであらすじ分は終了です。


最近暑いですね。


僕の仕事は室内のものなんですが

蒸されるように暑いんですよ。


クーラーはついているんですが…。


外の仕事をしている人は大丈夫かなと

心配になります。


読んでくださった方達も

日中は特に水分を取って

熱中症にならないように気を付けてください。


それでは次回第三話「猛る赤と委員長?」で

お会いしましょう。ノシ

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