玲奈さんは不良になりたい。
ホオジロ夜月
プロローグ 完璧って何?
朝五時。ベッドの傍に置いてあるアラームで目が覚める。
「朝か、もう起きないと……」
私は目をこすりながら洗面所へ歩き出す。
今日は心地よい風と気温なので顔を洗い、外の風を浴びにベランダへ直行する。
「こんなに寝覚め良く起きれたのはいつぶりだろう」
こんなに清々しい気分は初めて……この気持ちを大切にしようかな。
「ふぅ……爽やかな風が気持ちな……よし! 今日も気を引き締めてこう!」
学校まであと二時間半。すぐに私は朝食と弁当作りに勤しんだ。
弁当は毎日自分で作りおかずもたまに自作したものを詰めている。こうしたほうが手間もコストも抑えられるだ。
朝食も同様、弁当のおかずとしても兼用するので一石二鳥となるのだ。
「ふわぁ……お姉ちゃんおはよ……」
朝食のおかずとしてウィンナーと卵焼きを焼いている時に音で起きてきた弟の聡太はフラフラしながらも洗面所へ向かっていった。
それからも素早い所作で昨日の残ったおかずと野菜、朝食のおかずを彩りよく組み合わせて完成。
聡太は小学生なので弁当ではなく学校の給食で食べるので準備の必要はない。
「ん……おはよう玲奈。いつも悪いね作ってもらっちゃって」
続いてお母さんの志保も扉が現れた。
「ううん、気にしないでお母さん。私の弁当作りのついでにやってるだけだから……」
「それでもけっこうな負担じゃない?」
「料理するのは楽しいから別に苦じゃないよ?」
「そう……ならいいんだけれどキツい時は言ってね? 変わるから」
「うん。ありがとうお母さん」
私の両親は共働きで特にお母さんは病院の看護師として働いてる為に、朝は起きても食事を摂ってすぐに出勤してしまう。
お父さんは夜勤の週ある日もあるのであまり家で会うこともない。なので必然的に朝は私と弟の二人で朝を過ごす事になる。
「と、もうこんな時間……行かないと」
ちなみに赤森玲奈こと、私は通っている水ヶ原高校で生徒会長を努めている。
そして時期は新入生は胸を踊らせる入学式。私は生徒会長として新入生への言葉や式の準備などもあり、実に多忙だ。
「じゃあ聡太。戸締まりの方お願いね。私は先に行くからね」
「うん。お姉ちゃん行ってらっしゃい」
「行ってきます。」
入学式への準備などの緊張で朝からあまり心中穏やかではなかった。そんな気持ちを抑え込み私は家を飛び出す。
ドアを開けると同時に眩しい程に輝く太陽と爽やかな春風が私を迎え入れる。
「行ってきます」
私の通う高校は家から徒歩20分ほどの距離にあったので歩きながら緊張を和らげていく。その道すがら、私は親友でもある彼女から声をかけられた。
「れ〜いな! おはよう!」
「花蓮。おはよう」
黒髪ショートで着崩された制服を着ながら後ろから抱きついてきた彼女は水橋花蓮。
一年の頃に始めてできた友達で今となっては親友と呼べる仲だ。
「今日も早いですな〜流石は我らが生徒会長〜」
「もう、茶化さないの。というかなんで花蓮もいるの? 今日は朝練ないんじゃないの?」
「そうなんだけどさ〜個人的に練習したいな〜って思ってて」
「多分この時間なら一人集中できそうな気がするし」
花蓮はバスケ部に所属しておりレギュラー入りしてるほどにバスケには熱心的に取り組んでいる。
それも部活の時以外にもこうやって個人的に練習するときもたまにある。
「そっか、練習頑張ってね。私は生徒会室寄るから」
「そういえば今日入学式だからいろいろと仕事あるよね〜がんばえ〜」
「ふふ。ありがと」
学校に到着したあたりでお互い別れ、私は生徒会室、花蓮はバスケコートへ向かった。
生徒会室への扉の鍵を鍵穴に差しこんで入ってすぐに今の私に必要なモノを探す。
「あ、あった」
そう。生徒会長ならつけることが決められている腕章だ。これがないと生徒会長として締まらない。
「よし。このまま体育館に行こう。」
時間に余裕があるのかと思い腕時計で確認すると入学式開始が九時ちょうどなのに対して、時計の時間は八時二十分。
――少し余裕があるが、早めに行って流れの確認をしておくか……
「ん? あれは……」
生徒会室から退出し、ふと窓に目をやると正門辺りは新入生でいっぱいだった。
新入生達は様々な反応を顔に浮かべている。楽しそうに笑う生徒や不安で表情を曇らせる生徒。
それ以上にある男子生徒に目が引かれた。
その生徒は正に死んだ魚のような目という表現がふさわしいと言える。あれ程に気が抜けていて学校生活は大丈夫なのだろうか。
――私だって本当は彼みたいに……
彼の事を見ているとまさかの目があった。
こちらは2回の廊下から見ていたのになぜ気づいたのだろうか。
「流石に見すぎた……」
私はそんな焦りを隠すように早歩きで体育館へと向かった。
歩きながら彼のあの気の抜けた姿が今でも頭に浮かぶ。いわゆる不真面目タイプというやつだろうか。いや、あるいは……
「まぁ彼みたいな人は星の数ほどいるか……」
それより私は生徒会長としての責を果たす為にそういった考えは一度切り捨て、気を引き締め体育館へと入った。
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