第18話 再びの断罪劇(2)
気まずい沈黙に覆われる中、仕切り直すようにぱんっとリロイは手を打ち鳴らした。
「さて、パーティを楽しんでいた諸君を驚かせてしまってすまない。だが、もうしばらく私に時間をもらえないだろうか」
王太子のそんな言葉に異を唱えられる者など、誰も居ない。聴衆は固唾を飲んで、その続きを待つ。
「今回のこの件は、リーシャ嬢が勇気を出して告発してくれたことで明るみに出た。婚約者であり王家の一員でもある兄上に逆らって正義を貫くことは、決して簡単なことではない。誉れ高き彼女の英断に、拍手を!」
リロイの言葉に、気まずそうな顔をしながらも参加者たちは手を鳴らしはじめた。
もともとハロルドの取り巻きたちが多く参加しているパーティだ。今までリーシャに対して碌な扱いをしてこなかった自覚のある彼らは、王家に叛意があったわけではないのだと主張するように必死に手を叩く。
それはやがて嵐のような拍手となって、リーシャに降り注いだ。
――
破滅の
こみあげる達成感に唇を綻ばせて、カーテシーを終えたリーシャはその喜びを伝えようと反射的に右後ろを振り向いた。
――
その視線の先に広がる虚空を目の当たりにして、彼女の笑みは凍りつく。……私は一体、誰に笑いかけようとしていた?
黒いモヤが身体の中に広がるように、不安が彼女の胸に広がっていく。正体のわからない焦燥感。心拍数が苦しいほどに上がっていく。
息苦しさを覚えながら、リーシャは救いを求めるように盛り上がる会場内を見渡した。
……右。居ない。
……左。居ない。
誰を探しているのかもわからないのに、視線は会場内をうろうろと彷徨う。
「リーシャ嬢の気高き行動に私は感銘を受け……」
大衆を前にしてリロイが演説を続けているが、その声はリーシャの耳を素通りしていく。今の彼女には、そんなものに耳を傾けている余裕はない。
「リーシャ嬢!?」
気がつけば、リーシャは踵を返して駆け出していた。体当たりするように扉を開き、肩で息をしながら彼女は誰かを求めて走る。
走る。走る。走る。
驚いたように彼女を見やる周囲に目線を走らせるが、これだ、と思う人影はなかなか見つからない。それでも、彼女は走り続ける。
彼女の足を突き動かすのは、足りない、という確信に満ちた欠乏感だ。何が足りないかなんて、わからない。それでも確かに感じられるのは、自分に必要な何かが欠けていること。そして、それが取り返さなければ自分はずっとこの欠乏感を抱えていくことになるだろうという予感だ。
――涙で滲む景色を必死で見渡して。
「待って!!」
庭の木立に消えようとする背中に向けて、リーシャはあらん限りの声で叫んだのであった。
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