風説と現実

 今度の冒険の発端となった、カサという戦士の恋人を見て、最初は皆が落胆する。

 多くの者は、カサが何より惹かれる涼しげな目より、まず色あせた襤褸ぼろのような服を見る。

 そんな風に遠目に見るならば、その少女、ラシェは痩せっぽちでみすぼらしいサルコリ女でしかない。

――所詮、被差別階級の娘ではないか。

 誰もが内心そう思う。

 だがひとたび少女が祈りを始めると、そんな中傷は消える。

 無論、口さがない者が全くいなくなる訳ではないが、ひとまずは口をつぐむ。

 ラシェのまとう神秘的な雰囲気に何かを見出す者は、日を追うごとに増えている。

 サルコリたちも、自分たちの中から出た寵児として、ラシェをあがめるように見る者たちが出てきている。

 あれだけ疎んで避けていたくせに、いつの間にかラシェは彼らサルコリにとって希望の存在となっていた。

 同じサルコリにありながら、他の部族の者たちをも魅了してしまう女。

 邑を訪れる商人たちの中にも、わざわざラシェを見に来る者がいる。

 サルコリらがそのような行動に至ったのは、大巫女が語ったとされるべネスの来歴を耳にしたからである。

 サルコリは罪人やその血縁の子孫だが、ベネスもまた罪人の末裔だという。

 この話が真実だとすれば、サルコリが虐げられるもっとも大きな理由は、消滅してしまうのだ。

 サルコリの多くがこの噂にしがみつき、ベネスの多くがそれを苦々しく思う。

――この話は、かのマンテウが語られたそうだ。

 そしてマンテウからその話を引き出したカサもまた、被差別から解放へと向かう旗手として、希望とともにサルコリの間でラシェと等格の存在として崇められ始めた。

 二人はサルコリに解放をもたらす存在として、見知らぬどこかで神格化され始めている。

――サルコリの解放だなんて、そんなの私たちとは関係ないのに。

 視線に晒されたラシェは、集める視線の変質に戸惑っている。

 いつもどおりに挨拶をし、いつも通りに生活をする。

 いまだにひどい言葉を浴びせかける者も居るが、ラシェは気丈にふるまっている。

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