モークオーフ・戦士階級
カサの四肢に自由が戻る。
すぐに我に返り、カサは左腕一本で足腰にへばりついた男たちを殴りつけ、引きはがす。
「ネイド! ナダガ! 加勢しろ!」
あろう事か、ソワクは自分の部下たちに加勢の指示を出し始める。
「バズニ! ドゥガ! ツロテ! カサに道を作れ」
「おう!」
力強く応ずる声と声。
戦士長たちが躊躇いもせずソワクに従う。
みな顔には出さなかったが、ここまでの経過に、憤懣やるかたなかったのだ。
だが、じっと歯を食いしばるのもここまでだ。
五人の屈強な男たちが、目を輝かせて揉みあいの中に飛び込んでゆく。
さらに立ち上がったものがいる。
二十五人長、バーツィ。
三十代半ばの、戦士階級でもっとも真面目といわれた男が、声の限りに叫ぶ、
「カフ! イセテ! イェクス! セリブ! カサを救い出す!」
この男までもが、騒ぎにウズウズしていたのである。
何と責められようとカサは部下、それを助けるのは長たる自分の役目だ。
「おう!」
バーツィに、さらに四人の男がつづく。
その上、今一人の二十五人長、リドーまでもが、ひっそりと立ち上がり、部下に顎で促す始末。
「行こう」
「おう!」
リドーの部下で、ソワクの親友の屈強な大男、バス以下五名が、男たちの中に飛び込んでゆく。
腕っ節ならば彼らの土俵である。
仲間の危機、ここで立たずば戦士ではない。
仲間のために命をかける事で、彼ら戦士階級は存続し得たのだ。
だが最後の二十五人長、アウニだけが、膝を握り締めて耐えている。
二十五人長になったばかりの、一見淡白なこの男は、若さゆえ指導力を確固としていない。
部下の戦士長たちから急かすような目配せを受けながらも、まだ迷っている。
――せめて、大戦士長が指示を出してくれたなら……!
だがガタウは座したまま膝に手を置いて瞑目し、微動だにしない。
「戦士アウニ、何を迷っている」
アウニの迷いを振り払ったのは、カサの代わりに長として出座した、元二十五人長のラハムである。
「いけないと言うならば、大戦士長はとっくに皆を止めている」
つまり現状を放置しているならば、加勢を止められてはいないという事だ。
「行くぞ! 全員つづけ!」
晴れやかな顔で飛び出してゆく。
「よし!」
ジウカ、テクフェといった最後までおあずけを食った男たちが、勢い込んで乗り出してゆく。
「年寄りの出番ではないかもしれんが、」
ラハムまで立ち上がる。
「俺も混ぜてもらうか」
ガタウが、フ、と小さく口を歪める。
珍しい。
この男が苦笑したのだ。
そして、怒号にまみれた集団に飛び込んでゆくラハムのうれしそうな背中を、薄目をあけて一瞥する。
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