第39話 見たこともない幻の夢砂
私の反応を見て、萌恵さんも納得してくれたみたい。
どうして私の話よりも先にお母さんの話題を出したのか。
お母さんは私の力のことを知っているし、私もお母さんが作る夢砂のことは他の誰よりも詳しいと自負しているつもり。
だから、この二人が話し合ってもマジカルサイエンス部がいつも誰かを驚かせているような突飛なアイディアは出ないのではないかと。
今回持ち掛けられているお話は、魔法使いでもない二人が、夢砂だけでなく、いろいろな仕掛けを作って、学校の中にこれまで作られたことのないリラクゼーションスペースを開設するというものだ。
開設場所だけでなく顧問となってくれる先生もきちんと考えられて、私たちも中途半端な気持ちで参加はできないという覚悟もできてきた。
萌恵さんは、私から聞いたその話をずっと聞いてくれた。
「なるほど……、考えたものね。あの当時にそんなスペースがあったら、一番のお客さんになっていたかもしれないわ。それが二十年経ったとしても、放課後の過ごし方として、部活に入るか帰宅組で塾に行くかという以外の過ごし方はいくらあっても構わないはずよね。あとはその演出と運営かしら……。瞳海ちゃんは夢砂は作ってくれると言っているんでしょう?」
「はい。格安でなんて言ってましたけど、ほとんどボランティアだと思います。それに実際には練習って形で私が作ることになると思いますし」
「瞳海ちゃんらしいわね。そうかぁ、どんなお客さまが来るかわからないものね。かと言って最初から色んな種類を用意するわけにもいかないでしょうしね……」
萌恵さんは少し考えたあと、戸棚から小さな瓶とクリアファイルを持ってきた。
小瓶の中に入っていたのは夢砂。そしてクリアファイルの中に入っていたのはお母さんの手書きの調合書だ。
でも普段のものと違うと感じたのは、お店に出しているものは色とりどりの粒だけど、ほとんど真っ黒と言っていいほど。そしてそれを作るための調合書は小さな字でビッシリ書き込まれていることだ。
小瓶を手にとって窓明かりにかざしてみると、いろいろな要素がギッシリ詰まって色が重なっているからこんな見た目になっていることがわかった。ちゃんと魔法力も感じる。これは失敗作なんかじゃない。
「さすが風花ちゃんね。そう、この色は失敗作じゃないのよ。必然的にこうなってしまったものなの。私もいろいろと夢砂を見てきたけれど、これ以上の完成度を持った夢砂を見たことはないわ。そしてこれを作ったのは高校三年生だった瞳海ちゃんよ」
「お母さんが……」
「もう同じ物は作れないと言っていたくらい。文字通り
聞けば、これを作った時の桜花祭の出し物が、ロケットに乗って星空に着いたら、あとはゲストの発想に自由に合わせられるって。おとぎ話のように三日月に腰掛けてみたいというものから、宇宙人の敵を相手に戦うなんてハードなものまで、どんなイメージを浮かべられても平気なように、とにかく思いつく限りのシーンを全て網羅させたと。
それも実際に動いているように感じさせられるとか、私が聞くだけでも本当に何でもありの夢砂。
「それでも瞳海ちゃんは不安で、お客さん全員のイメージの中に入り込んで常に不具合がないかみていたの。二日間合計で約三千人分。それだけ無茶すれば寝込んじゃうのも仕方ないわ。でも誰も瞳海ちゃんを怒れなかった。その理由が『部長の裕昭くんに恥をかかせられない』だもん。だからコンテスト優勝トロフィーは裕昭くんじゃなくて瞳海ちゃんが貰うべきだってみんなで渡しに行っているのよ。たぶん聞けばおうちにはあるんじゃないかしら」
お父さんとお母さん。私からみていても、強い絆で繋がっていると今でも分かる。
でも、これを私に見せたということは、さすがにレベルは違えど、同じようなコンセプトで作ってみればいいってこと……?
私の意図を読み取ったのか、萌恵さんは微笑みながらそっと頷いたんだよ。
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