第35話 学校の中にこころ屋を作る?
私たち四人に亜友さんと光莉さんを加えた六人で学校からの道を歩く。
二人ともこころ屋の常連さんということもあって、どこに行くかの見当はついているみたい。
学校の下駄箱から十分も歩けば見慣れた建物が見えてくる。
今日の午後の時間は一年生の二人が何を考えているのかを少しずつ話してもらっていた。
そして、なぜ初代マジカルサイエンス部を吸収したドリームエンタテイメント部とは違うことをやりたいと言い出したのかが少しずつ見えてきた。
学校の放課後に、校内の居場所がない子たちのコミュニティを作りたいというのが元々の発想なんだと。
南桜高校は公立高校ながら、有名どころの私立高にも引けを取らない進学校と言われている。でもそれは全体をならしての話で、個人の成績にはもちろん個人差がある。私たち四人だってもちろんでこぼこの集まりだよ。
それと同じくらい、南桜の校風は生徒たちの自主自立が尊重されているから、各大会や桜花祭を一年の頂点にするような部活動も盛んだ。
その中で、どうしてもいろいろな理由で輪から外れてしまう生徒がいるのも確かなんだよね。
そういう子たちと一緒に話したり、笑えるようになったり、一人落ち着ける場所としてだっていい。放課後に自分の場所があって、落ち着ける空間を学校の中に作りたい。そのために夢砂という魔法のアイテムを使ってみたいというのが二人の発意だと教えてくれた。
「なるほどねー。それじゃドリエン部じゃちょっと方向性が違うか」
私も異論はない。これをきちんと話せばお母さんも協力してくれると私は確信した。
今でもときどきこころ屋のカウンセリング室でお母さんが受け持つクライアントさんの中には、当時から同い年で、高校生だった当時に挫折しかけた頃にお母さんとのカウンセリングを始めて復活。今はなんと学校の先生になって活躍している人もいる。
そこまで本格的ではなくとも、放課後に誰でも気軽に集まれる場所を作りたいっていう趣旨なら、私たちも協力してもいいとまで思うようになってきた。
あとは、どのような形で夢砂を使っていくか。それを具体的にまとめられればいいなって。
「いらっしゃい。話は風花から少し聞いているわ。夢砂を使ってみたいんですってね」
こころ屋の奥にあるジャスミンでテーブルをつなげてお母さんは待っていてくれた。
光莉さんと亜友さんがさっき私たちに説明してくれたことを話して、こころ屋の夢砂を使いたいと話した。
「そっかぁ。確認だけど二人とも魔法は使えるわけではないのよね?」
「はい」
お母さんが二人の手の上に自分の掌を乗せると、二人の顔が驚きに変わる。同じような光景は今まで何度も見てきているけれど、お母さんのことだから、もしここまで私たちに「魔法は使えない」と言っていても、素質が少しでもあれば見抜いてしまうだろう。
時間にして二、三分のことでお母さんは亜友さんたちから手を離した。
「うん、お二人が考えていることはよく分かった。学校にそういう子たち向けの場所があってもいいものね。いいわよ、わたしや風花が作った夢砂でよければ格安で卸してあげる」
「本当ですか!?」
「ええ。でもただ夢砂を置いておくだけってのも芸がないわね。やっぱり場所は固定で確保できたほうがいいし、ある程度のスタイルは整えたいわ。あと、正式に場所が固まったら、トライアルを開いて自分たちの練習がてら、活動の紹介の場を開いてみるのもいいかも」
そのためにイメージができれば環境用の夢砂はカスタムで作ってあげるとの約束までして、二人は大喜びでお礼を言って帰っていった。
「森田先生に最後のわがまま言って、空き教室を専用で使わせてもらえるように言ってみるのも手かもね。わたしたちの時代にもそういう部屋があったら放課後に通っちゃってたかもなぁ」
マジカルサイエンス部という学校史に残る部活を立ち上げたお母さんたちですら、やり残したことはあるという。
今から準備して、例えば私たちみたいに期間限定の部活として立ち上げるとしても三学期いっぱいは準備にかかってしまうだろう。その間マジカルサイエンス部としては活動閑散期だから、オブザーバーとして手伝ってもいいかもだって。
彼女たちはまだ一年生だから、春になって二年生になる時までに立ち上がればいい。
「いいじゃない。学校の中で物を売ったりすることはできないけれど、リラクゼーションルームを作るというならこころ屋を参考にすればいいじゃない。そういうコンセプトでこのお店って作られているから」
「そっかぁ。ここをイメージすればいいのか。でもそれって結構大変じゃないか?」
海斗くんも言うとおり、三学期はあっという間に過ぎていくのが毎年の感覚だから、それだけのものを作るならのんびりもしていられない。あの二人の意向もあるけれど、年明けからは新しい取り組みが始まるような予感がしていたよ。
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