第34話 冬休みの相談
桜花祭も終わり、二学期授業もすべて終わって学校の中は静かになっている。
それは私たちマジカルサイエンス部にとっても事情は同じ。
もともと期間限定の活動だから、他の部で行われていた部長の世代交代なども私たちには無縁だからね。
ただ引き継がれた伝統というのもあって、当時からマジカルサイエンス部は学校の長期休み期間にも理科室で課題を終わらせていたこと。
その時代は上級生が下級生をフォローしていたことも有名だったみたいだけど、今回は違って私たち全員が同い年。得意科目だって四人それぞれ違う。科目によっては全員が微妙だったりする。
そんな時には森田先生の存在が大きかった。夏休みも私たちが昔の伝統にならって桜花祭の準備と並行しながら理科室で課題を片付けていたことを見ていて、理科室の空調の手配とか、職員室に入るハードルを下げてくれたし、どの教科担当の先生がいつ出勤しているかなども教えてくれたりと便宜を図ってくれた。
それは冬休みにも続いていて、海斗くんが掲げた「年内には学校から出された課題を終わらせる」という目標は何とか達成できそう。
そんな冬休み中の理科室のドアをノックする音がした。
「どうぞ」
ドアの外には昔から使われていた「マジカルサイエンス部」の看板をぶら下げておいたから、私たちが理科室に集まっていることは誰でも分かる。
「はじめまして。森田先生に聞いたら先輩方が理科室にいると聞いたので来てしまいました」
学年色を見ると高校一年生の女の子二人だ。
「今年の桜花祭、本当に驚きました。魔法であんなことが出来ちゃうなんて」
二人とも春先の部活動紹介は見ていてくれて興味は持っていたものの、海斗くんが言っていた追加部員は採らないという言葉で一度は諦めていたそう。
ところがそれから半年後の桜花祭では学校のプールで魔法を活用したイルカたちとのステージを見てからは、「あんなに面白い事ができるなら」と入部熱が再発したようで、森田先生にも直談判しに行ったんだって。
そこで、森田先生からは今の部員が奇跡的に初代メンバーの子どもたちで、四人中三人が魔法使いであること。マジカルサイエンス部の復活自体が生徒会側からのお願いで、彼女たちも観た桜花祭のためだったこと。そして自分の退職が来年度に控える中で、メンバーも後に不安定な状態で後輩を残さないように、最大で来年度の終わり、実質的には次の桜花祭で活動を終了することを説明してくれたそうなんだ。
「ドリームエンタテイメント部とはまた違うことをやってみたいってことなのかな? もともとマジカルサイエンス部はあっちに吸収される方で合併したから、正当な後継とすればあっちなんだけどね」
「はい。私たちは二人とも魔法使いではないですけれど、なんかこっちの方が楽しいことができそうというか、私たちみたいにインドア派でも夢砂を使って何かできそうかなって思って」
「夢砂を知ってるの?」
「はい。こころ屋にはいつも行っていますので」
「こころ屋と夢砂を知ってるのか……。風花、これは瞳海さんに相談してみるのも手じゃないか?」
みんなが私を見る。今でもこころ屋の夢砂のほとんどをお母さんと私が作っている。それを知れば二人の熱がさらに上がりそうということは想像できた。
夢砂にも普段お店で売っているような、誰が使っても危なくないものもあれば、魔法の込め方次第ではそうでないものも作れてしまう。
彼女たちは自分で作ることはできないというなら、オーダーされたものを作って渡すというのが主なお願いになるだろう。果たしてそれが許されるのか。同時にそのような形で活動をするならば、部活として認めてもらえるかなど、疑問点は絶えない。
でも決して興味本位だけではないということは話を聞いたり表情を見ても分かる。
まずは二人が言っているように、夢砂でどの程度のことができるのだろう。それにはお母さんの判断も必要になると思った。
「……今日は二人ともお時間ありますか?」
私の言葉にマジカルサイエンス部の三人も含めて視線が私に集まる。
「森田先生の言っていることは本当だし、二人の気持ちもよく分かる。部活をつくれるか、または同好会のレベルになるかは、二人に任せるとして、まず夢砂でどういったことをやりたいのかのイメージをこころ屋で話してもらえないかな」
お昼の時間が過ぎてお店が落ち着いてくる午後三時に、全員でこころ屋に向かうことにしたんだ。
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