第26話 そう、今年は理科室じゃない!
八月の上旬、とうとう春奈ちゃんのお家から、プールの中に入れる「生き物」たちが全部出来上がったとの報告を受けた。
学校の水泳部はお盆を過ぎると校内プールは使わなくなるから、あとは私たちが自由に使えることになっている。
「あ、マジカル部がプール掃除してる。そうか、今年は理科室じゃないんだ」
私たちは感覚をつかむために、何度かプールサイドの掃除をしていた。直前には全部水を抜いての大掃除もするのだけど。
外から聞こえてくる声のとおり、今年のマジカルサイエンス部の展示場所は理科室じゃない。あそこは私たちの休憩室として確保してあるだけ。
水泳部がいない時は森田先生監視という条件付きとはいえプールの中で泳ぐことにも許可を取っていたから、今年のメンバーがどの程度泳げるのかなどの確認をしていた。
その週末、私たちは再びジャスミンのお店の方に集まった。
学校ではこの歓声なども聞かせたくないと、萌恵さんとお母さんが言うもんだから……。
「これ、絶対に言っちゃダメよ?」
「もったいぶっちゃって……」
ところが、その私ですら次の言葉が見つからなかった。
「すげぇ……」
「春奈ちゃん、こんなことまで出来ちゃうの?」
モニターに映し出された映像は、イルカの上で立って、プールを自在に移動していたり、イルカの口に足を押してもらって、水面からプールサイドに飛び移ったりを練習している動画だったから。
もちろん、このイルカたちは本物ではなくて、お母さんと萌恵さんが動かしているはず。でも、奏天さんを含めた魔法演出班(お母さんたちが自分で名乗ってるんだけどね)は、実際に水族館に行って、水上だけでなく水槽の下の窓から水の中の動きも一日中見たり動画に収めてきた。その甲斐があってか、シリコンで作られているはずのイルカが活き活きとプールの中を泳ぎ回っている。
「本当に人魚が遊んでいるみたいね」
それ以外にも、フラフープを使った輪くぐりの練習や、ボールを吊るしてどのくらいの高さまでなら自然にジャンプと着水ができて、こういうショーではお約束でもあるどのくらいの水しぶきがかかるかなども映像として納められていた。
「すっげぇ……」
海斗くんの感想はほかの全員も同意だ。
「その声を学校ではまだ聞かれたくなかったので今日はこっちにしたの。春奈ちゃんはもうほとんどイメージが出来上がっているわよ」
「場所は割れているからいいとして、切り口をこう変えてきているとは、エンタメ部も思ってないだろうしな」
お母さんたちの話だと、プール周りのディスプレイの設営を含めた準備は本番の一週間前だということ。
ただ私たちはそこから本番まで持っていかなくてはならないから、ステージとして完成させるための練習時間は決して長くない。
「ちょうどその頃は中間テストが終わって、各部活とも準備にラストスパートをかける時期だから持ち込むにはそこしかないか。あの二人も分かっているな」
それでも祐一さんは満足そう。
「毎回そんな感じだったよ。本当に出来るのかヒヤヒヤしながらだったけれど、みんな完璧に仕上げてきた。エンタメ部の動きは見えてるかい?」
「昔、生徒会から却下されたことがある自作ジェットコースターを作るらしいです」
「おぉ」
「ついにやるんだぁ」
聞けばその企画も当時出されたけど、安全審査を受ける時間がないとかで断念したんだって。だから今回はその時間の余裕まで見て夏休みに入ってからも毎日のように作業を続けているのを見てきた。
「昔からあそことはコンセプトが割れるんだよな。今回は遊園地と水族館というところか。当日が晴れれば暑いから水しぶきで勝てるんだけどな……」
いつの間にかお父さんまで話に加わっている。
「これ、一週間で完璧に仕上げるのは、いくら風花ちゃんたちでも厳しいわよ。夏休みの間にある程度のイメージつかんでおかないと」
「それもそうだな……」
祐一さんは萌恵さんから言われてすぐにスマホを取り出した。
「冬馬か? 僕だ。いま瞳海と萌恵がイルカを動かしている動画を見ている。春奈ちゃんはすごいな。本番でも頼むぜ。あれを今回のメンバー全員とはいかなくても、ある程度のイメージはつかませたい。二日間くらいで合宿みたいなことはできるか? ……今回のメンバーは最低限だ。頼む。連絡を待ってる」
この行動力と決断力が凄いんだよね。それは海斗くんを見ていても分かる。このご両親がいれば、普段の行動にも納得しちゃうんだ。
十分もしないうちに、今度は祐一さんのスマホが鳴る。
「お盆なら屋内プールは使わないって好都合だ。そこでスケジュールを押さえてくれないか?」
そんな話がトントン拍子に進んで、私たちは二泊三日の合宿をすることになったんだよ。
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