第25話 他力本願でもいいじゃない!
夏休みも八月に入った金曜日の午後、理科室には続々と懐かしい顔ぶれが集まってきた。
「うわぁ、ここでやらかしたんだよなぁ」
「生徒会が慌てふためいていたのが快感だったな」
「また、そんな勝手なこと言って。今回はそれ以上のことをやるんでしょ? 瞳海の中にはイメージがあるようだし」
最後にやってきたのが、那須から到着した春奈ちゃんたちの三人だ。
「お待たせしました。皆さんに見てもらいたいものがあるので、それを持ってきました」
「ジオラマ?」
「黒板に絵で描くより、簡単でも模型を見てもらったほうが早いと思って」
五十センチ四方のボードの上に、プールが作ってあって、その中に魚やイルカたちが自由に泳ぎ回っている。
プールサイドにいるのは私たちメンバーだと思う。
「物があると説得力あるなぁ」
「これは現在の状態を正確には作っていません。あくまで私たちが覚えているイメージです。今日は寸法を測る道具とかも持ってきたので、ここにいろいろ紙で付け足して、アイデアを固めていきませんか?」
「まったく、あのオンラインの会話だけでこれ作っちゃうんかよ」
「あの時から瞳海先輩のイメージがかなりしっかりしていましたからね」
「じゃぁ、これを頭に入れたとして、現地調査と行こうじゃないか」
やっぱりどっちが主役なのかわからない。そもそも人数も私たちは四人なのだから、サポートメンバーの方が多いんだけどね。
「今年はマジカルサイエンス部、復活したのはいいけれど、夏休みに入っても作戦が見えないって言われてます」
その声は私も聞いている。特にドリームエンタテインメント部は気になるんだろうね。あちらも今年は学校が創立五十周年記念なのは分かっている。だからそれなりに派手に仕掛けてくると思う。部活動コンテストは例年どおりだろうから、突然復活した私たちに負けたくないという気持ちはわかる。
「それでいいのよ。あの当時は夏休みに入ったら体育館と特別棟だけは大騒ぎだったからね。少し拍子抜けさせておくくらいで。当日は負けないんだから」
一番冷静な萌恵さんも面白そう。一年目は一緒に参加して、その次の年はゲストでお土産を持ってきてくれたって。
でも、今回はもう一度、昔のように「やる側」に回れるとあって、影武者とはいえ年齢関係なくみんな張り切っているのは間違いない。
特別棟から渡り廊下を通って、屋外のプールは静かに私たちを待っているようだった。
「おっ、これは思った以上に条件がいいな。いろいろ仕掛けられるぞ」
冬馬さんがプールを一目見て目を輝かせる。
「瞳海先輩の言っていたとおり、観覧席がついたんですね。これなら本物の水族館みたいにできるかも」
「ざっと百五十人か。それにあれをつければ収容力は何倍にもなるな」
冬馬さんは白い棒を持った春奈ちゃんに何か所かに立ってもらって、手持ちの機械で何かを計測してはメモ帳に書き込んでいく。
森田先生にお願いしてプールの鍵も借りていたから、プールサイドの長さも測っていく。
「森田先生、この部屋も使って大丈夫ですよね?」
そこはベンチが並んでいるスタンドの隅にある道具用の小部屋のことだ。
「使った後をもとに戻してもらえるなら好きにして構わんとしか言われてない。好きにやれ」
「みんな、プールの深さはどのくらいあるか覚えてる?」
「さすがに二メートルはないと思いますけど、一番深いところで祐一先輩が全部沈めるくらいでしたよね」
「そのくらいか……。あまりイルカをでかくできないな」
「バンドウイルカだけじゃなくて、もうひとつはカマイルカを作ってみる。小型だけどジャンプ力はあるし。まぁ、その加減は先輩たちがどうにでもしちゃいそうな気はしますけど……」
そうなんだ。実際の生き物が飛び跳ねまわるわけじゃない。その辺はお母さんたちが好きなようにやるだろう。……ていうか、もうプールの中で泳がせる生き物たちの制作に入ってるんだ。
当時はすべてを理科室の中で準備するしかなかったけれど、今回は大道具は春奈ちゃんのお家という秘密基地で進めることになっているんだと。
理科室に戻った私たちは、理科室にある道具とか紙を使ってさっきのジオラマにいろいろとオブジェを追加していく。
春奈ちゃんのお父さんが、何を測っていたのかここでようやく分かった。
プールサイドに入れるお客さんには人数の限界があるし、水の中の様子はわからない。
そこでプールの内壁に小型カメラを取り付けて、それを外側に並べたディスプレイに映して、あたかもガラスの水槽のように見せる仕掛けで、どのくらいの画像パネルを何枚並べればいいのか計算していたんだ。
これには私たちも想像していなかったし、そんな大きなスケールになるなんて考えてもいなかった。
「あの当時も好き放題やったけれど、ますますいたずら好きになったんじゃないか? またエンタメ部との頂上決戦になるぞ?」
この話に私たち以上に呆れているのが森田先生だ。
「あの当時は理科室の中でプロジェクションマッピングを使いましたからね。屋外で昼間だと画がぼやけるので、こっちのほうがいいと思います。パネルのレンタル先にはもう話しを入れてますから、その準備は任せてください」
「あとは役者だな。四人とも泳げるか?」
まだイルカたちにどんな芸をさせるかは決めていないけれど、私たちがプールに入るならば泳げることが必須だ。
「春奈、あなたも出ちゃいなさい。あれだけ泳げるんだし。きっと忘れられない思い出になるわよ」
聞けは、喘息のリハビリとして春奈ちゃんは水泳を習っていて、その実力は校内はもちろん、県大会などでも他を寄せ付けないというんだ。
あんなに大人しそうな見た目の春奈ちゃんが表彰台の常連だなんて! これこそ人を見た目で判断しちゃいけないと思ったよ。
「え、いいんですか?」
「それは大丈夫。サポートゲストってことで、名前を登録すれば参加は大丈夫だから。ここの初期メンも全員参加だから、すげぇことになるぞ?」
もうここまで来たら他力本願でもいい。みんなが期待するなら派手にやろうと私も覚悟を決めた。
「あとは二日間で何度も水に入るなら風邪を引かないようにしないとね」
それももっともな話だ。さすがに屋外のプールだから、水温は天気に左右される。
「だったら、風を通さないようにウエットスーツでも着てみるか?」
「それなら近所の知り合いのダイバーショップに話してみるっすよ」
咲来ちゃんのお父さんである洋二さんの言葉がきっかけに冬馬さんが答えて、とうとう最後のピースがはまっちゃったんだよね……。
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