第23話 今年のメンバーでもやれそうだね
今年はゴールデンウィークが長かったのと、終日好天が続いたこともあって、私たちメンバーは何度か閉館後の科学館に入れてもらって、リハーサルもしてみた。
「まぁ、初回の活動としてはそんなものでしょう。そこで反応を見ながらね」
お母さんと萌恵さんの声がする。
理屈は分かっていたけれど、それを実際にやるのとは大違い。
萌恵さんが実際に盲目だったときとは違い、今のメンバーではハンディキャップを持つと言えば杏子さんくらいだ。
練習が出来ないという不安をお母さんに言ってみたら、リハーサルをしてみようと、こころ屋の閉店後に杏子さんが補聴器を外して、萌恵さんが学生時代からのお友だちだという人を車で連れてきてくれた。傍らには盲導犬を連れているから間違いない。萌恵さんが説明も事前にしてくれていて、役に立てるならと逆に楽しみにして来てくれたって。
そこで当日と同じように、視覚と聴覚に分かれて庭から見える本物の夜空を練習材料にして試してみたんだよ。
「うん、風花ちゃんの声は十分に伝わる」
「海斗くん、もう少しピントをハッキリさせられる? いつもと違って星空だから、力の入れ方が難しいと思う。萌恵先輩、ヘルプに入ってもらえますか?」
「やっぱり風花ちゃんは瞳海の子だもんねぇ。素質は一番よね」
海斗くんの視覚サポート班も萌恵さんが少し力を貸すとハッキリとした画像が送られるようになったとのこと。
「萌恵、なんでこんなに面白いことが出来ること教えてくれないのよ!」
「魔法って言葉はどうしてもイメージが人それぞれでしょ? だから、きちんと理解してくれている人の前でしか出来ないのよ」
「もったいないなぁ。これなら絶対大丈夫。本番も頑張ってね!」
そんなお墨付きを頂いて、今日はその本番。
このイベントは科学館でも実験的なものだということで、約束どおり四家族に参加者を絞ってもらった。
「それでは始めましょうか」
今回のデモンストレーションでは、魔法が使えるメンバーは全員パフォーマンスの担当となるうことから、咲来がプレゼンターを務めることにした。
「こんばんは。私達は南高校の復活マジカルサイエンス部のメンバーです。今回はお試し企画ということにもかかわらずお集まりいただきましてありがとうございます」
ゆっくりと話す咲来にあわせ、母親でもある杏子がそれを手話にして通訳していく。
「それでは、これから皆さんに不思議な体験をしていただこうと思います。私達のスタッフがお隣にいると思います。両手を繋いでいただいてよろしいでしょうか」
四人の参加者が恐る恐るマジカルサイエンス部のメンバーと手を繋ぐと、一斉に歓声がわいた。
「咲来ちゃん、続けて大丈夫。今のペースで大丈夫よ」
杏子さんと萌恵さんの両方からOKが出て、咲来ちゃんは続けた。
「普段とは違う感覚に驚かれたのではないでしょうか。これは皆さんと手を繋いでいる魔法使いのメンバーが、皆さんに声や見ている画を送っています。ですから、手を離さないでくださいね」
もうこの時になると杏子さんの手話もいらない。
全員で椅子に座って、夜空を見上げる。
本当は盲目の子たちは見えていないのだけれど、顔を上げているところを見ると、そんなことは忘れていて、星がきらめく夜空はきっと生まれて初めて見た星空だったのだと思う。
途中までは咲来ちゃんも台本に沿ってお話をしていたのだけれど、一通りの説明が終わると、そこから先は自由時間にすることにした。
少し離れたところに設置してあったテントの下では、子どもたちの親御さんがみんなお母さんたちにお礼を言っていたって。
その時の驚きと興奮を身をもって知っているのが杏子さんだ。
「私も、この先輩方に会って全く同じ経験をしました。私は今でもハンデは持っていますけれど、あの一日で人生がガラッと変わりました。今日参加しているみんなにも同じような体験ができるといいのですけれど」
魔法使い部隊のおまけとして。もともとは星座を結んだ線を結ぶだけだったのが、そこに神話でよく見るイラストまで被せて、再び歓声が沸いた。
「風花ちゃん、そろそろ時間よ」
「分かりました」
私は咲来ちゃんに合図をして、時間の終了を告げるだけでなく、お土産を渡すように伝えた。
「今回来てくださったお礼として、今日実際に見上げてくださった星空をカードにしました。声をサポートさせていただいた方のカードには、そこに触ってもらうと説明が直接聞こえてくるように。見ることをサポートさせていただいた方にはカードに触ると、この星空が頭の中に浮かぶようにそれぞれ魔法をかけてあります。どうぞ、科学館でもこれからもイベントを行っていくと言っていますので、ぜひ楽しみに参加してみてくださいね。きっとまた私たちがお手伝いに入ると思います。今夜は遅い時間までありがとうございました」
誰もが満足したように、参加したメンバーとその家族からも拍手が起きてイベント自体は終わったのだけど、誰も帰ろうとしない。
「あの日の私と同じですね。瞳海先輩ともっと話したいって思って、最後まで残っていましたから」
杏子さんは小学六年生のあの日に科学授業を受けたことが忘れられないと言う。
「そうだったね。それで待っていてくれたからって夢砂におまけしちゃったんだっけ」
「一晩、本当に夢の世界でした。どこの誰だか分からないお姉さんなのに、あんなことができる素敵な人の近くに行きたいって、まず先輩方の学校を探すところから両親を困らせましたけどね」
二人とも懐かしそうだ。それまで髪で補聴器を隠すように着けていたのだけれど、恥ずかしいことじゃないと外からも分かるように髪の毛を縛るようになって、それで興味を持った子や同じような難聴の子とも輪が広がった。
なにより、中学生に上がる時に南桜高校に併設で中学校ができると聞いて、学区外通学に加えて電車通学を選んだほど。
「まだ、あの時の簡易プラネタリウムは持ってるんですよ。瞳海先輩と一緒に作った記念品です」
「今だから言っちゃうけど、マジカルサイエンス部の入部選抜、杏子ちゃんはエントリーしてくれたと分かっただけで合格だったんだよね。誰も文句言わなかったよ」
このメンバーにまたどこで会えるのかを聞きたがる子が多くて、こころ屋の話をしたり、「また会いに来ます」と手を振りながらひとりずつ参加者が帰っていった。
「これ、また夏休みは忙しくなりそうだな」
海斗くんが苦笑いしながら荷物を片付けている。
当時のマジカルサイエンス部の夏休みも出張科学授業の準備をしながら、手分けして秋の桜花祭の準備をしていたって。
確かにこの秋が南桜高校創立五十年記念。そのためにマジカルサイエンス部が期間限定で復活した。だからやるなら今年なんだ。
「大丈夫。みんな大人だってやりたくて仕方ないんだから、風花ちゃんが心配する必要はないわよ」
奏天さんが笑っていたけれど、それが私の想像を斜めに突き抜けることになるとは、その時の私は思ってもいなかったんだ。
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