第21話 このメンバーだからできる
四月最初の大仕事を乗り切り、正式に活動を開始した私たち、マジカルサイエンス部。
あの部活動紹介のデモンストレーションには続きがあって、あのあとに顧問の森田先生のところに入部希望者が何人も直談判に来たそうなんだ。
そこで、先生は自分の引退を理由に残してしまう部員を作らないこと。二十年前の反省をもとに規模を拡大しないことを告げて謝ってくれていたと。
「確かに今年が創立五十周年なんだけど、うちらが参加する桜花祭は二回。今年派手にやりすぎると来年が拍子抜けしちゃいかねないから、そこのバランスは難しいな」
過去の騒動話はみんな詳細に聞いている。どちらも特別教室棟を混乱に陥れた大イベントになってしまった。現在も存続している「ドリームエンタテインメント部」との直接対決にはしたくない。
自分たちと同じ時に引退する森田先生の花道のためにも、私たちはそんな迷惑をかけるわけにはいかないと決めていた。
「それよりも先に、今日の科学館の依頼を何とかしなくちゃな」
博史くんの言葉で現実に戻った理科室。
毎年ゴールデンウィークは科学館でも夏休みを見据えたおもしろ発見授業が行われていて、二十年前のお母さんたちもそれに頭をひねった経験がある。
その結果として、当時はまだ小学生だった咲来ちゃんのお母さん、聴力に難があって孤独がちだった杏子さんの人生が変わって今もこうして変わらないお付き合いが続いている。
そのことを科学館も覚えている。だから、昼間の一般的なプログラムは、マジカルサイエンス部から授業を引き継いだドリームエンタテインメント部が引き継いでいる。
でも、そこにはあの当時のような強力な魔法使いをメンバーとして抱えていないから、どうしてもできる事に限界がある。
そこに私たちが当時と同じ名前を掲げて再興したことを待っていたかのように、逆指名で特別授業の依頼が入ったのは前にも話したとおり。
その中身とは、自然の星空観察をマジカルサイエンス部のメンバーとして実施できないかというものだった。
対象は、主に特別支援学校に通っている子たちの中で、聴覚や視力に不自由を持っている子たちだってこと。
これまでは、そういうものがあったとしても、実際に説明を聞くことが出来ないだけでなく、星空を見上げることができなかった。
科学館のある立地は、大きな通りがある割には丘陵地の奥なので、街明かりが邪魔にならず、普通の日でも都内とは思えない空を見上げることもできる。
これをどうにかして見せてあげたい。それが科学館の職員の間でも悲願だったという。
そこで、話を詰めるために科学館の休館日でもある月曜日にこの企画を勧めている担当の方に聞いてもらうために、南桜高校でそんな企画が実際にできるかの打ち合わせを行うことになった。
「それなら、杏子と萌恵、それに瞳海と奏天も揃えたほうがいいんじゃないか?」
そんな森田先生の提案もあって、このあとの理科室は来客が予定されている。
「こんにちは。みんなも最初から難題を持ちかけられたわね」
萌恵さんの声がしてドアが開く。
その魔法の力は、春先の春奈ちゃんの事件を解決した場面を見てきた私たちに説明は必要ない。
「当時も今も魔法使いの存在は知られていたけれど、それを逆手に取った部は斬新だったからな」
お母さんたち三人も森田先生に久し振りの挨拶を済ませている。
続いて科学館の担当の方が見えられたと連絡があって先生が迎えに行く。
「お邪魔いたします。この度は難しい問題を考えていただけるそうでありがとうございます」
担当の方は、私たちの中に大人になった杏子さんがいることにすぐに気づいた。
「あの時に参加頂いた方ですよね? まだ小学生だったと……。時間の流れは早いですね」
「はい。あの時のご縁から、今日も呼び出しがかかったくらいですからね」
「皆様からご指名のあった、このマジカルサイエンス部ですが、今年偶然にも当時の学生たちの子が四人揃いまして、その中にご存知の魔法使いが三人、当時のメンバーも卒業生として参加することが可能です。何をお手伝いすればよいのか、私たちでどこまでできるのか、まずはお話を聞かせてもらえますかな」
多分この中では最年長になる森田先生が進行役となり、企画案の概略を話してもらった。
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