第14話 本当に高校生?と聞かれても仕方ないか…
「わぁ、やっぱり可愛い……。というより、『こころ屋』って、同じような外観じゃない?」
バスを降りて、イングリッシュガーデン風のアプローチを登っていくと、レンガ造りの外観の建物が見えてくる。
「まぁ、形は違うけど似たような雰囲気よね。あの家はわたしたちが生まれる前に建てられたものだから」
建物は二階で繋がっていて、アプローチから右側が入口。
春奈ちゃんがスマホを取り出して、割引のクーポンを提示してくれて、お母さんが入場料の全員分をまとめて出してくれた。
「たまには親らしいことさせてよね」
「わぁ〜!」
事前に見ていた写真のとおりだな。やはりここに元気盛りの高校生の男の子をいきなり連れて来ちゃ駄目だなと思った。子供連れの親子だったり、お互いに十分理解し合ってからのデートだったらおねだりしてもいいかもしれないけど。
そのくらい、テディベアミュージアムの中はシックな色合いの家具や飾り棚の中に色や形が様々なクマのぬいぐるみが所狭しと並んでいる。
「クマさんたちの結婚式だね。いろんなクマさんが並んでるし」
「春奈ちゃん、あそこに並んでみてよ。めちゃ写真になるから」
「えー、私ばかりじゃなくて風花ちゃんもですよぉ」
「そういう時は三人で入ってくれば? スマホ預かるから」
萌恵さんに言われて、三人で向かい合って斜め前のゲストを迎え入れるように立っているクマのぬいぐるみの間に入って思い思いのポースをとる。
「そうね……。春奈ちゃんが真ん中に立って? 風花ちゃんと咲来ちゃんが両側に。身長も合わせてみて?」
萌恵さんの注文にお母さんも笑っている。
「ほんと、この三人が並んだ写真なら姉妹みたいね」
「でしょう? 雰囲気もよく似てるし」
三姉妹で順序争いが起きないように、身長を一番低い春奈ちゃんに合わせたのだと分かる。
萌恵さんはそういうことをさり気なく感じ取ってしまうのだ。
大人二人はその後も、「可愛い!」を連発する私たちをスマホで撮っていた。
二階に上る階段を上がると、一階とはまた別の世界。
昭和三十年代の所沢を舞台にして、子供たちと森に暮らす可愛いお化けたちとの触れ合いを微笑ましく描く大ヒットアニメ映画の特別展示になっている。
私たちが住む都内の公園にも、それらをテーマに集めた美術館がある。何度か行ってはいつも童心に戻って来る大好きな美術館。
そのうちの一部を切り取ったような静かな空間。
その映画作品のテーマ曲がオルゴール調になってBGMとして流れている。
その調べを聞きながらジオラマを見たり、展示されているアトラクションで遊んだり(だって、入り口と書いてるドアが開けば入ってみたくなっちゃうじゃない? 私が人一倍幼いのかな……)。
「小さい頃から、このネコバスって本当に乗ってみたかったんです。この歳になって叶っちゃいました」
春奈ちゃんも咲来ちゃんも大はしゃぎ。
「はいはい、全員集合」
萌恵さんも笑っている。頭の上の窓は二つしか無いから、咲来ちゃんと春奈ちゃんに譲って、私は大きなネコの顔の横に立って、三人で頭をなでているようなポーズ。
「この顔、学校で見せたら何ていうかしらね。小学生に間違われるかも?」
こんな写真が学校で知られたら。でもこの中でやっぱり見た目で一番可愛いのは春奈ちゃん。彼女が南桜に来たらすごいだろうな。
「それでもいいですよ。私も風花ちゃんも学校で実際より年下に見られることも多いですし」
「咲来ちゃんは早生まれだから、アドバンテージあるけど、私が幼く見られるのは成長してないってことでしょぉ? まぁ……、出るとこも出てないもんなぁ。お母さんの遺伝かなぁ」
「あら失礼な。私だってそりゃ欲しかったけれど、奏天と二人で『無い者同士』でしたもんね、萌恵先輩?」
「そうねぇ、瞳海ちゃんも奏天ちゃんも体型で男子を引き付けるタイプじゃなかったわよね。あのセーラー服だって、最初は中等部の入学パンフレットを作るために似合う子って選ばれたんだものね」
「そうだったの? それ知らない! 高校一年で中学受験向けパンフレットのためだなんて、どれだけ童顔だったの?」
身長は用意されていたサイズの中でも一番大きいものだったって。あぁ、やっぱり私の体型も顔もお母さん譲りだったってことか……。
他にお客さんもおらず、みんなでワイワイ言いながら、併設ショップに行くと、思いがけないものが置いてあった。
「これ、うちのぬいぐるみに使える洋服だ」
「そうね、風花も放さなかったからだいぶ汚れちゃってるけど。このシリーズだから合うはずよ」
私が小さい頃に、お母さんから買ってもらったウサギとクマのぬいぐるみが私の部屋においてある。そのお洋服が着替えパーツとして売っていたから。
「両方ともお着替え買っていく」
「あらあら。やっぱりこういうところは風花ちゃんも女の子よね」
萌恵さんも笑っていて、他の二人もそれぞれお土産を買ってから、階段を降りて喫茶エリアに入った。
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